○共有物分割請求及び遺言無効確認請求事件で,原審は共有物分割の訴えを却下したが,上告審が,共有物分割の訴えは適法とし,同部分を破棄して差し戻し,差戻審は,本件遺言により,被相続人死亡時点で,原告X1が本件不動産の持分3分の2,同X2が持分6分の1を確定的に取得し,被相続人より先に死亡した相続人に相続させると遺言された持分6分の1は,原・被告らの遺産共有状態にあり,それを前提に競売を命じ,その売却代金のうち,遺産共有状態にある6分の1を法定相続分に応じて交付し,その余を原告らに交付するとした平成28年1月15日東京地裁判決(LLI/DB判例秘書、ウエストロー・ジャパン)を紹介します。
亡夫━┳━亡A(h20.11.13死去)
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X X B━┳━
1 2 ┃
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Y Y
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主 文
1 別紙物件目録記載の各不動産について競売を命じ,その売却代金から競売手続費用を控除した金額を,次のとおり交付する。
(1) (被相続人Aの遺産に属する持分の換価分)
原告X1に18分の1,原告X2に18分の1,
被告Y1に36分の1,被告Y2に36分の1
(2) (その余の持分の換価分)
原告X1に3分の2,原告X2に6分の1
2 訴訟の総費用は,被告らの負担とする。
事実及び理由
第1 当事者の求める裁判(共有物分割の方法)
1 原告ら
別紙物件目録記載の各不動産(以下,併せて「本件不動産」という。)について競売を命じ,その売却代金から競売手続費用を控除した金額(以下,単に「売却代金」という。)を,原告X1(以下「原告X1」という。)に3分の2,原告X2(以下「原告X2」という。)に6分の1の割合で分割し,その余の6分の1は原告ら及び被告らの相続分に応じた割合で分割する。
2 被告ら
(1) 本件不動産を被告らの持分各2分の1の割合による共有とする。
(2) 原告X1は,被告らに対し,それぞれ本件不動産の被告持分12分の4について,共有物分割を原因とする持分全部移転登記手続をせよ。
(3) 原告X2は,被告らに対し,それぞれ本件不動産の被告持分12分の1について,共有物分割を原因とする持分全部移転登記手続をせよ。
第2 事案の概要
本件は,原告らの被告らに対する共有物分割等請求事件及び被告らの原告らに対する遺言無効確認等請求事件について,上告審において,差戻前控訴審の判決中,共有物分割請求に関する部分が破棄され,当裁判所に差し戻された事案である。
1 前提事実(争いがないか,後掲証拠及び弁論の全趣旨により認められる。)
(1) A(以下「A」という。)は,本件不動産(平成3年新築の自宅及びその敷地)を所有していた(甲1,2)。
(2) Aは,平成20年11月13日,死亡した。
Aの夫は,Aより先に死亡しており,Aの子は,原告X1,原告X2,B(以下「B」という。)の3名である。
Bは,Aに先立ち,平成14年4月27日に死亡しており,Bの子は,被告Y1(以下「被告Y1」という。),被告Y2(以下「被告Y2」という。)の2名である。
したがって,Aの遺産についての法定相続分は,原告らが各3分の1,被告らが各6分の1である。
(3) Aは,平成8年12月3日付けで,次のとおり記載した遺言書を作成して,自筆証書遺言(以下「本件遺言」という。)をした(甲3)。
「 X1様 X2様 B様
私も八十才を過ぎて何時死を迎えてもよい年になりました
皆様には永い間大変お世話になりました おかげさまで私は今日まで幸な日々を過してまいりました これも亡夫のおかげで不動産を遺して頂き何不自由なく暮して来られたと深く感謝しております
私の死後遺産を分けるに付き法律上X1には2/3,Cには1/6,Bには1/6分けて下さい 不動産は売らなければ分けられないと思いますがまだ新築で売るのは勿体ないので三人話合で分けて下さい X1にはA家を相続させます 又Dもいる事ですからお墓のお守をして下さい
その他の遺産はわづかに預金がありますが葬儀の費用に使って下さい
X1に一任致します
土地八十五坪 木造家屋二階建一棟 以上」
(4) 本件不動産については,平成22年7月16日に,平成20年11月13日相続を原因として,原告X1持分12分の8,原告X2持分12分の2,被告ら持分各12分の1とする所有権移転登記(以下「本件登記」という。)がされている。
2 訴訟の経過
(1) 差戻前第1審は,①原告らの被告らに対する本件不動産の共有物分割請求に係る訴えのうち,本件不動産の被告ら名義の持分6分の1について共有物分割を求める部分を却下し,本件不動産の原告ら名義の持分6分の5についてのみ競売による分割を命じ,②原告X1の被告Y2に対する祭祀供用物引渡請求を認容し,③被告らの原告らに対する本件遺言の無効確認請求を棄却し,④被告らの原告らに対する本件登記の抹消登記手続請求を棄却した。
これに対し,被告らが,原告らの訴えをいずれも却下し,被告らの請求をいずれも認容することを求めて控訴した。
(2) 差戻前控訴審は,①原告らの共有物分割請求について,原判決中,本件不動産の持分6分の5について競売による分割を命じた部分を取り消し,この部分に係る訴えを却下し,②その余の請求については,被告らの控訴を棄却した。
これに対し,原告らが,原告らの共有物分割請求に係る訴えを不適法とした判断の誤りを理由として,上告受理申立てをし,受理された。
(3) 上告審は,原判決中,原告らの共有物分割請求に関する部分を破棄し,同請求に係る訴えはその全部が適法であるとして,最高裁平成25年11月29日第二小法廷判決・民集67巻8号1736頁の示した法理に基づき,改めて本件遺言の趣旨を踏まえ本件不動産の分割方法について審理させるため,同部分に係る差戻前第1審の判決を取り消し,同部分につき,本件を当裁判所に差し戻した。
したがって,当審における審判の対象は,本件不動産の共有物分割の方法であり,その前提として本件遺言の趣旨が問題となる。被告らは,当審においても,原告らの共有物分割請求に係る訴えは不適法であるとして,主位的にその却下を求めているが,この点については,上告審において,原告らの共有物分割請求に係る訴えはその全部が適法である旨の判断が示されて決着済みであるから,当審においては,これを前提として審理判断をすることになる。
3 当審における当事者の主張
(1) 本件遺言の趣旨について
(原告らの主張)
本件遺言は,本件不動産を原告X1に3分の2,原告X2及びBに各6分の1の割合で相続させる旨の遺言であり,これに基づき,本件不動産の持分6分の5は原告らが確定的に取得したが,BはAの死亡前に死亡したので,本件不動産の持分6分の1は遺産共有の状態にある。
(被告らの主張)
本件遺言は,Aの全遺産についてその相続分を原告X1 3分の2,原告X2及びB各6分の1とする旨の相続分の指定をしたものにすぎないから,本件不動産はその全体が遺産共有の状態にある。
本件遺言が「相続させる」旨の遺言であるとしても,本件遺言は,BがAの死亡前に死亡した場合に,本件不動産の持分6分の1をBの代襲相続人に相続させる旨の意思を有していたとみるべき特段の事情はないから,本件不動産の持分6分の1は遺産共有の状態にある。
(2) 本件不動産の共有物分割の方法について
(原告らの主張)
ア 本件不動産は,1棟の建物とその敷地であって,現物分割をすることは不可能である。本件遺言にも「不動産は売らなければ分けられないと思います」と記載があるとおりである。
本件不動産の共有持分権者である原告らは,本件において価格賠償をする意思はない。
したがって,本件不動産の共有物分割は,競売による分割となる。
イ 競売による分割をした場合の売却代金は,原告らが本件遺言により確定的に取得した持分に基づき,原告X1に3分の2,原告X2に6分の1の割合で分割されるほか,遺産共有の状態にある持分6分の1に相当する売却代金についても,他にAの未分割の遺産はないことからすると遺産分割の対象とする必要性に乏しいから,原告ら及び被告らの相続分に応じた分割単独債権とされるべきである。
(被告らの主張)
ア 本件不動産の共有物分割は,本件不動産を被告らの共有とする全面的価格賠償の方法によるのが相当である。
イ 本件不動産の少なくとも持分6分の1は,Aの遺産の一部(Aの遺産としては,ほかに若干の預貯金と原告らに対する貸付金がある。)であり,本来,当事者間で遺産分割協議ができない場合は,家庭裁判所が,被告らの寄与分を定め,原告らの特別受益を判定して,遺産分割の調停又は審判をすべきものである。
B夫婦及び被告らがAと本件不動産において長年同居し,Aの生活費の負担,財産の維持等を行ってきたことにより,原告らが受けた経済的利益は約1億3673万円に上る。一方,本件不動産の原告らの持分6分の5の評価額は約4066万円であるから,これを控除しても,原告らから被告らに約9607万円の代償金が支払われてしかるべきである。そして,本件不動産には,現在も被告Y2が居住している。
したがって,Aの遺産分割協議(寄与分,特別受益の持戻しを含む。)を加味した実質的公平に基づく本件不動産の共有物分割の方法として,本件不動産を被告らの共有とし,原告ら名義の持分6分の5について,被告らに対する持分全部移転登記手続を命ずるのが相当である。
第3 当裁判所の判断
1 本件遺言の解釈について
(1) 本件遺言には,「私の死後遺産を分けるに付き法律上X1には2/3,Cには1/6,Bには1/6分けて下さい」との記述があり,この部分をみる限りでは,本件遺言は,Aの遺産の全体について相続分の指定をしたものにすぎず,特定の遺産を特定の相続人に相続させる趣旨までは含まないと解する余地がある。
しかし,証拠(甲12,甲13の1,2,甲14の1,2,乙11の1,2,乙12の1~3,乙37)及び弁論の全趣旨によれば,Aがその死亡当時に有していた資産として,本件不動産と200万円程度の預貯金があったことが認められるのみで,Aが本件遺言をした時期にこのほかにも資産を有していた事実は証拠上認められないところ,本件遺言には,上記の記述に続けて,「不動産は売らなければ分けられないと思いますがまだ新築で売るのは勿体ないので三人話合で分けて下さい」,「その他の遺産はわづかに預金がありますが葬儀の費用に使って下さい X1に一任します」との記述があり,Aの遺産のうち,預貯金については,原告X1において葬儀の費用として使用すべきことが指定されている。
上記のとおりのAの遺産の全容と本件遺言の内容を併せ考慮すると,本件遺言は,原告X1に本件不動産の持分3分の2を,原告X2及びBにそれぞれ本件不動産の持分6分の1を相続させる旨の遺言をしたものであると解するのが合理的である。
(2) そうすると,本件遺言により,Aが死亡した時点で,原告X1が本件不動産の持分3分の2を,原告X2が本件不動産の持分6分の1を確定的に取得したことになる。
一方,Bに相続させる旨の遺言がされた本件不動産の持分6分の1(以下「本件持分」という。)については,BがAの死亡前に死亡しているから,Aがこのような場合にはBの代襲相続人等に本件持分を相続させる旨の意思を有していたとみるべき特段の事情のない限り,本件遺言により当然に特定の者に承継されることはなく,原告ら及び被告らによる遺産共有の状態にあることになる(最高裁平成23年2月22日第三小法廷判決・民集65巻2号699頁参照)。そして,原告ら及び被告らは,いずれも本件持分は遺産共有の状態にあると主張し,上記「特段の事情」があることの主張立証をしない。
以上によれば,本件持分は原告ら及び被告らによる遺産共有の状態にあることを前提として,共有物分割の方法を検討すべきことになる。
2 本件不動産の共有物分割の方法について
(1) 共有物について,遺産分割前の遺産共有の状態にある共有持分(以下「遺産共有持分」といい,これを有する者を「遺産共有持分権者」という。)と他の共有持分とが併存する場合,共有者が遺産共有持分と他の共有持分との間の共有関係の解消を求める方法として裁判上採るべき手続は民法258条に基づく共有物分割訴訟であり,共有物分割の判決によって遺産共有持分権者に分与された財産は遺産分割の対象となり,この財産の共有関係の解消については同法907条に基づく遺産分割によるべきものと解するのが相当である(最高裁昭和50年11月7日第二小法廷判決・民集29巻10号1525頁,前掲最高裁平成25年11月29日第二小法廷判決参照)。
そうすると,遺産共有持分と他の共有持分とが併存する共有物について,競売による分割の判決がされた場合には,執行裁判所から共有者らに交付される売却代金のうち遺産共有持分の換価分については,遺産分割によりその帰属が確定されるべきものであるから,その交付を受けた共有者は,これをその時点で確定的に取得するものではなく,遺産分割がされるまでの間これを保管する義務を負うというべきである。
そして,民法258条に基づく共有物分割訴訟は,その本質において非訟事件であって,法は,裁判所の適切な裁量権の行使により,共有者間の公平を保ちつつ,当該共有物の性質や共有状態の実情に適合した妥当な分割が実現されることを期したものと考えられることに照らすと,裁判所は,遺産共有持分と他の共有持分とが併存する共有物について,競売による分割の判決をする場合には,その判決において,各遺産共有持分権者において遺産分割がされるまで保管すべき売却代金の範囲を定めた上で,各遺産共有持分権者にその保管すべき範囲に応じた額の売却代金を交付するものとすることができると解するのが相当である(前掲最高裁平成25年11月29日第二小法廷判決参照)。
(2) 前提事実及び弁論の全趣旨によれば,本件不動産は,Aが自宅としていた居宅とその敷地であって,これを現物で分割することは,不可能であるか又はその価格を著しく減少させるおそれがあると認められる。
そして,本件不動産について,確定的に取得した持分のみでも6分の5を有する原告らは,被告らの持分の価格を賠償してその持分を取得する意思はなく,被告らにおいても,原告らの持分の価格を賠償してその持分を取得する意思があるとは認められない。なお,被告らは,Aの遺産に係る被告らの寄与分及び原告らの特別受益を考慮して,対価の支払なしに原告らの持分を被告らが取得する方法による分割をするのが相当であると主張するが,共有物分割の実質は,共有者間における共有持分の交換又は売買であり,被告らの主張する方法による分割は,共有物分割の判決において裁判所の行使し得る裁量権の範囲を逸脱するものであって,採用する余地はない。
そうすると,本件不動産の共有物分割の方法は,競売による分割とするほかない。
(3) 以上によれば,本件不動産について競売を命じた上,その売却代金のうち,Aの遺産に属する本件持分の換価分である6分の1については,本件持分の遺産共有持分権者である原告ら及び被告らにおいて,遺産分割がされるまでその法定相続分(原告ら各3分の1,被告ら各6分の1)に応じた割合により保管すべきものとする趣旨で,原告らに各18分の1,被告らに各36分の1を交付し,原告らが確定的に取得したその余の持分の換価分である6分の5については,各自に確定的に取得させる趣旨で,原告X1に3分の2,原告X2に6分の1を交付するのが相当である。
このうち,Aの遺産に属する本件持分の売却代金(原告らに各18分の1,被告らに各36分の1の割合で交付される金員)は,前記のとおり,遺産分割によりその帰属が確定されるべきものであるから,原告ら及び被告らは,これをその交付を受けた時点で確定的に取得するものではなく,遺産分割がされるまでの間これを保管する義務を負う。
東京地方裁判所民事第6部 裁判長裁判官 谷口園恵、裁判官 舘野俊彦、裁判官 岩下弘毅
(別紙)物件目録
1 所在 多摩市(以下略)
地番 ○番○
地目 宅地
地積 264.77平方メートル
2 所在 多摩市(以下略)
家屋番号 ○番○
種類 居宅
構造 軽量鉄骨造スレート葺2階建
床面積 1階 103.66平方メートル
2階 57.18平方メートル