○「
相続財産管理人の実務-特別縁故者の要件等」記載の通り、相続人なくして死亡した人の財産は、国庫に帰属しますが、以下の特別縁故者に該当する人は、その財産の全部又は一部を取得できます。
第958条の3(特別縁故者に対する相続財産の分与)
前条の場合において、相当と認めるときは、家庭裁判所は、被相続人と生計を同じくしていた者、被相続人の療養看護に努めた者その他被相続人と特別の縁故があった者の請求によって、これらの者に、清算後残存すべき相続財産の全部又は一部を与えることができる。
2 前項の請求は、第958条の期間の満了後3箇月以内にしなければならない。
○相続人であっても、遺言書を偽造した人は、以下の規定で相続人から外されます。
第891条(相続人の欠格事由)
次に掲げる者は、相続人となることができない。
(中略)
五 相続に関する被相続人の遺言書を偽造し、変造し、破棄し、又は隠匿した者
○内縁妻の遺言書を偽造した夫の特別縁故者申立について、「
被相続人の財産の形成に抗告人が寄与した事実があったとしても,被相続人には抗告人に財産を遺贈する意思はなかったのであり,それにもかかわらず,抗告人は,全財産を抗告人に遺贈する旨の被相続人名義の本件遺言書を偽造して相続財産を不法に奪取しようとしたのであるから,そのような行為をした抗告人に相続財産を分与することは相当でない」とした平成25年4月8日東京高裁決定(判タ1416号114頁、判時2270号36頁)全文を紹介します。
○事案は、
・抗告人(X,男性)は,被相続人(A,女性)と特別の縁故関係にあったとして相続財産の分与を求めた
・原審は,XはAの遺言書(Aの全財産をXに遺贈する趣旨のもの)を偽造してAの相続財産を不法に奪取しようとした者であり,Xに対して民法958条の3所定の特別縁故者として相続財産を分与することは相当でないとして,その申立てを却下
・Xは,XとAは仲の好い内縁の夫婦であり,AはXに対し自己の財産の全部又は相当の部分を遺贈する意思を有していたので,仮に遺言書が偽造であるとしても,Aは自らの意思に沿うものとしてこれを容認した可能性が極めて高いなどを抗告理由として抗告
○平成25年4月8日東京高裁決定は、遺言書はXが偽造したものというべきところ,Xがあえてこれを偽造したという事実は,AがXに財産を遺贈する意思がなかったことを推認させるものであり,それにもかかわらず,遺言書を偽造して相続財産を不法に奪取しようとしたXに相続財産を分与することは相当でないとして抗告を棄却ました。以下、全文です。相続人ですら、遺言書を偽造したら相続人から外されるのですから、当然の結論です。
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主 文
1 本件抗告を棄却する。
2 抗告費用は,抗告人の負担とする。
理 由
第1 抗告の趣旨及び理由
本件抗告の趣旨及び理由は,別紙「即時抗告申立書」(写し)及び同「抗告理由書」(写し)に記載のとおりである。
第2 事案の概要
本件は,抗告人が,平成17年×月×日に死亡した被相続人と特別の縁故関係があったとして相続財産の分与を求めたのに対し,原審が同申立てを却下する審判をしたため,抗告をしている事案である。
第3 当裁判所の判断
1 当裁判所も,抗告人を被相続人の特別縁故者として相続財産を分与することは相当でないと判断する。
その理由は,原審判の「理由」中の「第2 当裁判所の判断」に記載のとおりであるから,これを引用する。
2 抗告人は,東京地方裁判所平成24年×月×日判決(以下「本件判決」という。)により確定したのは,被相続人名義の平成3年×月×日付け遺言状(以下「本件遺言書」という。)による自筆証書遺言が無効であること,すなわち,本件遺言書が被相続人の自筆によるものでないことのみであり,これが抗告人の偽造したものであることが確定したわけではないし,仮に,本件遺言書が抗告人の偽造したものであるとしても,抗告人と被相続人が50年以上もの間夫婦同然の緊密な関係を維持形成していたこと,抗告人も,全財産を被相続人に遺贈する旨の自筆証書遺言をしていること,被相続人の父は平成3年×月に死亡しており,それ以降,被相続人と同居し生計を一にしてきたのが抗告人のみであることを考慮すれば,被相続人は,本件遺言書を自らの意思に沿うものとして容認した可能性が極めて大きいのであるし,被相続人の財産の大半は実質的には抗告人と被相続人の共有財産というべきものであるから,抗告人を被相続人の特別縁故者として相続財産を分与するのが相当であると主張する。
しかしながら,本件記録によれば,本件判決は,本件遺言書の筆跡が抗告人のものである可能性が高いという筆跡鑑定の結果は,信用できるものであると認定判断していることが認められるのであり,本件遺言書は抗告人が偽造したものというべきところ,仮に,被相続人の意思が財産を抗告人に遺贈するというものであり,それを抗告人が認識していたとすれば,抗告人において本件遺言書を偽造する必要はなかったのであり,抗告人が本件遺言書をあえて偽造したという事実は,被相続人には抗告人に財産を遺贈する意思がなかったことを推認させるものである。
抗告人と被相続人が長年夫婦同然の関係にあったことや,抗告人が全財産を被相続人に遺贈する旨の自筆証書遺言をしていることなどの事情は,被相続人には抗告人に財産を遺贈する意思がなかったという事実を否定するものであるとはいえない。また,抗告人がA歯科医院の経営に関与していた事実があり,A歯科医院の売上げの多くが被相続人名義の預金口座に入金されていたとしても,それによって直ちに被相続人の財産の大半が被相続人と抗告人との共有であると認めることはできない。
そうすると,被相続人の財産の形成に抗告人が寄与した事実があったとしても,被相続人には抗告人に財産を遺贈する意思はなかったのであり,それにもかかわらず,抗告人は,全財産を抗告人に遺贈する旨の被相続人名義の本件遺言書を偽造して相続財産を不法に奪取しようとしたのであるから,そのような行為をした抗告人に相続財産を分与することは相当でないというべきである。したがって,抗告人の上記主張を採用することはできない。
3 よって,原審判は相当であって,本件抗告は理由がないから,これを棄却することとして,主文のとおり決定する。
(裁判長裁判官 瀧澤泉 裁判官 杉原則彦 裁判官 寺本昌広)
別 紙
即時抗告申立書(写し)〈省略〉
抗告理由書(写し)〈省略〉