○久しぶりに相続の話題です。
「
民法第903条特別受益制度の基礎の基礎-具体例考察」を読まれた方から、被相続人A、相続人が子B、C、Dとして記述した文章について、AとBが混同しているのではとご指摘を受けました。読み返してみると正にその通りでしたので、早速、訂正しました。ご指摘有り難うございました(^^;)。
○当HPは、トップページに「
データ内容は独断と偏見に満ちて正確性に欠けることがありますので、決して鵜呑みにすることなく、あくまで参考として利用されるよう、予め、お断り申し上げます。 」と記載していますが、他にも、誤記や間違い記述が多々あるはずです。特に、「
被相続人A、相続人が子B、C、D」なんて例を上げた場合に、A、B、C、Dが入れ違うことが多々ありはずですので、ご注意お願い申し上げます(^^;)。
○この有り難いご指摘をしてくれた方から、「
第903条の被相続人が相続開始において有した財産が、実際遺産分割時か被相続人死亡日より年月が経過し財産評価額が変わってしまった場合は、どうするのでしょうか」とのご質問を受けました。そこで、この「
民法第903条特別受益制度の基礎の基礎-具体例考察」の事例をアレンジして検討を試みます。
○先ず被相続人Aの財産が、A生前の平成20年当時、土地建物4500万円、乙銀行預金7500万円の合計1億2000万円だったところ、Aが同居していた長男Bに平成20年当時4500万円相当時価であった土地建物を生前贈与していたところ、Aは平成24年1月に死去し、相続が開始し、Aの遺産は乙銀行預金7500万円だけの場合は、「
民法第903条特別受益制度の基礎の基礎-具体例考察」に記載したと同じ理由で、Bには相続分がなく、乙銀行預金は、C、Dが各3750万円を取得するのが原則です。
○ところがBが、生前贈与された土地建物は確かに贈与当時は、4500万円の価値があったが、平成23年3月の東日本大震災で津波に襲われ、何とか建物は残ったが、被災地として時価が急落して1500万円程度になったので、持ち戻し価格は1500万円であり、相続財産は乙銀行預金7500万円、生前贈与持ち戻し1500万円の合計9000万円となるので、各3分の1相当額3000万円の相続となり、Bも預金から1500万円は相続できると主張したとします。
○Bが生前贈与を受けた土地建物は特別受益になり、その評価の基準時は相続開始時の平成24年1月になります。従ってBが生前贈与を受けた土地建物は平成20年受贈当時4500万円の価値があったとしても、平成24年1月当時1500万円に下落していたとすれば、B主張通り、持ち戻し価格は1500万円になります。するとみなし遺産総額9000万円となり、Bは法定相続分3分の1相当3000万円の取得分のところ1500万円の生前贈与分を控除した1500万円を取得できます。
○被相続人Aの死去時期が平成22年1月の場合でその当時Bが生前贈与を受けた土地建物の価値が4500万円のまま残っていたところ、遺産分割手続をしないで放置し、或いは、遺産分割協議が長引いて、平成23年3月の津波を経てBが生前贈与を受けた土地建物の価値が1500万円に下落した場合も、特別受益財産評価基準時は相続開始時ですから4500万円と評価され、Bの相続分はありません。
以下、参考判例を掲載します。
昭和51年3月18日最高裁判決(判時813号33頁)
主文
本件上告を棄却する。
上告費用は上告人の負担とする。
理由
上告代理人○○○○の上告理由について
被相続人が相続人に対しその生計の資本として贈与した財産の価額をいわゆる特別受益として遺留分算定の基礎となる財産に加える場合に、右贈与財産が金銭であるときは、その贈与の時の金額を相続開始の時の貨幣価値に換算した価額をもつて評価すべきものと解するのが、相当である。けだし、このように解しなければ、遺留分の算定にあたり、相続分の前渡としての意義を有する特別受益の価額を相続財産の価額に加算することにより、共同相続人相互の衡平を維持することを目的とする特別受益持戻の制度の趣旨を没却することとなるばかりでなく、かつ、右のように解しても、取引における一般的な支払手段としての金銭の性質、機能を損う結果をもたらすものではないからである。これと同旨の見解に立つて、贈与された金銭の額を物価指数に従つて相続開始の時の貨幣価値に換算すべきものとした原審の判断は、正当として是認することができる。原判決に所論の違法はなく、論旨は採用することができない。
上告人の上告理由について
所論の点に関する原審の認定判断は、原判決挙示の証拠関係に照らし、正当として是認することができる。論旨は、ひつきよう、原審の専権に属する証拠の取捨判断、事実の認定を非難するものにすぎず、採用することができない。
よつて民訴法401条、95条、89条に従い、裁判官全員一致の意見で、主文のとおり判決する。
(岸盛一 藤林益三 下田武三 岸上康夫 団藤重光)
昭和58年6月2日大阪高裁判決(判タ506号186頁)
【判旨】
(三) 本件抗告理由の第二点は、原審判は遺産の評価について相続開始時の価格を基準としているが、相続開始時より10年以上を経過しており公平の見地からも時価を基準とすべきであるというにある。記録によると、原審判はいわゆるみなし相続財産(遺産プラス持戻贈与財産)の評価については相続開始時を、分割の対象となる遺産の評価については分割時を、各基準としてそれぞれ評価していることが認められるところ、右の評価方法は民法903条、904条、909条、家事審判規則107条等との関連において最も妥当な方法である(なお遺留分算定に関してであるが、最高裁昭和51年3月18日判決民集30巻2号111頁参照)と解されるから抗告人の右主張も採用できない。
(今富滋 西池季彦 亀岡幹雄)