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小松亀一法律事務所は、「相続家族」問題に熱心に取り組む法律事務所です。

遺産分割

相続させる旨遺言も遺贈と同様特別受益となるとした判例全文紹介2

○「相続させる旨遺言も遺贈と同様特別受益となるとした判例全文紹介1」の続きです。
「相続させる」であろうと「遺贈」であろうと、その不動産は特定の相続人に承継されるのでいずれも特別受益に該当することは当然と考えていましたが、この広島高裁岡山支部決定の原審平成15年10月15日岡山家裁玉島出張所決定(家月57巻10号92頁)は、「公正証書遺言の『相続させる』旨の記載が遺贈の趣旨と解されない以上、これをもって民法903条の特別受益とすることはできない」と判断していました。考え方は、色々ありますが、この論点についての最高裁の統一判断はないようです。

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4 具体的相続分に算定について
(1) 本件遺産分割対象財産は,以下のとおりである。
                記
 別紙目録−1,2記載の各不動産 評価額    2742万5540円
 同目録二記載の預金       遺言執行費用を除く残額5488万2795円
 同目録三記載の還付金                7万4685円
 合 計                    8238万3020円

(2) 前記3のとおり,前記公正証書遺言による特定の遺産承継についても,民法903条1項の類推適用により,特別受益の持戻しと同様の処理をすべきであると解されるから,上記遺産合計額8238万3020円に,相手方が前記公正証書遺言により取得した額(現金並びに家財道具及び電話加入権の各評価額)8786万7395円を加えた合計額1億7025万0415円が,みなし相続財産の価額ということになる。
 そして,抗告人ら及び相手方は,法定相続分1/5宛において分割すべきであるから,相続分額は各自3405万0083円となる。
 しかし,相手方は,上記額を超える8786万7395円を既に取得しているから,具体的相続分額は0円となる。
 抗告人らの具体的相続分額は,以下の計算のとおり,2059万5755円となる。

                記
  8238万3020円×3405万0083/(1億7025万0415−3405万0083)=2059万5755円

(3) なお,抗告人らは,さらに,相手方が,前記公正証書遺言によって法定相続分を超えて取得した額につき,抗告人らに対し,代償金を支払うべきであると主張する。しかし,本件のように,遺言により承継された特定物の価額が,当該相続人の法定相続分を上回っている場合であっても,その超過取得額につき,他の共同相続人に対して代償金の支払を命じることは,被相続人の合理的意思に反することになると解されるから,この点に関する抗告人らの主張は採用できない。

5 分割に関する希望について
 抗告人Dは,代償金を支払ってでも別紙目録一1,2記載の各不動産を単独で取得することを希望し,その余の抗告人らは,同目録二及び三各記載の金融資産を平等の割合で取得することを希望している。

6 遺産分割の方法について
(1) 以上の抗告人ら及び相手方の各具体的相続分額,対象財産の管理,保管の状況や分割に関する希望等を総合考慮すると,抗告人ら及び相手方の間においては,本件遺産分割対象財産を以下のとおり分割するのが相当である。
 ア 抗告人Dの取得分
  別紙目録一1,2記載の各不動産

 イ 抗告人Aの取得分
  別紙目録二記載の預金のうち1829万4265円
  別紙目録三記載の還付金のうち2万4895円

 ウ 抗告人Bの取得分
  別紙目録二記載の預金のうち1829万4265円
  別紙目録三記載の還付金のうち2万4895円

 エ 抗告人Cの取得分
  別紙目録二記載の預金のうち1829万4265円
  別紙目録三記載の還付金のうち2万4895円

 オ 相手方の取得分
  なし

(2) そうすると,抗告人Dの取得額は,2742万5540円となって,具体的相続分額を682万9785円超過することになるから,代償として,抗告人Dは,抗告人A,抗告人B及び抗告人Cに対し,各227万6595円を支払うべきである。

第3 結論
 よって,原審判を変更し,主文のとおり決定する。(裁判長裁判官前坂光雄 裁判官 岩坪朗彦 横溝邦彦)


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平成15年10月15日岡山家裁玉島出張所決定抜粋 

三 特別受益
 申立人らは、相手方が被相続人の前記公正証書遺言により金融財産8750万円及び家財評価額30万円の合計8780万円という厖大な特別受益を既に受領済みであり、民法903条により相手方には前記一のGの遺贈放棄分についてはもはや受領権限はない旨主張し、一件記録によれば、相手方は、上記遺言第2条、第3条に基づき、遺言執行者から現金8754万7395円及び家財道具の引渡を受けていることが認められる。

 ところで、特定の遺産を特定の相続人に「相続させる」旨の遺言は、遺言書の記載から、その趣旨が遺贈であることが明らかであるか又は遺贈と解すべき特段の事情のない限り、当該遺産を当該相続人をして単独で相続させようとする趣旨のものと解すべきであり、また、上記のような遺言があった場合には、遺産分割の方法が指定されたものとして、当該遺言において相続による承継を当該相続人の意思表示にかからせたなどの特段の事情のない限り、当該遺産は、被相続人の死亡の時に直ちに相続により承継される(最高裁判所平成3年4月19日判決民集45巻4号477頁)ところ、被相続人の前公正証書遺言第2条が第1条の不動産に存する家財道具その他一切の動産、電話加入権、現金等を相手方に単独で相続させる旨明記し、第3条3項が第1条及び第2条の財産を除くその他の一切の有価証券・預貯金・信託・相互掛金等の金融財産のうち第2項の遺贈の後の金融財産の175/1000を相手方に相続させる旨明記していることは前記一認定のとおりであり、その遺言記載に照らして、それが遺贈の趣旨であることが明らかであるとは到底認めがたい上に、遺贈の趣旨と解すべき特段の事情も見当たらないほか、被相続人の遺産につき相続による承継を相手方の意思表示にかからせたなどの特段の事情も見当たらないところであるから、上記遺言記載は上記動産や金融財産等を相手方をして単独で相続させる趣旨の遺産分割の方法を指定したものと認めるのが相当であり、遺贈の趣旨と認めることはできない。

 なお、申立人らは、被相続人の前公正証書遺言の「相続させる」旨の遺言記載について、法定相続人に対しては「相続させる」との文言を、それ以外の者に対しては「遺贈する」との文言を使い分けたにすぎない旨主張するが、「相続させる」と「遺贈する」とは明らかに法律的な効果を異にするものであり、一般的に上記主張のような使い分けが行われているとは認められないのみならず、公正証書遺言に当たって被相続人及び公証人がそのような使い分けの意思を有していたことをうかがわせるような資料も見当たらない。

 また、申立人ら及び相手方は、被相続人を巡る親族間の確執等に関する経緯について種々主張するが、いずれも上記「相続させる」旨の遺言記載の解釈に影響を及ぼすものではない。
 以上のとおり、被相続人の公正証書遺言の「相続させる」旨の記載が遺贈の趣旨と解されない以上、これをもって民法903条の特別受益とすることはできないところであり、相手方に特別受益があるとする申立人らの上記主張は理由がない。