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小松亀一法律事務所は、「相続家族」問題に熱心に取り組む法律事務所です。

遺産分割

平成10年3月30日岡山地裁判決全文紹介2

○「平成10年3月30日岡山地裁判決全文紹介1」を続けます。争点と争点に関する判断です。


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二 争点
 原告の本件訴えは、本件審判は、原被告双方の特別受益の有無とその評価に関する判断及び別紙遺産目録4記載の土地の借地権の評価に関する判断を誤っており、
〈1〉原告が持戻すべき特別受益財産は別紙物件目録記載の1の土地の持分2分の1の購入資金として被相続人Aから出捐を受けた1000万円とすべきであり、
〈2〉被告が持戻すべき特別受益財産は本件審判で認められた400万円のほかに別紙遺産目録記載の8の区分建物及びその敷地権の共有持分5分の1の買受代金500万円が加えられるべきであり、
〈3〉別紙遺産目録記載の4の土地の借地権の価額は6429万5000円と評価されるべきであり、右〈1〉ないし〈3〉の事項はいずれも訴訟事項であって、これを前提とした被相続人Aの総遺産に対する具体的相続分の確認の訴えも許される
旨主張し、第一(請求)に記載のとおり、被告に対し、その具体的相続分の価額と同相続分率が一定限度を超えないことの確認を求めるものである。

 これに対し、被告は、原告主張の右〈1〉ないし〈3〉の事項はいずれも審判事項であり、総遺産に対する具体的相続分の確認の訴えは許されず、原告の本件訴えは不適法である旨主張し、訴えの却下を求めた。
 これらの点に関する当事者双方の主張は別紙に記載のとおりである。

第三 争点に対する判断
 まず、具体的相続分の法的性質について検討するに、この点に関しては次の見解(大阪地裁平成2年5月28日判決・判例タイムズ731号218頁、乙第一号証)があり、当裁判所もこれを正当と考える。

民法903条1項は、共同相続人中に、被相続人から遺贈又は婚姻、養子縁組のため若しくは生計の資本として贈与(特別受益)を受けた者があるときは、被相続人が相続開始時に有した財産の価額にその贈与の価額を加えたものを相続財産とみなし、法定相続分又は指定相続分から特別受益の価額を控除してその者の相続分を算定すべきことを定め、また、同法904条の二第一項は、共同相続人中に、被相続人の財産の維持又は増加につき特別の寄与をした者があるときは、被相続人が相続開始時に有した財産の価額から寄与分を控除したものを相続財産とみなし、法定相続分又は指定相続分に寄与分を加えてその者の相続分を算定すべきことを定め、この寄与分については、共同相続人の協議によって定まらないときは、遺産分割審判と同時にされる家庭裁判所の審判によって定めることとされている。

 このような特別受益の持戻しあるいは寄与分による法定相続分又は指定相続分の修正は、遺産分割手続の一環として行われるものであって、その結果算出されるいわゆる具体的相続分は、遺産分割における分配基準としての割合にすぎず、遺産分割の過程においてのみ機能する観念的性質のものであって、遺産分割前の段階で具体的相続分(あるいはこれに基づく共有持分)が独立に処分の対象となるなどこれについて具体的な権利義務関係が成立する余地はないというべきである。


 そうすると、総遺産に対する具体的相続分の価額と同相続分率が一定限度を超えないことの確認を求める訴えは訴えの利益を欠き、許されないものというべきである。これと見解を異にする原告の主張は採用できない。

 もっとも、右裁判例の見解は、遺産分割未了の段階における相続財産を構成する個々の財産に対する具体的相続分に基づく共有持分の有無の確認の訴えに関するものであるのに対し、本件は、遺産分割審判確定後の段階において総遺産に対する具体的相続分の価額と同相続分率の確認を求める訴えである点で両者は事案を異にするけれども、その点は具体的相続分の法的性質に関する前記判断を左右するものとは解されない。

 また、原告は、本訴請求の前提問題として第二の二で述べたように原被告双方の特別受益の有無とその評価及び遺産の評価について訴訟裁判所の審判権が及ぶとの立場に立って本件審判の誤りである所以を縷々論難し、当裁判所にその当否の判断を求めている。しかしながら、本来、特別受益の有無とその評価及び遺産の評価等具体的相続分算出の前提となる事項はそれ自体で独立して実体的権利関係を構成するものではなく、遺産分割申立事件の前提問題としてのみ主張できる事柄であって、家庭裁判所が後見的立場から、合目的の見地に立って、裁量権を行使してその具体的内容を形成することが必要であり、訴訟裁判所が遺産分割申立事件を離れて、その点のみを別個独立に訴訟手続によって審理判断し得る事柄ではないと解するのが相当である。

 そうすると、原告の本件訴えは訴訟裁判所が審判権を有しない事項について判断を求めるものであって、許されないものというべきである。これと見解を異にする原告の主張は採用できない。したがって、原告の本件訴えは以上いずれの観点から考えても不適法であるといわねばならない。

第四 結論
 以上の次第で、原告の本件訴えは不適法であるからこれを却下することとし、訴訟費用の負担について民訴法61条を適用して、主文のとおり判決する。
(岡山地方裁判所第二民事部)