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小松亀一法律事務所は、「相続家族」問題に熱心に取り組む法律事務所です。

扶養

民法730条直系血族・同居の親族の間の扶け合いの意義?2

○「民法730条直系血族・同居の親族の間の扶け合いの意義?」を続けます。
扶養義務の基礎の基礎−未成熟子扶養の程度特に終期」に深く考えることなく書いた「民法730条では『直系血族及び同居の親族は、互いに扶け合わなければならない。』と規定されていますが、これは道徳的義務を課したもので法的には無意味という考えが一般的です。」との記述を、判例的にもおかしいと、厳しく批判するメールを頂き,慌てて文献を見直したところです(^^;)。

○「民法730条直系血族・同居の親族の間の扶け合いの意義?」を記述したときは、新版注釈民法の民法第730条の解説までは読んでおりませんでしたので、これを機会に、第730条部分だけコピーして読み始めました。執筆担当青山道夫・浦本寛雄各氏で133〜149の17頁に渡ってその立法過程から最近(と言っても昭和60年代まで)の学説・論文等が詳しく紹介されており、一読ではなかなか理解出来ません(^^;)。

○解説冒頭に、戦後の民法大改正において、第730条の成立を巡っては、最も激しく争われた規定で、牧野英一博士が新設を主張し、我妻栄、中川善之助、奥野健一氏ら起草委員が反対し、最後に起草委員が「国会で削除されるとの淡い期待」を持ちながら織り込まれ、国会でも鈴木義男司法大臣が、厳しく反対する議員に対し「一応道徳的な要求として掲げておくならば、さしたる弊害もなかろう。臨時措置の間730条並びに877条の形において存置する。さらに根本的修正は次の機会に譲る、」なんていい加減な答弁をして成立したいわく付きの規定と説明されています。

○730条の以上の特殊成立過程もあって、当初の学説の殆どが、家父長的家族制度を何らかの形で残そうとするものとして批判的で、更に法制審議会民法部会身分法小委員会でも「本条は単に倫理的意味を有するに過ぎず、削除するのが適当」なんて意見が出され先の鈴木司法大臣の「臨時措置」との答弁もあり、いずれ「根本的修正」がなされるであろうと思われていました。

○ところが、昭和45年以降、730条の意義を積極的に見直そうとの学説が現れ始め、また、裁判例にも、消極的ながら730条に裁判規範としての意義を認めたと読めそうなものが若干見られました。しかし裁判例には、730条を裁判規範として積極的に活用した例はないようでり、学説も、私的扶養を第一とする生活保護行政に、「適正化」の名の下に保護要件を厳しくして生活保護適用を絞り込む口実に利用されるとの指摘がなされています。「生活保護行政によって私的扶養が不当に強化されており、その根底に本条の思想があるのではないかと指摘していた。」というものです。

○特に家族の世話と家事労働は圧倒的に妻=主婦=嫁によって担われているのが現状であるところ、730条の理念の強調は、このような現状を肯定的に捉える方向に作用し、結果的に家族にとって真に必要な条件の達成を遅らせ、女性の地位の改善を妨げることになるとの指摘が重要です。
注釈民法730条解説末尾は次のように結ばれています。
本条の無用論を支持するが、本条に解釈論としてなんらかの意義を見出すべく努力することは不必要だと思う。本条は、個人の尊厳と両性の本質的平等とを原理とする改正民法の精神に反するものであり、本条なくしても具体的事案の解決ははかられるからである。