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小松亀一法律事務所は、「相続家族」問題に熱心に取り組む法律事務所です。

遺言書

筆跡鑑定の信頼性−証明力に限界ありとの判決紹介1

「自筆証書遺言の方式と問題点」記載の通り、自筆証書遺言とは、「遺言者が、その全文、日付及び氏名を自書し、これに印を押せば完成」するもので、ごく簡単に作成できます。例えば便箋一枚に、「私の全財産をAに相続させる。平成20年7月15日 甲野太郎 」と書き込み押印(拇印も可)すれば完成です。遺言書との表題は不要で、封筒に入れる必要もありません。

○この自筆証書遺言書が発見されても、その内容に納得できない相続人がいると、その遺言書は被相続人の筆跡ではなく、誰かが偽造したものであると争われることがよくあります。その自筆証書遺言の検認手続を経て遺言書に従った財産の移転がなされた場合、その遺言書を偽造で無効だと主張する相続人は、遺言無効の訴えを提起しなければなりません。

○遺言無効の訴えの理由が、被相続人本人が書いたものではなく、誰かが偽造したものだと主張した場合、最終的には被相続人生前の自筆書面での文字と遺言書に記載された文字が同一筆跡であるかどうかの鑑定が必要になります。勿論、鑑定の対象とする被相続人生前の自筆書面は、例えば本人が書いてきた日記帳など本人の自筆であることに当事者間で争いのないものに限られます。

○もし被相続人生前の自筆書面がない場合、筆跡鑑定による偽造の立証が不可能で、そのような内容の遺言書を被相続人が書くわけがないとの、例えば生前被相続人と財産を遺贈された相続人が険悪な状況にあり、その遺言書を作成する以前数年間は全く連絡を取ることもなかったなどの遺言書記載内容に矛盾する状況についての主張・立証を積み重ねなければならず極めて難しい立証を強いられます。

○以下、東京高裁平成12年10月26日判決(判例タイムズ1094号242頁)を紹介します。
事案は以下の通りです。
被相続人である母Aがその財産を末娘のBに与えるとした自筆遺言証書の効力を、その姉C及び兄Dが争ったもので、Aは、4人の子がいましたが、上の三人がそれぞれ結婚して家を出た後、末娘Bは、結婚まで両親と同居し、結婚後も近隣に居住し、その後夫婦で両親と同居し、Aが死亡するまで基本的には両親の世話をしました。
父の相続時には多額の遺産は、子らを含めてほぼ民法に定める割合で分配され、Aの相続した財産は、その老後の生活資金となるもののほか自分の居住用でBと同居している建物と保養地のマンションのみでしたが、Bは乳ガンにかかり、AはBの将来を心配し、それまでの生活状態からして、母親AがBにその内容通りの遺言をする可能性がありました。


○しかし、C、Dが納得せず、遺言無効の訴えを提起し、一審段階では、裁判所の選任した筆跡鑑定人は、遺言書の筆跡はAの日記帳の筆跡と異なるとし、一審判決は、主として裁判所選任の鑑定人の鑑定結果を採用して、遺言を無効と判断しましたが、二審の東京高裁は、筆跡鑑定に疑問を呈し、一審判決を覆しました。その理由は後日紹介します。