高齢者の遺言−真意性の立証方法等
○繰り返し述べてきましたが、折角、遺言書を作っても、一部相続人から「お父さんがあんな遺言書を作るはずがない」と思われると、遺言書によって利益を受けた○○から「無理矢理書かされたものに違いない」となり、遺言の有効性を巡って争いが生じます。
○この「無理矢理書かされた」とは、遺言者の真意でない遺言書が作成されたとの主張になりますが、これによって遺言書が無効とされるには強迫や詐欺によって意思表示がなされたとの主張が必要になり、実際は立証が大変難しいものですが、折角、作成した遺言書をこのようなケチをつけられること自体が問題です。
○「無理矢理書かされた」が強調されると、被相続人に遺言書作成を勧めた相続人が、民法891条「3.詐欺又は強迫によって、被相続人が相続に関する遺言をし、撤回し、取り消し、又は変更することを妨げた者」、「4.詐欺又は強迫によって、被相続人に相続に関する遺言をさせ、撤回させ、取り消させ、又は変更させた者」として、相続欠格まで主張されかねません(東京地裁平成16年7月7日、判タ1185号291頁参照)。
○このように遺言書についてその真意性が問題にされないためには、そのような遺言書を作成した動機や背景事情について遺言書の内容の一部として記載するか、或いは遺言書とは別の書面で出来れば遺言作成者本人の自筆で記載しておくことが必要です。
○具体的には例えば被相続人夫A、相続人が妻B、長男C外子供数名の事例で、長男Cが家督としてAB夫婦と長年同居しているが、Bと長男の嫁が合わず、病弱のBが長男の嫁とこれに加担する長男にいびり続けられており、自分亡き後のBが心配で、Bに全財産を相続させるとの遺言を残す事例を考えます。
○長男は家督として長年AB夫婦と同居し、自分の給料もA一家のために出して当然A一家の財産の跡取りと意識しており、Aが遺言書を作成する場合、当然、自分に殆どの財産を相続させるはずと確信しています。然るに、Aが全財産をBに相続させるとの遺言書が出て来たらAとしては、当然、「お父さんがあんな遺言書を作るはずがない」となります。
○そこでこのように争いが生じることが予想される場合は、単に「妻に全財産を相続させる」との結論だけでなく、この結論に至る理由、例えば「妻Bが私に一生懸命尽くしてくれたお陰で仕事が成功し財産も残せた。しかし残念ながら長男Cの嫁と妻の折り合いが悪く、長男Cは嫁にばかり味方して母Bをないがしろにしている。私はこの点が一番心配で、私の全財産は妻に残すことにした。長男Cは母Bに孝行を尽くし、Bから財産を譲ってもらえるように努力しなさい。」等と記載すれば、その遺言書の真意性について長男Cも訴えを出してまで争うのは難しくなります。