高齢者の遺言−真意性の立証の必要性
○折角作成された遺言書が無効であると争いになるケースは殆どが、「お父さん(遺言作成者)があんな内容の遺言書を作るはずがない」、遺言書によって利益を受けた○○が無理矢理書かせたものである、或いは自筆証書遺言については○○が偽造したに違いないと相続人の誰かから疑問を呈される場合です。
○先ず自筆証書遺言は、「遺言者が、その全文、日付及び氏名を自書し、これに印を押」して作成するものですから、それが偽造かどうかの最終的判定には、書かれた文字が本人のものかどうかに尽き、生前の本人の日記や手紙など明らかに本人が書いたと相続人全員が認める資料と比較しての筆跡鑑定が必要になり、この明らかに本人が書いたと相続人全員が認める資料を残しておく必要があります。
○公正証書遺言について偽造の主張は普通はあり得ませんが、「口授」の要件を満たす必要があり、病気で発声が出来なくなった場合などは「遺言の趣旨を通訳人の通訳により申述し、又は自書して、前条第2号の口授に代えなければな」りません(民969の2)。
○自筆証書遺言書、公正証書遺言書いずれにしても、相続人の誰かに「お父さんがあんな遺言書を作るはずがない」と思われることが、遺言書を巡る争いの発端になりますので、私は最近は、特定の相続人にのみ有利な遺言書を作成するときは、その動機、趣旨等も場合によっては詳しく遺言書に記載することを勧めています。
○人間は、「自己に甘く他に厳しい」と言うのが私の確信的信念です。相続の場面で言えば、遺言書を作成する人が父の場合、父への貢献度についての自分自身の評価と他者である父の評価に大きなズレがあるのが一般です。端的に言えば自分ではこれだけ尽くしたと思っていても、相手はそれしか尽くしていないと評価されているのが一般です。
○そのため遺言書の内容が自分に不利で、特に仲の悪い兄弟姉妹に有利になっている場合、そんな馬鹿な、こんな遺言書は、○○が父に強要して作成したものであり、到底、父の真意ではないと思いこんでしまい、最終的には、遺言無効確認の裁判事件にまで発展することがあります。
○これまで相当数の遺言書作成のお手伝いをしてきましたが、遺言書の内容としては結論だけ書くのが一般でした。しかし複数の遺言無効確認裁判を経験し、この「そんな馬鹿な、到底納得できない」と思う相続人が出て来ると思われるケースでは、その対策として、遺言内容の一部に遺言者の動機、趣旨等どうしてこのような内容になったのかを記載した方が、余計な争いをなくすために必要だと思うようになってきました。