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小松亀一法律事務所は、「交通事故」問題に熱心に取り組む法律事務所です。

交通事故重要判例

中枢神経既存障害・末梢神経障害同一部位性否認判例控訴審判決紹介2

○「中枢神経既存障害・末梢神経障害同一部位性否認判例控訴審判決紹介1」の続きで裁判所の判断部分です。

○自賠法施行例2条2項は「法第13条第1項の保険金額は、既に後遺障害のある者が傷害を受けたことによつて同一部位について後遺障害の程度を加重した場合における当該後遺障害による損害については、当該後遺障害の該当する別表第1又は別表第2に定める等級に応ずるこれらの表に定める金額から、既にあつた後遺障害の該当するこれらの表に定める等級に応ずるこれらの表に定める金額を控除した金額とする。」と規定しています。

○「局部に神経症状を残すもの」との「神経系統の機能又は精神の障害」の場合、自賠法施行例2条2項の「同一部位」について、従来、どの神経も「同一系列」に該当するので「同一部位」であると解釈されてきました。この不当な実務運営を打破したもので、素晴らしい判決です。

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第3 当裁判所の判断
1 当裁判所も,原判決と同様に,被控訴人の請求は,控訴人Y1に対し,414万0140円及びこれに対する遅延損害金の各支払(うち75万円は被控訴人東京海上日動と連帯支払)を,控訴人東京海上日動に対し,控訴人Y1と連帯して75万円の支払をそれぞれ求める限度で理由があるが,その余の請求はいずれも理由がないものと判断する。その理由は,次のとおり補正し,下記2及び3のとおり控訴人ら及び被控訴人の当審における各主張に対する判断を付加するほかは,原判決の「事実及び理由」中の「第3 当裁判所の判断」(なお,11頁26行目の「3」を「第3」に改める。)で説示するとおりであるから,これを引用する。

 (原判決の補正)
(1) 26頁19行目の「保険会社に」から同20行目の「避けることにある」までを次のとおり改める。
「障害の等級評価に差が出ない部分については,賠償対象となる損害の発生はないとして,その部分を自賠責保険による補てん対象から除外することにある」
(2) 同頁22行目の「同項」を「施行令2条2項」に改める。
(3) 27頁2行目の「当たる」を「当たるから,「同一部位」の障害である」に改める。
(4) 同頁3行目の「胸椎と頸椎」を「胸髄と頸髄」に,同4行目の「支払領域」を「支配領域」にそれぞれ改める。

2 控訴人らの当審における主張に対する判断
(1) 前記第2の2(2)ア(ア)及び同イ(ア)の主張(本件症状のうちの頸部痛)について

 被控訴人が本件事故によって身体に一定程度の衝撃を受けたこと,被控訴人の頸部痛の訴えと整合する客観的な検査所見が存在すること,被控訴人は本件事故前は頸部痛が存在しなかったのに,本件事故後は一貫して頸部痛を訴え,これに対する投薬等の治療を受けていることに照らすと,被控訴人が訴える本件症状のうちの頸部痛は,本件事故との間に相当因果関係がある後遺障害と認められることは,前記判断のとおりである。

 この点,控訴人らは,本件事故によって被控訴人が受けた衝撃は極めて軽微であったことや控訴人が訴える本件症状のうちの頸部痛の機序が明らかではないことなどから,本件事故との間に相当因果関係はなく,他の原因で生じたものであると主張する。確かに,本件症状のうちの頸部痛の機序は必ずしも明らかとなってはいない。しかし,本件事故は,車いすで進行していた被控訴人が,時速10キロメートルで走行する控訴人車両に左側面のやや後方から衝突されたというものであり,転倒した車いすから投げ出された被控訴人が,これにより身体に一定程度の衝撃を受けたものと認められることは前記認定のとおりである。

 この事実に,被控訴人の頸部痛の訴えと整合する客観的な検査所見が存在し,被控訴人は本件事故前は頸部痛が存在しなかったのに,本件事故後は一貫して頸部痛を訴え,これに対する投薬等の治療を受けていることを併せ考慮すると,被控訴人が訴える本件症状のうちの頸部痛と本件事故との間に相当因果関係があると認められることは前記判断のとおりである。


 なお,被控訴人は,平成17年4月11日,3週間前にテレビを見続けたら首をおかしくしたとして,頸部の痛みを訴えてさいたま赤十字病院を受診したことが認められるが(乙A28),これは,本件事故の約4年半前のことであり,その後,同症状により通院したことをうかがわせる証拠は全くないことからすれば,本件事故前に頸部痛がなかったとの被控訴人本人の供述は信用することができる。
 したがって,この点に関する控訴人らの主張は理由がない。

(2) 前記第2の2(2)ア(イ)及び同イ(イ)の主張(本件症状のうちの両上肢の痛み及びしびれ)について
 本件症状のうち両上肢の痛み及びしびれについては,頸部の神経根の障害そのものに由来する神経症状であるとは認められないものの,本件事故により発症した頸部痛が契機となって発症したものと認めるのが相当であるから,本件事故との間に相当因果関係があると認められることは,前記判断のとおりである。
 したがって,この点に関する控訴人らの主張は理由がない。

(3) 前記第2の2(2)ア(ウ)の主張(被控訴人に生じた損害)について
 本件症状の内容及び程度に照らすと,被控訴人には,症状固定時点において,「局部に神経症状を残す」(施行令別表第二の14級9号)後遺障害が残存したものと認められることは,前記判断のとおりである。
 したがって,この点に関する控訴人Y1の主張は前提を欠くものであって,理由がない。

(4) 前記第2の2(2)ア(エ)の主張(過失相殺)について
 控訴人Y1は,本件交差点に進入するに際し,一時停止規制に従って一時停止をし,通行者の有無及び動静に留意し,安全を確認しながら進行すべき自動車運転上の注意義務があるにもかかわず,運転中に携帯電話を使用し,前方不注視のまま一時停止をせずに本件交差点に進入するという重大な注意義務違反により本件事故を発生させたものであること,これに対し,車いすで進行中の被控訴人からは,本件交差点に至る南北道路の東側に設置された高さ約1.7mのブロック塀のため,左方の見通しが悪く,控訴人車両に気付くことは容易ではなかったと認められることに照らすと,本件において過失相殺をすべきものとは認められないことは,前記判断のとおりである。
 仮に,控訴人車両の前照灯によって車両が本件交差点に接近していることを被控訴人が認識し得る状況にあったとしても,前記判断が左右されるものではない。
 したがって,この点に関する控訴人Y1の主張は理由がない。

(5) 前記第2の2(2)ア(オ)及び同イ(ウ)の主張(本件既存障害と本件残存障害は同一部位の障害か否か)について
 施行令2条2項にいう「同一の部位」とは,損害として一体的に評価されるべき身体の類型的な部位をいうと解すべきであるところ,本件既存障害と本件症状は,損害として一体的に評価されるべき身体の類型的な部位に当たるとは認められないから,「同一の部位」であるとはいえないことは,前記判断のとおりである
 したがって,この点に関する控訴人らの主張は理由がない。

(6) そのほか,控訴人らが主張する内容は,いずれも前記判断を左右するものとはいえない。

3 被控訴人の当審における主張(前記第2の2(3))に対する判断
 確かに,被控訴人の症状固定日が平成23年3月18日であるとする診断書があることは認められるが(甲19),本件事故態様,本件症状の内容及び程度並びに本件事故後の被控訴人の症状が大きく変化することなく推移していることに照らすと,遅くとも本件事故から1年が経過した平成22年10月29日には症状が固定したものと認められることは,前記判断のとおりである。

 また,本件事案の内容,審理の経緯,損害額,その他本件に現れた一切の事情を考慮すると,本件事故と相当因果関係のある弁護士費用としての損害額は,37万円と認めるのが相当であることは,前記判断のとおりである。
 したがって,これらの点に関する被控訴人の主張はいずれも理由がない。

第4 結論
 以上によれば,控訴人Y1に対し,414万0140円及びこれに対する平成21年10月29日から支払済みまで年5分の割合による金員の各支払(うち75万円は被控訴人東京海上日動と連帯支払)を,控訴人東京海上日動に対し,控訴人Y1と連帯して75万円の支払をそれぞれ命じ,被控訴人のその余の請求をいずれも棄却することが相当であり,これと同旨の原判決は正当として是認することができる。したがって,控訴人らの本件各控訴及び被控訴人の本件附帯控訴はいずれも理由がないからこれらを棄却することとして,主文のとおり判決する。
 (裁判長裁判官 杉原則彦 裁判官 山口均 裁判官 朝倉佳秀)