○「
行政書士有料メール相談料弁護士費用等補償保険金請求棄却裁判例1」以下で紹介した平成25年11月22日大阪地裁判決(自保ジャーナル1915号114頁)の控訴審である平成26年7月30日大阪高裁判決(自保ジャーナル1929号159頁、ウエストロー・ジャパン)全文を紹介します。
○本件契約の弁護士費用等補償特約により支払対象となる行政書士報酬は、予め被控訴人の同意を得た支出で行政書士法1条の3第3号所定の相談に対する報酬を含むとされ、本訴で控訴人が求める弁護士費用等補償保険金は控訴人が行政書士に支払った報酬のうち同保険金による填補部分を超えた報酬部分であって、同部分は被控訴人の同意を得ていないから控訴人に要件充足性の立証責任があるところ、本件では立証されていないなどとして、控訴を棄却しました。
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主 文
1 本件控訴を棄却する。
2 控訴費用は控訴人の負担とする。
事実及び理由
第1 控訴の趣旨
1 原判決を次のとおり変更する。
2 被控訴人は,控訴人に対し,268万0841円及びうち248万円に対する平成24年9月13日から支払済みまで年6分の割合による金員を支払え。
3 訴訟費用は,第1,2審を通じて被控訴人の負担とする。
第2 事案の概要
1 本件は,自動車を運転中に他車に衝突されて受傷した控訴人が,控訴人運転の自動車を被保険自動車とする自動車保険契約の保険者である被控訴人に対し,同保険契約に基づき弁護士費用等補償保険金50万円,医療保険金98万円及び後遺障害保険金100万円の合計248万円並びにこれらに対する商事法定利率年6分の割合による遅延損害金(その起算日は,弁護士費用等補償保険金につき平成22年9月13日以降原判決別紙の備考欄に弁護士費用特約分と記載された各年月日,医療保険金につき平成22年6月23日,後遺障害保険金につき平成24年7月9日である。)の支払を求める事案である。
2 原審は,控訴人の請求を,医療保険金6万円及び後遺障害保険金100万円の合計106万円並びにこれらに対する遅延損害金の支払を求める限度で認容し,その余を棄却したところ,控訴人が控訴した。
3 本件の前提事実,争点及び争点に関する当事者の主張は,以下のとおり原判決を補正し,後記4のとおり,当審における当事者の補充主張を付加するほかは,原判決「事実及び理由」中の第2の1及び2に記載のとおりであるから,これを引用する。
(1) 原判決3頁23行目の「身体に障害を被った」を「身体に傷害を被った」に改める。
(2) 原判決5頁1行目から9行目までを次のとおり改める。
ア 平成21年12月9日
同年11月13日に同日から同年12月12日までの交通事故相談業務に対する報酬として3万円を受領した旨の領収証
イ 平成22年1月1日
平成21年12月14日に同月13日から平成22年1月12日までの交通事故相談業務に対する報酬として2万円を受領した旨の領収証
ウ 同月27日
同月13日に同日から同年2月12日までの交通事故相談業務に対する報酬として2万円を受領した旨の領収証
エ 同年2月~3月
同年2月12日に同月13日から同年3月12日までの交通事故相談業務に対する報酬として2万円を受領した旨の領収証
オ 同年4月5日
同年3月15日に同月13日から同年4月12日までの交通事故相談業務に対する報酬として2万円を受領した旨の領収証
カ 同月27日
同月12日に同月13日から同年5月12日までの交通事故相談業務に対する報酬として2万円を受領した旨の領収証
キ 同年5月19日
同月12日に同月13日から同年6月12日までの交通事故相談業務に対する報酬として2万円を受領した旨の領収証
ク 同年6月18日
同月14日に同月13日から同年7月12日までの交通事故相談業務に対する報酬として2万円を受領した旨の領収証
ケ 同年7月29日
同月14日に同月13日から同年8月12日までの交通事故相談業務に対する報酬として2万円を受領した旨の領収証
(3) 原判決5頁20行目の末尾の後に改行して次のとおり加える。
「(6) 控訴人は,平成24年4月11日,本件事故による受傷についての自賠責保険の後遺障害等級認定手続において,腰部痛及び左下肢しびれ感が自動車損害賠償保障法施行令別表第二後遺障害別等級表第12級13号の「局部に頑固な神経症状を残すもの」に該当し,左膝痛及び左折れ感が同表第14級9号の「局部に神経症状を残すもの」に該当し,上記各障害を併合した結果,同表第12級に該当するとの認定を受けた(甲5,6)。」
(4) 原判決5頁21行目から25行目までを次のとおり改める。
「(7) 本件保険契約に適用される保険約款において,搭乗者傷害保険の医療保険金及び後遺障害保険金を請求するに当たっては,被控訴人に損害の額又は傷害の程度を証明する書類を提出するものと規定されているところ(乙2の一般条項の第20条②項),控訴人は,被控訴人に対し,平成22年7月8日に実通院治療日数等が記載された診断書(乙10)を送付し,平成24年7月10日に後遺障害等級認定結果が記載された書面(乙11)を送付した。
上記保険約款において,被控訴人は,被保険者又は保険金請求権者が保険金の請求手続をした日からその日を含めて30日以内に保険金を支払う旨規定されている(同第21条①項)。
以上のことからすると,控訴人に関する医療保険金の支払期限は平成22年8月6日となり,後遺障害保険金の支払期限は平成24年8月8日となる。」
(5) 原判決5頁26行目の「(7)」を「(8)」に改める。
(6) 原判決6頁7行目から10行目までを次のとおり改める。
「控訴人は,C行政書士との間で,1か月2万円の報酬でeメールにより回数無制限で交通事故の相談を受けることができる旨の契約を締結し,相談に対する報酬として,前提事実(4)に記載されたもののほか,平成22年9月から平成24年9月までの間に原判決別紙のとおり毎月2万円ずつを支払った。控訴人は,同契約に基づき,C行政書士に対し,本件事故について,自賠責保険金の被害者請求のほか,事故状況及び損害額の立証方法を相談し,自動車の損傷の状態から事故状況について大まかな工学的分析をしてもらったり,より詳細な調査が必要となる場合の元警察官の調査員の手配,控訴人の症状に応じた医師の選び方,検査・治療の受け方等について助言を得た。
被控訴人は,当初は,C行政書士に対する報酬について保険金支払に応じていたが,やがて保険金支払額が10万円超えたとして支払に難色を示すようになり,突然支払を打ち切った。しかしながら,C行政書士の上記業務は,全て控訴人にとって有用であったから,その報酬は,全額弁護士費用等補償保険金の対象となるというべきである。」
(7) 原判決7頁5行目の末尾の後に改行して次のとおり加える。
「被控訴人は,控訴人から,行政書士に対する報酬につき弁護士費用等補償特約利用の照会があった際に,行政書士の場合報酬の対象となる業務が限定されるため,保険金の対象となる報酬は5万円から10万円の限度であると伝えており,被控訴人が控訴人のC行政書士に対する報酬支払に同意したことはない。
したがって,控訴人がC行政書士に対して支払った報酬のうち,弁護士費用等補償特約に基づく保険金の対象となるのは,行政書士法に規定された相談業務に対する相当な報酬の範囲に留まるというべきである。」
4 当審における当事者の補充主張
(1) 控訴人
ア 弁護士費用等補償保険金について
控訴人がC行政書士に相談をしたのは,本件事故の加害者の弁護士が誤った事実認識に基づき加害者の過失や控訴人の人損を否定する発言をしたため,専門家の助言を得て自己の正当な利益を守る必要があると考えたからである。控訴人は,C行政書士から,交通事故損害賠償についての基本的な権利義務関係の説明,加害者側の対応に不満があるときにとるべき手段の教示,控訴人の症状に有用な検査や治療,症状から疑われる病態の説明,自賠責保険金受領後の加害者との交渉において伝えるべき事実や準備すべき資料の助言,あっせん手続における事実的,法的主張の仕方の助言を得た。その結果,平成23年8月8日にされた後遺障害等級14級の認定が,異議申立てを経て平成24年4月11日に併合12級の認定に変更されたり,あっせん手続において当初の和解案が控訴人に有利に修正されるなどし,納得のいく解決を図ることができた。
したがって,C行政書士に対して支払った報酬は必要かつ相当であったといえる。
イ 医療保険金について
控訴人は,平成22年1月10日に就労復帰したが,腰から足にかけての痛みやしびれのため,本件事故前に従事していた産業廃棄物の収集,運搬,処分の業務に従事することができず,収集車の運転業務や事務作業を担当することになり,会社に対する貢献度が著しく低下した。また,私生活においても,5階にある自宅までの階段の利用,浴槽の清掃,買い物の際の荷物の運搬,就寝時の横臥に支障を来している。控訴人は,後遺障害等級併合12級の認定を受け,平成25年12月には腰椎ヘルニアに起因する筋力低下により「下肢に著しい障害」があるとして身体障害者福祉法施行規則別表第五号4級の認定を受けたことからも,症状固定前の勤務先における業務遂行及び日常生活において14%以上の支障があったことは明らかである。
(2) 被控訴人
ア 弁護士費用等補償保険金について
本件保険契約に適用される保険約款において,弁護士費用等補償保険金の対象となる弁護士費用等は,被保険者が予め被控訴人の同意を得て支出したものであると規定されているところ,控訴人は,被控訴人の同意を得ることなくC行政書士に相談をし,報酬を支払ったのであるから,同報酬が行政書士法1条の3第3号に規定された行政書士の業務の範囲内であること及びその額が相当であることにつき厳格に立証すべきであるが,10万円を超える報酬について上記立証はない。
イ 医療保険金について
控訴人が就労復帰した時点で本件事故前の状態まで回復していなかったとしても,食事,排せつ,寝起き等の日常生活に必要な動作が可能となり,又は本件事故前の業務に従事し,相当の業務を遂行し得る程度にまで回復したことは明らかであるから,医療保険金算定の対象となるのは平成22年1月9日までの通院に限られる。
第3 当裁判所の判断
1 当裁判所も,控訴人の請求は,医療保険金6万円及び後遺障害保険金100万円の合計106万円並びにうち6万円に対する平成22年8月7日から,うち100万円に対する平成24年8月9日から各支払済みまで年6分の割合による遅延損害金の支払を求める限度で理由があり,その余は理由がないから棄却すべきものと判断するが,その理由は,次項において当審における補充主張に対する判断を付加するほかは,原判決「事実及び理由」中の第3の1ないし3に記載のとおりであるから,これを引用する(ただし,原判決8頁25行目の「後遺障害分」の後に「と同14級の後遺障害分との差額」を加える。)。
2 当審における補充主張に対する判断
(1) 弁護士費用等補償保険金について
ア 本件保険契約の弁護士費用等補償特約により保険金支払の対象となる行政書士報酬は,損害賠償に関する争訟について,予め被控訴人の同意を得て支出したもので,行政書士法1条の3第3項に規定する相談に対する報酬を含むとされている(引用した原判決の「事実及び理由」中の第2の1(3)ア(ウ),(エ))。被控訴人が,控訴人に対する弁護士費用等補償保険金の支払を打ち切る前に,控訴人に対し,C行政書士に対する報酬について10万円を超えて保険金を支払うのは困難であることを伝えていたことは当事者間に争いがない。本件訴訟において控訴人が請求する弁護士費用等補償保険金は,C行政書士に支払った報酬のうち既に同保険金によって填補された19万円を超える部分に対応するものであるところ,同報酬は,被控訴人の同意なく支出されたものであるから,これを保険金によって填補される支出であると認めるには,控訴人において,上記報酬の対象となったC行政書士の業務が行政書士の業務として適法であり,かつ,本件事故による損害賠償を巡る紛争の解決のために必要で,報酬額が相当な範囲にあることを立証することを要するものと解される。
イ 控訴人は,C行政書士に対する相談や依頼した業務の内容について,前記第2の3(6)及び同4(1)アのとおり主張するところ,このうち自動車損害賠償補償法15条の規定による保険金請求に係る書類作成及びこれについての相談(書類の体裁,記載事項等について,質問に答え,指示し,又は意見を表明する等の行為)は行政書士の業務として適法であると認められる。しかしながら,その他の事項については,控訴人の症状に対する治療についての助言や控訴人が本件事故の加害者との間で損害賠償についての示談交渉をするに当たっての法的な助言,証拠収集に関する援助というのであって,行政書士法に規定する行政書士の業務の範囲外であるか,弁護士法72条により,原則として弁護士の独占業務とされているその他一般の法律事件に関する鑑定その他の法律事務の取扱いに当たるおそれがあるところ,控訴人は,C行政書士が行った業務の詳細について明らかにせず,これを裏付ける客観的な証拠も提出しない。
そうすると,控訴人がC行政書士に対して支払った報酬のうち自動車損害賠償補償法15条の規定による保険金請求に係る書類作成及びこれについての相談業務に対する報酬は,弁護士費用等補償保険金によって填補されるが,その余の報酬は,行政書士の業務として適法であるとは認められず,上記保険金によって填補されるものと認めることはできない。
ウ 本件事故についての自動車損害賠償補償法15条の規定による保険金請求に係る書類作成及びこれについての相談業務に対する行政書士報酬の適正額については,平成16年4月1日に廃止された日本弁護士連合会報酬等基準によると,自動車損害賠償責任保険に基づく被害者による簡易な損害賠償請求の弁護士報酬の基準額は,給付金額が150万円を超える場合給付金額の2%とされているところ,控訴人に対する自賠責保険金の給付額は合計344万円であること,行政書士業務には弁護士業務に比べて制限があることからすると,控訴人が後遺障害等級認定について異議を申し立て,等級認定の変更を受けたという経緯を考慮しても,上記C行政書士の業務に対する報酬のうち19万円を超える部分について相当性があったと認めることはできない。
(2) 医療保険金について
控訴人は,就労復帰後も本件事故の受傷による痛み,しびれのために従前と同じ業務に就くことができず,日常生活の様々な場面で支障があったと主張する。しかしながら,就労面については,控訴人は,平成22年7月23日,被控訴人の依頼を受けた調査員に対し,勤務先で午前8時から午後5時まで清掃車の運転業務に従事している,現在の勤務は10年程続けている,特に力仕事ということではないが,仕事に支障は出ている旨説明しているが,本件事故の前後で担当業務が大きく変更したとは述べていない(乙6)。
また,控訴人提出の勤務先の代表取締役D作成の「証明書(Xの後遺症の件)」と題する文書(甲24)にも,控訴人は,本件事故の後遺症により仕事に支障があると記載されているものの,本件事故の前後での担当業務の変更の有無,仕事に生じた支障の内容,程度について具体的な記載がない。これらのことからすると,本件事故の前後で担当業務が大きく変更したとの控訴人の主張は疑わしく,むしろ,調査員に対する上記説明の内容や就労復帰後休業することなく勤務を続けていることからすると,控訴人は,従前と同じ職場に復帰し,概ね従前と同様の業務に従事しているものと認めるのが相当である。
また,控訴人は,その主張を前提としても,フルタイムで就労しながら,介護,介助を受けることなく必要な日常生活動作を単独で行い,自立した生活を営んでいるものと認められる。
そうすると,控訴人は,職場復帰の日をもって「平常の生活又は平常の業務に従事することができる程度になおった」ものと認めるのが相当である。
3 以上によれば,前記1記載の限度で控訴人の請求を認容しその余を棄却した原判決は相当であって,本件控訴は理由がないから,これを棄却することとし,主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官 小松一雄 裁判官 本多久美子 裁判官 寺本佳子)