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小松亀一法律事務所は、「交通事故」問題に熱心に取り組む法律事務所です。

交通事故重要判例

入院期間・治療相当性について激しく争われた判例紹介2

○「入院期間・治療相当性について激しく争われた判例紹介1」の続きです。

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(3) 原告らの再反論
ア 本件は,一般道路上の追突による交通事故であって労災事案ではなく,労災保険という制度を利用するものではないので,労災保険の制度趣旨に拘束されることはなく,本件につき労災保険の基準が適用される余地はない。

イ また,本件事故直後,被告会社の相模原営業所副所長のCが,保険会社の社員2人を連れて,原告らが入院中の晃友内科整形外科を訪れ,原告らに対し「本件事故は自社所有のタクシーによる事故であり,申し訳ない。今後のことは保険屋が対応します。費用は当然,全額,当方が持ちますので,しっかり治して下さい。」などと約束し,入院の必要性と損害金の全額補償を確約していたのである。

ウ 原告X1は,本件事故により,強い吐き気があり,立っていられない状態であり,ベッドで横になると,症状がやや緩和されることがあったが,また起き上がると強い吐き気におそわれ,起きていられない状況であった。原告X1が本件事故後6日目である平成18年7月29日の朝にタバコを吸ったのは,本件事故による今後の不安から癖でタバコに火をつけたが,すぐ気持ち悪くなったので途中でタバコは捨ててしまった。同月26日には,前日まではなかったが,両腕にしびれが出始めたので,これを訴えたが,その時点では,まだしびれが出始めたばかりであり,それほどのしびれではないと言っただけである。また,腰部の痛みが前日よりはやや緩和されたと答えただけであり,治ってきていると言ったわけではなく,腰部の痛みは,その日により異なる状態であった。

 そして,原告X1が晃友内科整形外科入院中に外出したのは,当時,原告X1が神奈川県から指定された豚への防疫事業を履行せざるを得ない状態であったが,本人は,注射ができる状態ではなく,仕方なく,本人が現場に立ち会い,同原告の監督のもとで,他の人に注射をさせるため,外出したのであり,普通に外出できる状態でなかったことには変わりはなかった。また,8月9日は警察での取調べであり,8月7日と9日は,相模原協同病院にMRI検査を受けるための外出であり,何ら異とするところはない。8月13日の外泊は,長女の原告X3がその日退院し,自宅に一人きりで,本件事故後の退院であり,自分のことも心配であったが,原告X3のことも気がかりであったので,病院の承諾を得て,自宅に泊まったものであり,何ら異とするところはない。なお,平成18年8月15日の看護記録には,気分不快訴えなしの前に,「症状変わらず」との記載がある。

 原告X1が八木病院入院中に一時外出したのは,担当医の許可により,外出したものである。8月17日,24日,25日,31日,9月1日,7日の外出は,仕事のための外出であり,これは,獣医師として県の委託業務であり,回避できない業務で,症状をおして仕事のため外出したのである。また,8月18日は綾瀬市農業下水組合からの呼び出しのための外出であり,8月19日は,本件事故により受傷した原告X4の眼科への付き添いでの外出であり,また,8月22日は,本件事故の警察での事情聴取のための外出であり,これらはいずれも避けられない外出であり,しかも,一時的外出であり,担当医が入院の必要性を認めていたこととは何ら反するものではない。なお,8月23日,29日には,病院内でのリハビリのため病室から外出しただけで,病院外に外出はしていない。
 原告X1が来室者と室外に出たのは,病室で話をすると他の入院患者に迷惑がかかるからである。

エ 原告X2は,本件事故により,頚部,腰部等の痛み,吐き気,しびれなどの症状があり,食事もまともに口に入らない状態であり,点滴を受けると,一部症状が緩和されることがあったが,また時間が経つと同じ症状になるという繰り返しであり,まともな食生活が送れるような状態ではなかった。原告X2において,起立することに時間がかかること自体,異常なことであり,また,歩行できるということも,通常人のように普通に歩行できることと,やっと,まがりなりにも歩けるということは,それ自体大きな違いがある。
 原告X2の頚部痛,腰部痛はいずれも耐え難いほどの痛みであり,点滴,投薬,湿布液等の処置によりこれらを抑えていたもので,一時緩和されることがあるが,時間の経過とともに痛みを繰りかえす状態であった。原告X2は,何の処置もなく生活を送れるという状態ではなかった。

オ 原告X3は,本件事故により,救急車で病院に運ばれ,病院で処置を受けていたので,症状が一時的に軽減されることがあることは,処置の当然の結果であり,ただ処置をされても,時間の経過により痛みを繰り返す状態であったものである。

カ 原告X4は,本件事故により,頚部,腰部の激痛のほか,吐き気などがあった。

(4) 被告らの再々反論
 交通事故と労災事故と,事故の種類によって治療の濃密さが異なる理由はない。
 そもそも頻回にわたる外出と稼働が可能なくらいであれば,入院の必要性は全く認められない。

2 原告らの症状に対するリプル点滴の適応と本件事故との相当因果関係の有無,リプル点滴の医療費についての原告らの損害ないし被告らの賠償義務の存否
(1) 原告らの主張

ア リプル点滴は,慢性動脈硬化の血管を拡張する効能や,振動病における末梢血行障害に伴う自覚症状,並びに,末梢循環・神経・運動機能障害の回復の効能があり,担当医師は,この末梢循環・神経・運動機能障害の治療として使用したものと考えられる。
イ 原告らの頚椎捻挫は,末梢血管の収縮や,神経症状・運動機能不全を引き起こし,リプル点滴は,これらの症状を改善させる効能がある。
ウ いずれにしても,リプル点滴の治療行為は,担当医師の判断によるものである。原告らの方で,症状に対する病院側の処置についてとやかく言える立場ではなく,病院側は,自分たちの知見,経験に基づき治療をしているものであり,正当である。

(2) 被告らの反論
ア リプルは,慢性動脈硬化の患者の血管を拡張するための薬であり,単なる頚椎捻挫の患者に投与する必要性は全くない。
イ したがって,原告らに対してなされたリプル点滴に係る医療費の請求は否定されることとなる。

3 原告らの素因と入通院による損害との因果関係(素因減額)
(1) 原告らの主張

 原告らの傷害による入通院は本件事故によるものであって,原告らの素因とは全く関係ない。

(2) 被告らの反論
ア 原告X2の症状に関しては,心因性の要素及び素因の問題が色濃く影響していると考えられる。すなわち,カルテの記載でも,「パニック障害の薬飲んでも効果ない。事故のこと,相手の出方を考えただけで心拍がどんと上がる。」(平成18年9月4日),「常に不安。心臓バクバクが止まらない。」(同月6日),「夜間不安あり」(同年10月2日)等の記載がみられることから,原告X2は,交通事故や治療に関する耐性が低く,それが症状愁訴や治療遷延化につながっているものと推測される。

 また,原告X2の腰痛に関しては,看護記録に「腰痛は以前の事故からもあったと」と記載されており(同年8月19日),腰痛に関する治療については適切な割合による素因減額がなされてしかるべきである。

イ 原告X3の症状は,平成18年9月4日のカルテに「イライラする。眠れない。人が怖い。何に対しても不安。突然悲しくなる。自分が訳分からなくなる。気がつくとすぐトイレに行ってしまう。記憶が飛ぶ気がする。」と記載があるように,交通事故や頚椎捻挫に対する精神的耐性が低いことから,心因性の要素が関与しているものと考えられる。

ウ 原告X4は,原告X2,原告X3と同じく,心因性の要素が関与していると考えられる。すなわち,平成18年8月15日の看護記録には「痛み自制内―精神的なものによるものか?」,同月19日のカルテには「(目がチカチカする)→眼は精神的なもの」との記載があり,ともに家族として生活する中で,交通事故及び頚椎捻挫について過敏に反応する傾向があったと考えられる。

 また,原告X4は,平成18年8月4日のカルテにおいて「不良姿勢,全身に叩打痛」との記載があり,同年11月20日のカルテでも「車酔いが強い。頭痛がある→不良姿勢のせい」と指摘されており,同原告の不良姿勢が痛みを増幅維持させた事情もある。