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その他交通事故

柔道整復師施術過誤についての損害賠償請求が否定された東京地裁判例まとめ

○「柔道整復師施術過誤についての損害賠償請求が否定された東京地裁判例紹介1」、「同2」「同3」のまとめです。
文字数で3分の1以下の量にまとめようとしたのですが、うまくまとまりません(^^;)



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第2 事案の概要
第1事件
被告Y1社の経営するa整骨院(以下「被告整骨院」という。)において,その従業員であるD(以下「D」という。)から施術でにより頚椎椎間板ヘルニアの症状が出現したと主張して,原告が被告Y1社・その代表者被告Y2に対し,債務不履行又は不法行為(使用者責任)等に基づく損害賠償約4000万円を請求
被告Y2の被告現代海上に対する保険金支払請求権を代位行使して,被告現代海上に対して,原告と被告Y2との間の判決確定を条件に上記損害賠償金及び遅延損害金と同額の保険金の支払請求
第2事件
被告治療協会の会員である被告Y2が,被告治療協会の提供する会員保障制度に基づき,原告と被告Y2との間の判決確定を条件に上記損害賠償金及び遅延損害金と同額の保障金の支払を請求

1 前提事実
(1)当事者等

ア 原告は,平成20年6月25日当時,31歳で,以前にプロのキックボクサーとして活動していたこともある男性
イ 被告Y1社は,被告整骨院を経営する有限会社
ウ 被告Y2は,被告Y1社の代表取締役、被告整骨院の院長であり,あん摩マッサージ指圧師免許,はり師免許及びきゅう師免許取得者
エ Dは,柔道整復師免許を有する被告整骨院従業員
オ 補助参加人は,柔道整復師免許を有し,被告整骨院の従業員として柔道整復を業として行っていた者
カ 被告現代海上は,損害保険業等を業とする株式会社である。
キ 被告治療協会は,手技療法に関する研修事業等を業とする一般社団法人

(2) 診療経過
ア 原告は,平成20年6月24日,被告整骨院を受診し、5日前の格闘技で右膝亜脱臼の感、寝違えたような頚部痛,椎間板ヘルニアないしその疑いがあることを告知、診療録には「CTLヘルニア」(頚椎,胸椎,腰椎ヘルニア)との記載
 原告は,同日,補助参加人からマッサージ等を受け、診療録(乙A2)には,同日付けの補助参加人の施術について「頚軽め」等の記載
イ 原告は,同月25日,Dからマッサージ等「本件施術」という。)を受け,その後,被告Y2からはり治療
ウ 原告は,同月27日午前2時半頃,右肩甲骨付近に激痛,右腕の肘から小指にかけて痺れ発症。同月27日及び28日,被告整骨院に来院し,同症状に対して補助参加人からマッサージ等の処置
エ 原告は,同月29日,医療法人社団桐光会調布病院の救急外来を受診した。頚椎MRI上,C5/ 6頚椎椎間板ヘルニア発症
オ 原告は,現在,右手小指の痺れ,感覚異常(温水が冷たく感じる。),右手の握力の低下及び頚部の痛み等あり

(3) 被告治療協会の会員保障制度(以下「本件会員保障制度」という。)
 被告Y2は,本件施術実施当時,被告治療協会に入会
 被告治療協会は、「会員保障制度の適応」として、「本会会員に法律上の賠償責任が発生した場合にその賠償金額を本会が保障」
 そのために本会は損害保険会社と賠償責任保険の包括契約を締結し、保険金全額を会員へ支払約束

2 争点及びこれに対する当事者の主張
(1) Dの注意義務違反の有無(争点1

 (原告の主張)
ア 椎間板ヘルニアの症状がある者に対してマッサージ等を実施する場合は,事前に十分な医学的検査をし,医師の適切な指導を受けつつ,これを実施すべき注意義務があるところこれを怠って施術実施
イ Dは,頚椎の上を直接部分を強く押し当ててゴリゴリと動かすような態様で施術を実施、Dは強い痛みを覚えたが、耐えていた

(被告らの主張)
ア 原告が主張するような一般的注意義務はない。
イ Dが頚椎の上を直接施術した事実はない、本件施術で椎間板ヘルニアが顕在化ことはあり得ない。

(2) 上記(1)の注意義務違反と結果との因果関係(争点2
(原告の主張)
 上記1(2)ウのとおり,原告本件のような重篤な症状と、被告整骨院での本件施術には、相当因果関係が存在
 なお,原告は,21歳の頃,椎間板ヘルニアの疑いを指摘されたが,本件施術に至るまでに頚部に特段の力学的負荷が加わる活動は行っておらず、原告が被告整骨院を受診した目的も,膝の治療であって,頚部及び腰部の疲労感を申告しただけ

(被告らの主張)
 本件施術内容からして本件施術によりヘルニアが出現することはあり得ない。施術後1日以上も経過して痛みが出ることもあり得ない。

(3) 損害(争点3)
(原告の主張)
ア 治療費・交通費等 5万7165円
イ 休業損害 482万9207円
ウ 後遺症逸失利益 2341万7353円
 後遺障害等級第9級(神経系統の機能又は精神に著しい障害を残し,軽易な労務以外の労務に服することができないもの)で35%労働能力喪失
エ 入通院慰謝料 170万円
オ 後遺症慰謝料 690万円
カ 合計金額約4000万円

(被告らの主張)
 損害の発生を否認し,損害額を争う。

(4) 被告Y2の責任の有無(争点4)
 (原告の主張)
 被告Y2は,Dの不法行為に関し使用者責任と会社法429条1項に基づく責任を負う。
(被告Y2の主張)
 原告の主張をいずれも争う。

(5) 被告現代海上の支払義務の有無(免責事由の有無等)(争点5)
 (原告の主張)
ア 被告Y2は資力不足なので、被告Y2の有する本件保険契約に基づく保険金支払請求権を代位行使し、被告現代海上に損害金同額保険金支払請求
イ 被告Y2は,少なくともあん摩マッサージ指圧師の資格を有しているのであるから,本件特別約款3条の適用はない。

(被告現代海上の主張)
ア 本件特別約款3条により、被告Y2は所定の資格を有しないので、被告現代海上は支払義務を負わない
ウ 会員である被告Y2は,自己以外の者が施術に関与した事実を「隠した」ものであるから,本件普通保険約款20条1項により被告現代海上は,被告Y2に対し保険金支払義務を負わない。
エ 被告Y2の被告現代海上への保険金請求時点は,被告Y2が会員資格を失った平成21年12月末より後のことであるから,被告現代海上は,保険金支払義務を負わない。

(6) 被告治療協会の支払義務の有無(免責事由の有無等)(争点6)
(被告Y2の主張)
ア 被告治療協会は、本件会員保障制度により,被告治療協会は,会員に対して直接保障金を支払う義務を負う。
イ 本件会員保障制度上、補助者が施術した場合も当然に支払対象となる。

(被告治療協会の主張)
ア 本件会員保障制度は,被告現代海上との損害保険契約に基づく保険金をもって会員の損害をてん補するもので、被告治療協会が自らその会員に対し支払義務を負わない
イ 仮に,被告治療協会が自ら会員に対して直接の支払義務を負うと解される場合であっても,会員でない者の手技療法等の業務遂行に起因して損害の支払義務を負わない。
ウ 支払の対象は,保険金請求時に会員資格を有する場合に限られるが、被告Y2請求時には,会員資格がないので、被告治療協会は義務を負わない。
エ 本件施術は柔道整復であったところ,被告Y2は柔道整復師の資格を有していなかったので、施術に起因して損害が発生したとしても,本件保険契約に基づく保険金の支払対象ではなく,よって,被告治療協会も支払義務を負わない。

第3 当裁判所の判断
1 争点1(Dの注意義務違反の有無)について
(1)柔道整復師施術の一般的注意義務

患者に椎間板ヘルニアやその疑いがある場合に,原告の主張の注意義務の存在が一般的に認められると解するに足りる証拠はなく、Dが事前に十分な医学的検査をしたり,医師の適切な指導を受けたりせず本件施術を行っても直ちに注意義務違反違反とは言えない。

(2)柔道整復師施術に不適切な点があったか
(ア) 施術前の症状
 被告の診療録には,「頚痛 寝違えたような感じ 疲労性」との記載があり,頚痛が椎間板ヘルニアの症状と特定できないが、少なくとも被告整骨院受診時には,頚部に何らかの痛みが生じていた
(イ) 本件施術時の状況
 本件施術時や施術直後において,原告が痛みや体調の不良等を訴えていないことについては,当事者双方に争いがなく,本件施術時の状況において,本件施術に不適切な点があったと疑わせるに足りる事情は存在しない。
 施術時に現に痛みを訴えていない以上、仮に痛みがあったとしても,その程度は許容範囲程度と推測でき、原告は,当初,本件施術よりも,被告Y2の実施したはり治療を主に問題視していたとところか、本件施術時に異常な痛み等が生じていたわけではないと考えるのが合理的
(ウ) 本件施術後の症状経過
 原告は,本件施術後1日半が経過した後に,右後頚部痛,右小指しびれ等の症状が生じた旨主張,供述しており,それまでは,症状は現れていない。
(エ)結論
 本件施術時に異常な痛みが生じるような事態は認め難く,実際に原告が主張症状は、本件施術後1日半が過ぎた後なので、被告の施術に不適切な点があったと認められない。
 また,本件意見書においても、本件施術により頚椎椎間板ヘルニアの症状が悪化したことは言えず、原告の格闘家としての経緯からは、椎間板への負荷が徐々に蓄積し,これにより頚椎椎間板ヘルニアの症状が自然経過的に出現した可能性があり、被告の施術に不適切だったと推認できない。
2 その他の点について
 本件施術に注意義務違反が認められないので、その余の点について判断するまでもなく,原告の請求はいずれも認められないが、その他の多くの争点について付言する。

(1) 争点4(被告Y2の責任の有無)について
 Dを雇用したのは被告Y1社で,Dの施術での経済的利益も少なくとも法的には被告Y1社に帰属するので、使用者責任を負うのは被告Y1社のみ。被告Y2に使用者責任はない。

(2) 争点5(被告現代海上の支払義務の有無)について
 本件特別約款3条により、被保険者被告Y2が柔道整復師の資格を有していなかった以上は,被告現代海上は,保険金支払義務を負わない

(3) 争点6(被告治療協会の支払義務の有無)について
 被告治療協会自身が一定のリスクを引き受け,一定の事象が発生した場合に保険金支払義務を負うといった性質を持つものとして本件会員保障制度を位置付けることは相当でなく,単に被告治療協会が保険会社から払い受けた保険金を支払う義務を負担するにすぎないものと解することができるが、被告治療協会が会員に対して直接の保障金支払義務を負うものと認めるに足りる根拠がない
本件会員保障制度の保障対象は個人で、申込書に記入された会員のみが福利厚生の対象とされているので、会員以外の施術に起因する損害はその保障対象に含まれない
 会員がスタッフによる施術につき使用者責任を負う場合は保障対象になると解すると、保障は個人を対象とすると限定した意味がなくなり、Dは被告Y1社のスタッフであっても会員である被告Y2のスタッフではなく、支払の対象は,保険金請求時に会員資格を有する場合に限られているところ,被告Y2は,保険会社に対する請求時には,会員資格を有していなかったので,被告治療協会は,原告に対し保障金支払義務を負わない。