本文へスキップ

小松亀一法律事務所は、「交通事故」問題に熱心に取り組む法律事務所です。

休業損害逸失利益

自営業者の休業損害・逸失利益算定時の固定経費に関する参考判例紹介

○交通事故訴訟で保険会社主張と必ず争いになるのが、自営業者の休業損害・逸失利益算定基礎収入です。保険会社は、前年申告所得額と主張して譲りません。しかし自営業者は、売上から仕入代金等の経費だけでなく、地代家賃等事業継続に必要な固定経費を差し引いた金額を申告所得としており、申告所得額と実際所得額は大きく異なっているのが常識です。

○そこで自営業者の自営業者の休業損害・逸失利益算定基礎収入算定方法は、事業を継続する上で休業中も支出を余儀なくされる家賃・従業員給料などの固定経費も相当性がある限り休業損害に含まれるとされています(青本24訂版70頁)。この休業損害と固定経費に関する判例を5つ紹介します。

平成12年3月3日大阪地裁判決(自動車保険ジャーナル・第1361号)
6 休業損害 39万4245円
 証拠(略)によれば、亡Aは、運送業を営んでおり、平成9年の申告所得は155万5056円であり、これに固定経費①租税公課5万7600円、②損害保険料17万7480円、③修繕費33万5843円、④減価償却費29万2119円、⑤地代家賃34万9200円を加えた合計276万7298円が休業損害の基礎収入とすべきであるところ、その52日分は、次のとおり、39万4245円となる。

平成26年10月31日大阪地裁判決(自保ジャーナル・第1938号、事件番号 平成24年(ワ)第13647号)
カ 後遺障害逸失利益 1117万3055円
(ア) (逸失利益)基礎収入 477万9099円
 本件事故発生の前年である平成20年における原告の確定申告売上額は945万6500円、申告所得額(青色申告特別控除を除く)は77万1087円である。
 同申告の基礎となる損益計算書には、経費として、地代家賃352万8000円、リース料48万0012円を含む合計526万6867円が計上されている。
 自営業者の基礎収入については、売上金額から流動経費を控除した額(すなわち、売上から全ての経費を控除した所得に固定経費を加えた額)を基礎とするのが相当である。したがって、原告の基礎収入については、上記申告所得額に固定経費と考えられる地代家賃及びリース料を加算した477万9099円として逸失利益を算定するのを相当とする。

平成24年7月5日高松高裁判決(自保ジャーナル・第1879号)
(2) 休業損害
ア 証拠(略)によれば、原告は、本件事故当時、E会社の名称でプレス加工業を自営し、本件事故前年(平成20年)の確定申告では、売上が649万7708円、経費を差し引いた所得が239万8889円であるところ、自営業者の休業損害、逸失利益の前提となる基礎収入の算定においては、休業の有無にかかわらず支出を要する固定経費を考慮する必要があり、前記売上から、休業により支出を免れる給料・外注工賃費、租税公課、荷造運賃、水道光熱費、旅費交通費、通信費、接待交際費、消耗品費として確定申告に計上された金額を差し引いた515万6962円とするのが相当である。
 原告は、過去3年間の平均値によるべき旨主張するが、原告の売上は平成18年が1079万8764円、平成19年が743万0019円で、次第に減少傾向にあり、約7年前までは人を雇用していたが、内職としての外注になり、それも事故前には止めていたこと(原告本人)等も考慮すると、過去3年間の平均値による推計を相当とする事情があるとは認められない。
 他方、被告は、休業により免れる費用として、さらに、減価償却費の50%、修繕費、福利厚生費、雑費を控除すべきである旨主張するが、しかし、本件のように、完全な休業ではなく、営業そのものは継続しつつ、通院時間の休業や割合的な労働能力喪失の影響を推計するに際して、被告主張の控除をすべきものとは認められない。
  (中略)
(3) 逸失利益(※算定基礎収入を申告額に固定経費を加えた休業損害算定方法と同じ金額)
ア 証拠(略)によれば、原告は、本件事故により、頸部痛、上肢の知覚鈍麻(左側が強い)、腰部痛、下肢の知覚鈍麻(左側が強い)、左膝関節痛等、頸部、腰部及び左膝関節にそれぞれ神経症状を残し、併合14級の認定を受けており、前記各後遺障害については、本件事故と相当因果関係あるものと認められる。
  (中略)
イ 労働能力喪失率については、原告の就労の具体的内容等に関する原告提出の各証拠(略)を考慮しても後遺障害等級14級の一般的な喪失割合である5%を超える喪失率を認めるべき特段の事情があるとまでは認められないが、就労内容からみて、後遺障害による労働能力の低下からの回復は容易ではないものと推認でき、喪失期間については、症状固定時の60歳から一般的な就労期間とされる67歳までの7年間と認めるのが相当である。
ウ そして、前記年収515万6962円を基礎として、ライプニッツ係数(5.7864)により中間利息を控除すると149万2012円となる。

平成23年1月26日東京地裁判決(自保ジャーナル・第1850号)
(4) 休業損害 474万1603円(請求額1059万5215円)
ア 基礎収入
 原告は、保険外交員であり、事業所得者であるから、基礎収入の認定に当たっては、平成19年の確定申告書に記載の売上金額から経費を控除した1009万3953円に固定経費を加算して算出することとする。
 経費が固定経費かどうかは次のとおりである。
(ア) 租税公課 59万3200円
 固定経費と認められる。
(イ) 荷造運賃 0円
 固定経費とはいえない。
(ウ) 水道光熱費 6万9360円
 休業中も基本料金等は発生するので、上記金額の限度で固定経費と認めるのが相当である。
(エ) 通信費 41万4526円
 休業中も基本料金等は発生し、また、事業維持のための必要な通信は発生するから、上記金額の限度で固定経費と認めるのが相当である。
(オ) 接待交際費 200万円
 原告は、接待交際費の内訳について、①冠婚葬祭費・慶弔費・お見舞い金約100万円、②お歳暮・中元の贈り物約80万円、③飲食代約530万円と説明している。
 一般的には、接待交際費は変動経費とされているが、上記①、②は休業中も事業継続のためにやむを得ない支出といえ、固定経費とみることができる。しかしながら、平成19年より約300万円減収となった平成20年は接待交際費が約60万円減り、平成19年より700万円減収となった平成21年は接待交際費が約130万円減っており、収入減に伴って接待交際費も減少していることや、保険外交員という原告の職業に照らして飲食を伴う接待交際は営業活動そのものの一環であるといえることから、上記③のほとんどは固定経費と評価することはできない。
 そこで、接待交際費における固定経費は200万円と認めるのが相当である。
(カ) 損害保険料 26万2180円
 固定経費と認められる。
(キ) 修繕費 2700円
 固定経費と認められる。
(ク) 消耗品費 0円
 固定経費とは認められない。
(ケ) 減価償却費 4万1685円
 固定経費と認められる。
(コ) 地代家賃 106万1160円
 固定経費と認められる。
(サ) 車両費 0円
 固定経費とは認められない。
(シ) 諸会費 156万9000円
 原告の職業の内容に照らし、固定経費と認められる。
(ス) 研修費 82万円
(セ) 販売促進費 66万4101円
 上記(ス)、(セ)は講演料等であるから、固定経費と認められる。
(ソ) 会社控除 115万6840円
(タ) 支払手数料 42万495円
 上記(ソ)、(タ)は接待交際費((オ))の①、②と同様に評価できるので、固定経費と認められる。
(チ) 雑費 0円
 固定経費と認めることはできない。
(ツ) 合計 907万5247円
 以上によれば、基礎収入は1916万9200円であるから、365日で除すると、1日当たり5万2518円である(円未満切捨て)。

平成13年7月25日東京地裁判決(自動車保険ジャーナル・第1417号)
(2) 休業損害 87万5799円
ア 基礎収入
 原告一は、前回事故後収益が激減していたものの、前示のとおり徐々に稼働実績を回復することに努め、また、現にその傾向を見せていたのであるから、本件事故に遭遇しなければ、平成11年の稼働収入については、前回事故前の稼働実績を反映する収入に達するとまではいえないとしても、少なくとも、前回事故による影響を直接的に受けた平成10年分稼働収入と前回事故前である平成7年分から平成9年までの稼働収入の平均値との中間値程度の実績にまで復帰する蓋然性があるものと認めるのが相当である。
 平成7年から平成9年までの青色申告特別控除前の所得金額の平均値は462万6343円であり((証拠略)所得税青色申告決算書の○46欄の金額の平均値である。)、平成10年のそれは169万4083円であるから(証拠略)、その中間値は、316万0213円である。また、事故当年の平成11年の固定経費の合計額が88万7375円であること((証拠略)所得税青色申告決算書の⑧、⑮、⑯、⑱、○22の合計額である。)、からすると、休業損害を算定するための基礎収入は、前示中間値に固定経費合計額を加えた404万7588円(日額1万1089円)となる。