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小松亀一法律事務所は、「交通事故」問題に熱心に取り組む法律事務所です。

その他交通事故

統合失調症既往症患者頚随損傷被害交通事故損害賠償請求事件顛末2

○「統合失調症既往症患者頚随損傷被害交通事故損害賠償請求事件顛末1」を続けます。
私は、Aさんの妹さんから先ず自賠責保険金請求手続を依頼され、Aさんが入院している病院に会いに行きました。当時、事故後まだ半年程度であったAさんは、ベッドに横たわり、殆ど身体を動かすこともできず、会話も殆どできない状況でした。自賠責保険金請求依頼意思をなんとか確認し、その姿を写真に撮らせて頂きましたが、事故状況等についての確認ができる状態ではありませんでした。

○Aさんが自転車に乗って赤信号で交差点に進入したのが事実とすれば、その基本的過失割合は任意保険会社主張の通りAさんの過失割合は85%になります。「自賠責保険金支払基準での過失相殺の請求は?」記載の通り、被害者に過失がある場合の自賠責保険金支払基準は、
後遺障害又は死亡事案で
①7割以上8割未満の場合、2割減額
②8割以上9割未満の場合、3割減額
③9割以上10割未満の場合、5割減額
傷害事案で
7割以上10割未満の場合、2割減額

となりますので、Aさんの場合、自賠責保険金が3割減額になります。

○また既往症があるとそのレベルに応じた減額があります。Aさんの場合、重篤な統合失調症で、労働経験が全くなく、事実上、労働能力100%喪失とも評価出来ます。この状態は、「神経系統の機能又は精神に著しい障害を残し、終身労務に服することができないもの」に該当すると認定される可能性も高く、この場合、既往症は後遺障害第3級になります。

○Aさんが蒙った別表第1の1級後遺障害の自賠責保険金は4000万円ですが、既往症第3級になるとその自賠責保険金2219万円が差し引かれ1781万円にしかなりません。その上、過失割合85%の場合、更に3割減額になると、1781万円×0.7=1246万円しか自賠責保険が出ないことになります。加害者側任意保険会社は、Aさんの既往症、過失割合から、その請求できる損害賠償額は、どう転んでも、自賠責保険限度額4000万円以下であり、任意保険会社に責任が及ぶことはあり得ないと高をくくり、Aさんの請求には一切応じないと明言しているのももっともです。

○上記は自賠責保険の金額ですが、裁判基準での損害賠償額は自賠責保険の基準金額には拘束されません。しかし、過失割合は厳格に適用され、更に既往症が第3級相当となると、Aさんの裁判基準での損害賠償額も大変厳しい金額になります。Aさんは症状固定時40歳、平均余命39年ライプニッツ係数は17.017、就労可能年数27年ライプニッツ係数14.643でした。これらの数値で日額2万円での将来介護料・約600万円の全年齢平均収入での逸失利益を計算するとこれだけで2億円を超えます。更に慰謝料や将来医療費・医療器具生活用品等を加えると損害額は3億円を超えます。

○しかし、Aさんが3級相当の後遺障害が既往症だとすると3級相当分の損害は控除され、更に、その上で過失相殺85%が減額されるとその損害額の査定は極めて厳しいものになり、自賠責保険金と余り変わらないものになります。Aさんのご両親は、当時既に70歳を超え、これから重度身体障害者となったAさんを介護できる状況ではなく、損害賠償金が十分に確保できないとAさんの生活が成り立ちません。しかし、上記の通り、見通しは極めて暗い事件で、受任はしたものの大変気が重い事件でした。