○「
苦労した交通事故事件で弁護士冥利に尽きるお褒めに感謝5」では、頭部外傷のない単なるむち打ち症から統合失調症を発症した方の交通事故事件を紹介しました。どういうわけか私は、昔、精神分裂病と呼ばれていた頃から、現在病名統合失調症に罹患した方に縁があります。その特徴は、幻覚・妄想にあり、現実と幻覚の区別がつかなくなるもので、間近に接するとホントに厳しい病気だと実感します。
○統合失調症に罹患された方は、通常人から見ると明らかに幻覚・妄想だと判ることを、実際に起きていると強く主張します。普通に考えて、およそあり得ない状況を、真実と主張して譲りません。典型的には四六時中見張られており、道路を歩いていると周囲に自分を見張っている人が、いつもついて歩いており、恐ろしくて仕方がないと言う例です。通常人からは、見張っても何の利益にもならないのに貴方を四六時中見張る暇な人は居ないと思うのですが、本人は本気でそう思っています。
○だんだんひどくなると表現もはばかれる電波攻撃を四六時中受けていると主張する例もあります。隣の家から電波が発せられ自分がトイレに入ったり、入浴中に集中的に攻撃してくるのでこれをなんとかして欲しいなんて、本気で相談に来る例です。この問題の解決に弁護士は力になれないので、先ずは精神・神経クリニックに行った方が良いと思いますなんてアドバイスをしても全く聞く耳がありません。ご本人にとっては真実を、弁護士は親身になって相談に乗ってくれないと不満を持って終わります。
○おそらく幻覚・妄想が現れたら早い段階で精神・神経クリニックに行って治療を受けた方が、病気の進行を食い止め、早期治療に繋がるはずです。しかし、本人は幻覚・妄想ではなく真実と確信しているため、通院を勧めても全く耳を貸しません。躁うつ病やうつ病の患者さんと接することもありますが、人間の病気の中で精神の病気は、ホントに厳しく辛いと実感します。
○3年程前に私のHPでの交通事故記事を見たと言って、当時40歳になるお兄さん(Aさん)の交通事故相談に来られた女性がいました。Aさんは高校入学前は成績優秀である都市一番の受験校に入学しましたが、高校1年半ばから精神に変調を来し、最終的に統合失調症と診断されて、高校を1年で中退しました。その後、精神クリニックの入退院を繰り返し、40歳近くになってようやく僅かに改善の兆しが見えてきました。このような方々を支援する団体に加入し、仕事の真似事もするようになりました。勿論、収入を得るレベルには達していません。
○そのAさんが、交通事故に遭い、頚随損傷で首から下が動かなくなり、「神経系統の機能又は精神に著しい障害を残し、常に介護を要するもの」別表第1の後遺障害等級第1級に認定されましたが、加害者側任意保険会社は、一切損害賠償請求に応じないと言います。Aさんは、自転車で赤信号無視で交差点に進入したもので85%の過失があり、自賠責保険金でその損害は十分填補されるからと任意保険会社は主張しているとのことでした。
○Aさんは、僅か16歳で統合失調症を発症し、以来20年以上に渡って幻覚・妄想に苦しみ続け、ようやく改善の兆しが僅かに見られる状態になったところで、交通事故で頚随損傷の重傷を受けで頚から下が動かなくなり、更に赤信号無視通行として、十分な損害賠償金額を得られない状況となっていました。Aさんは、正に人生の不幸・不遇を一身に集めたような方でした。私は、この事件を平成23年4月、自賠責保険金請求手続から受任し、更に訴えを提起し、平成26年10月に受任以来3年半かけて、最終解決に至りましたが、Aさん側のご了解を得て、その顛末を何回かに分けて紹介していきます。