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小松亀一法律事務所は、「交通事故」問題に熱心に取り組む法律事務所です。

その他交通事故

上告審手続の経験とその備忘録−上告受理申立

○「上告審手続の経験とその備忘録2」の続きで、上告受理申立に絞っての備忘録です。
先ず関係条文です。
民訴法第318条(上告受理の申立て)
 上告をすべき裁判所が最高裁判所である場合には、最高裁判所は、原判決に最高裁判所の判例(これがない場合にあっては、大審院又は上告裁判所若しくは控訴裁判所である高等裁判所の判例)と相反する判断がある事件その他の法令の解釈に関する重要な事項を含むものと認められる事件について、申立てにより、決定で、上告審として事件を受理することができる。
2 前項の申立て(以下「上告受理の申立て」という。)においては、第312条第1項及び第2項に規定する事由を理由とすることができない。
3 第1項の場合において、最高裁判所は、上告受理の申立ての理由中に重要でないと認めるものがあるときは、これを排除することができる。
4 第1項の決定があった場合には、上告があったものとみなす。この場合においては、第320条の規定の適用については、上告受理の申立ての理由中前項の規定により排除されたもの以外のものを上告の理由とみなす。
5 第313条から第315条まで及び第316条第1項の規定は、上告受理の申立てについて準用する。


 平成22年に結論が出された上告受理事件は事件数2247件の内96.4%相当の2166件が不受理決定で、受理されて且つ原判決が破棄されたものは、僅か1.9%相当の43件のみです。100件上告受理申立をして最終目的である原判決破棄は僅か2件弱です。上告事件(憲法違反)は、事件数1859件の内僅か0.2%相当の4件のみが最終目的の原判決破棄です。正に「開かずの門」です。

○上告受理申立事件は、受理決定されても必ず原判決破棄になるとは限らず、原判決が維持される即ち上告棄却になることもあり、平成22年に関しては、上告受理された55件の内22%相当の12件が上告棄却となっています。上告受理されると5件の内4件は原判決破棄ですから、上告受理決定が出ると相当程度破棄される可能性が高いと言えます。

○上告受理決定が出ると原則として相手方に答弁書の提出が命じられます。
民事訴訟規則第201条(答弁書提出命令)
 上告裁判所又は上告受理の申立てがあった場合における最高裁判所の裁判長は、相当の期間を定めて、答弁書を提出すべきことを被上告人又は相手方に命ずることができる。

そして原判決の当否について書面審理を行い、民訴法第319条により「上告を理由がないと認めるときは、口頭弁論を経ないで、判決で上告を棄却」しますが、上告を棄却しない場合、最高裁判所は口頭弁論を開いて審理を行います。上告を認容する場合は、民事訴訟法第87条の「当事者は、訴訟について、裁判所において口頭弁論をしなければならない。」との大原則により、必ず口頭弁論を開きます。逆に言うと、口頭弁論が開かれると上告が認容される可能性が極めて高くなります。但し、希にですが、口頭弁論を開いても上告が棄却される場合もあります。

○前述のとおり、上告受理申立が認められ且つ原判決破棄となる例は100件の内2件弱ですから、100の内98件強の上告受理申立事件は不受理決定または受理されても上告棄却で終わります。ですから、上告受理申立事件を担当する弁護士の殆どは、最高裁判所での口頭弁論に立ち会う機会はありません。弁護士経験35年になる私も上告受理申立担当経験は数件ありますが、最高裁での口頭弁論の経験は皆無です。また、お客様が高裁で勝訴して、上告受理申立をされた経験は、上告受理申立の経験より更に多数回ありますが、上告受理申し立てされたお客様に答弁書提出が命じられた例も皆無です。

○ですから殆どの弁護士は、最高裁での口頭弁論に立ち会う機会はありません。「驚愕の約款3号直接請求否定平成26年3月28日仙台高裁判決まとめ1」で紹介した事件の上告受理申立事件は、上告受理はされるのではと大いに期待しております。受理はされても書面審理で棄却される可能性はありますが、この場合は、法治国家の大原則に従い、これまでの相手方を保険会社一本に絞る交通事故訴訟事件方針を変更せざるを得ません。しかし、保険会社直接請求の方針は変えません。加害者本人請求と合わせて保険会社直接請求をするだけです。そして、保険会社顧問弁護士は、あくまで保険会社の代理人であり、加害者本人の代理人を兼ねることは利益相反で許されないと強く主張していきます(^^;)。