○「
後遺障害等級標準労働能力喪失率と異なる認定の札幌地裁認判決全文紹介3」を続けます。
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4 休業損害 612万1197円
証拠(略)によれば、原告は、美容業を営む傍ら、妻及び2人の子供の母親である主婦として家事労働を行っていたことが認められるところ、原告の家事労働分については、本件事故時である平成8年賃金センサス第1巻第1表・産業計・企業規模計・女子労働者学歴計の全年齢平均の年収335万1,500円から、美容業による現実の収入額(平成7年分の収入額である116万5,795円)を除いた金額が家事労働分の評価額であると認めるのが相当であり、本件事故による入通院のうち、前記のとおり症状が固定するには至っていないと認められる平成10年12月末日までの通院は、本件事故と相当因果関係があることになる。入通院日は、美容業及び家事労働共に全日就労が困難であると認めるのが相当であるが、その余の治療期間中は、前記のとおり、従前従事していた美容業につき、一旦再開し、勤務時間や顧客数等を限定して従事していた時期があったものの、結局、疼痛等の症状により、就業に困難があり、結局閉店を余儀なくされたという経過をたどっており、労働能力につき、美容業部分、家事労働部分それぞれその職務内容に応じた相当程度の制限を受けていたことが推認されるところ、前記認定の後遺障害等級及び後記認定の症状固定時における職務内容に応じた就労可能の程度、労働能力の制限の程度、前記治療経過を勘案し、症状固定に至るまでの入通院日以外の治療期間中の労働能力の制限は、家事労働分については3割の制限を、美容業部分については7割の制限を受けていたと認めるのが相当である。
そうすると、入通院日の休業損害とそれ以外の治療期間中の休業損害は、下記のとおり、併せて、612万1,197円であると認めるのが相当である。
(計算式)
通院日分 3,351,500×324÷365=2,975,030.1
入院日分 3,351,500×138÷365=1,267,142.4
入通院日以外の家事労働分 2,185,705×466÷365×0.3=837,154.9
入通院日以外の美容業分 1,165,795×466÷365×0.7=1,041,869.3
休業損害計612万1197円(小数点以下四捨五入)
5 後遺障害による損害 897万6074円
後遺障害による労働能力喪失による逸失利益の算定は、損害の認定である以上、当該被害者の身体の状態、従前の稼働状況、職務内容、後遺障害が当該職務や稼働に与える影響等に即して具体的に認定判断すべきであるところ、証拠(略)及び前記認定事実によれば、原告の現在の状態は、車の運転は可能であり、上肢を使い、上胸部分が振動する動作、操作をする場合は痛みが増強すること、買い物は物を持たなくとも1時間位が限度であり、立位の作業にも限界があること、美容師の仕事については、腕を水平に挙げ、脇を開けて作業をすると痛みが増強し、髪の毛を挟んで引っ張る、髪を巻く、ドライヤーを左手に持って操作する、シャンプーの時に左手を使うなどの作業が痛みのためにできないこと、原告は、一旦、美容業の仕事を再開したものの、作業に従前より大幅に時間がかかることや、立位を継続する作業を続けるには時間的限界があること等から、顧客について予約制にして人数や営業日、就業日を制限して店を継続したものの、結局、休業、閉店を余儀なくされており、従前のとおり自営の美容業を継続し、店を営業していくことは困難となっていることが認められるから、美容業の就労は著しく制限されているものと推認するのが相当であり、従前の原告の営業、就業状態と比較して、少なくとも2分の1程度の稼働時間、稼働能力、あるいは営業収入の制限、減少が生じており、その程度の就労、営業しかできない状態となっていると見るのが相当である。
他方で、原告の家事労働の部分についてみると、後遺障害等級12級についての一般的な労働能力喪失率14%を上回るような就労の制限を受けていると認めるに足りる証拠はないから、家事労働部分の労働能力喪失率は14%と認めるのが相当である。この点につき、鑑定の結果中には、原告は、平成12年10月末の時点では、痛みがつらくて、客を扱う美容師として自信をもって就労できる状態であるとはいえず、さらに現在は精神的に追い込まれており、美容師としての一般平均の二分の一程度の労働能力しかないというより、この仕事に就労することが困難であるとの記載部分がある。しかしながら、証拠(括弧内に掲記する)及び前記認定によれば、原告は、平成9年11月25日ころから仕事を再開し、平成10年1月14日には1日顧客四、五人(証拠略)の美容業をしており、同年2月中旬にはパーマの客の作業に二時間半かかる状態である(証拠略)ものの、同年8月は、一日3時間程度、美容業の仕事に従事していることが認められる。
そうすると、原告は、従前の通常の美容業に従事していた状態と比較して、作業に相当程度時間を要したり、稼働できる時間が相当程度制限されることは推認できるものの、美容業としての労働能力が全く喪失しているとまでは認め難いから、美容業に従事することを前提としても、その労働能力は5割を大きく上回る制限を受ける状態となっているとまでは認められないというべきである。
また、被告は、原告の逸失利益算定の基礎となる労働能力喪失期間につき、3年、あるいはせいぜい10年である旨を述べるが、前記認定の長期に渡る治療経過、症状固定に至る経過、その際の状況に照らし、原告の後遺障害のうち、神経因性疼痛を主たる原因とする複合性疼痛症候群(CRPS)タイプTについては、短期あるいは中期間でもって症状が消滅又は緩解するものとはにわかに認め難いものであることに照らすと、後遺障害は、原告の稼働可能な期間において残存するものと推認するのが相当である。
したがって、基礎となる年収につき、美容業部分を116万5795円とし、家事労働部分を218万5705円とし、それぞれについて50%、14%の労働能力制限部分を算定し、昭和24年12月25日生まれで事故時満46歳である原告につき、症状固定時(本件事故後3年)から満67歳(本件事故後21年)に至るまでの稼働可能期間である18年間のライプニッツ係数(事故時から満67歳までの21年のライプニッツ係数12.821から、症状固定時までの3年間の同係数2.723を控除した10.098)により中間利息を控除した本件事故時の現価逸失利益は、897万6074円であると認められる。
(計算式)
1,165,795×0.5×(12.821−2.723)=5,886,098.9
2,185,705×0.14×(12.821−2.723)=3,089,974.8
小計897万6,074円(小数点以下四捨五入)