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小松亀一法律事務所は、「交通事故」問題に熱心に取り組む法律事務所です。

休業損害逸失利益

後遺障害等級標準労働能力喪失率と異なる認定の札幌地裁認判決全文紹介3

○「後遺障害等級標準労働能力喪失率と異なる認定の札幌地裁認判決全文紹介2」を続けます。



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理  由
1 請求原因(1)、(2)イ、(3)は、当事者間に争いがない。

2 本件事故の結果
 原告は、本件事故により、左第6、7、8肋骨骨折、両膝・両大腿・左肘挫傷、右膝 挫創、頸椎捻挫、腰椎捻挫、頭部・右手関節打撲、右手捻挫、右膝蓋靱帯損傷(外傷性関節症)、左肋間神経痛(左第6、7、8肋骨骨折後)、右膝内側部痛(正座不可)、右膝内側知覚異常の傷害を負ったことは当事者間に争いがなく、後記認定のとおり、左第6、7、8肋骨骨折部を中心とする末梢神経線維及び侵害受容器を含めた組織損傷に起因する神経因性疼痛を主たる原因とする複合性疼痛症候群(CRPS)タイプTに該当する傷害を負ったと認められる。

3 原告の後遺障害
(1) 原告の現在の症状、後遺障害の程度
ア 証拠(鑑定の結果)によれば、原告には、左第6、7、8肋骨骨折部を中心とする末梢神経線維及び侵害受容器を含めた組織損傷に起因する神経因性疼痛が残存していることが認められ、原告の疼痛は、@本件交通事故による前記傷害という有害な出来事又は不動の原因が存在すること、A原告は、灼熱痛を訴え、痛覚過敏状態になっており、体動時に痛みが増強し、また、骨折部に相当する胸椎の領域のみならず、第2胸髄等や左上肢第7頸神経まで知覚障害が広がっており、原因に比べて不釣り合いに強い持続痛又は異痛症(アロディニア)、若しくは、痛覚過敏があること、B原告には、皮膚蒼白、冷感、左右上肢にわずかな温度差が見られ、疼痛のある部位に浮腫、皮膚血流の変化(皮膚色調の変化・皮膚温差)又は発汗異常がある期間存在したこと、C原告には、疼痛や機能異常の程度を説明するに足る状況が他にないことが認められるから、複合性疼痛症候群(CRPS)タイプTであると認めることができる。

原告の神経因性の疼痛の状態、発生機序については、証拠(鑑定の結果)によれば、原告には、疼痛障害が強くみられ、神経因性疼痛の要素が強く関与していること、この神経因性疼痛は、発作的な痛みや刺すような痛み、燃えるような痛みであり、交感神経系の影響を密接に受けるC線維の自発発火が持続的な灼熱痛を起こし、更に脊髄後角細胞を感作しやすくすること、知覚神経(Aδ〜Aβ)は、末梢の侵害受容器から鋭敏な痛みをAδ線維を通して、触覚、振動覚の刺激をAβ線維を通して脊髄後角細胞に伝えるが、このとき損傷部の末梢の侵害受容器が炎症物質などで障害、感作されていくと、侵害刺激を調整することができず、どんどん刺激を脊髄後角細胞に伝えることになり、そこで感作が生じることになるという発生機序であること、すなわち、正常時は、脊髄後角細胞では交感神経刺激(C線維)と知覚神経(Aδ〜Aβ)、そして脳からの下行性抑制系によって、痛みをはじめ、侵害刺激を調整して、それを中枢に伝える機構が働いているが、脊髄後角細胞での調整作用が障害されると、軽度の刺激に対しても痛覚過敏になったり、Aβ線維を伝わった触覚、振動覚を痛みとして感じるアロディニアが生ずることが認められる。

 このように、原告の瘡痛障害は、発生機序が医学的に証明し得るものであり、後記認定のとおり、強度で長期間にわたり持続的に発生している疼痛であって、時には労働に差し支えるものであるから、「局部に頑固な神経症状を残すもの」(後遺障害等級12級12号)に該当するというべきである。原告の症状は、後記のとおり、従前従事していた美容業に即してみると、その作業が相当程度制限を受けるものである。しかしながら、原告の状態は、一般的な通常の労務には服することはできるものであって、時には強度の疼痛のため、ある程度労働に差し支えが生じるという程度ではあるものの、時には労働に従事することができなくなるため就労可能な職種の範囲が相当な程度に制限されるという程度になっているとまでは認めるに足りないから、後遺障害等級9級10号に該当するとはいえないというべきである。

イ 原告には、本件事故により被った右膝内側部痛及び右膝内側異常知覚が残続していることは当事者間に争いがないところ、証拠を照らしても、外傷性の器質的損傷や他覚的な異常所見は認められないことに照らすと、原告の症状は、局部に神経症状を残すものとして、後遺障害等級14級10号に該当すると認めるのが相当である。

ウ 原告の上記ア、イの各後遺障害は、併せて重い方のアの障害に該当する後遺障害等級12級と評価するのが相当である。

(2) 原告の症状固定時期について
 証拠(略)によれば、原告の治療経過等について、以下の事実が認められる。原告の痛みは、平成9年1月7日には、一旦軽減しているが(証拠略)、その後も左胸部痛、頸部背部痛等は継続して出現しており(証拠略)、同年3月25日には、痛みは、頸部、右頸部から前胸部、左胸部から背中に発生しており、右膝痛も訴えているが、原告は、同年4月中旬から美容院を再開する予定であることを医師に述べており、医師も、原告に痛みを受容させるように申し送りをしており(証拠略)、この時点においては、原告の症状は一定の安定した状態にあったもので、原告が仕事に復帰したいとの強い希望の下に、美容院を再開する旨を表明していた。しかしながら、その後も、原告の症状は、緩解と悪化を繰り返すものの、痛みは継続していた。

すなわち、同年5月28日には、夜間ほとんど眠れるようになり(証拠略)、同年6月4日から同月11日まで持続の胸部持続硬膜外ブロックを行ったところ、痛みがなくなり(証拠略)、同年6月13日には、調子がよく、痛みは以前よりよい方向へ向かっているとみられるようになった(証拠略)が、同月下旬ころは、夜間痛、活動後の運動痛が多くなり(証拠略)、同年8月6日には、肩は刺すような痛みを、膝や脇腹は重 苦しい強い痛みを訴えており(証拠略)、同年11月4日には、肋間神経痛、右膝内障でU病院の外科から麻酔科の担当医に治療を依頼しており、同年11月19日、原告は、仕事の再開を申し出て、同月25日から仕事を再開した(証拠略)ものの、仕事を無理すると、脇腹痛が生じており(証拠略)、同年12月24日ころには、肋骨部の痛みはやや軽減したが、膝痛は変わらず(証拠略)という状態であった。

平成10年1月14日ころには、洗髪で客の頭を左手を使って持つと、脇腹痛が生じ(証拠略)、左肋骨骨折後の疼痛が慢性化しており、同月21日に「痛み軽減し、夜間眠れるようになり」(証拠略)、同年3月4日ころは、膝痛がある中で、立ち仕事である美容院の仕事につき、予約制で人数制限し、日曜日と水曜日に休むという体制で仕事をしていた(証拠略)。そのころ、「麻酔科加療で改善してきてい」る状態であり(証拠略)、美容師の仕事を始めたが、膝痛が増強しており(証拠略)、同年8月17日には、朝は、左脇の痛みで目覚め、左胸と左背中に生傷に触るような痛みが続き、昼、晩は、左脇左胸、左背中がじりじりと痛み、左脇に強く生傷に触るような痛みも時々あり、右膝の傷のところに鈍い痛みが継続しており(証拠略)、同年10月12日には、7〜8月までは調子がよかったが、その後、徐々に痛みが強くなってきたと述べており、同年11月11日には、動くと痛みのため、仕事だけではなく、家事も行えない旨を述べる状態になっており(証拠略)、同年12月11日に行った内視鏡的胸部交感神経節焼灼術で、同月28日に「軽快退院」しており(証拠略)、平成11年1月には医師より転地療養を勧められ(証拠略)、同月20日には、上記手術により痛みの性格は明らかに減弱したと述べていることが認められる(証拠略)。

以上の経過を鑑みると、原告の治療経過は、痛みの軽減、改善により、仕事の再開を希望、決意し、一旦、仕事を再開したものの、脇腹痛、疼痛、膝痛が慢性化し、痛みが悪化する状態となっており、前記の内視鏡的胸部交感神経節焼灼術の手術を行った平成10年12月までは、緩解と悪化を繰り返す状態であって、未だ症状固定には至っていないと認めるのが相当であり、この時期までの入通院は、本件事故と相当因果関係があるものと見るのが相当である。他方で、手術や医学的治療によって症状の改善が認められるのは、平成10年12月の手術及びその療養までであり、平成11年1月に医師が原告に転地療養を勧めた段階において、原告の状態は、専ら対処療法、自然治癒によるべき状態になったとみるべきであるから、平成11年1月20日には原告の症状は固定したとみるのが相当である