○交通事故損害賠償請求事件で自賠責保険の後遺障害等級標準労働能力喪失率と異なる被害者に有利な認定をした裁判例を探しています。今回は、46歳女子の美容業収入116万円、家事分218万円で通院中の就労不能による労働能力喪失率は70%と30%、CRPSによる12級逸失利益は50%と14%で認めた平成18年1月24日札幌地裁判決(
自動車保険ジャーナル・第1665号)全文を○回に分けて紹介します。
*************************************
主 文
1 被告らは、原告に対し、各自1,441万6,097円及びこれに対する平成8年 7月7日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
2 原告の被告らに対するその余の請求をいずれも棄却する。
3 訴訟費用はこれを4分し、その1を被告らの負担とし、その余を原告の負担とする。
4 この判決は、第1項に限り、仮に執行することができる。
事 実
第一 当事者の求めた裁判
1 請求の趣旨
(1) 被告らは、原告に対し、連帯して5,722万3,566円及びこれに対する平成8年7月7日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
(2) 訴訟費用は被告らの負担とする。
(3) 仮執行宣言
2 請求の趣旨に対する答弁
(1) 原告の請求を棄却する。
(2) 訴訟費用は原告の負担とする。
第二 当事者の主張
1 請求原因
(1) 交通事故の発生(以下「本件事故」という。)
ア 発生日時 平成8年7月7日午前9時5分ころ
イ 発生場所 北海道有珠郡<地番略>路上(以下「本件現場」という。)
ウ 加害車両 普通乗用自動車((略)、以下「被告車」という。)
被告車運転者 被告乙山次郎(以下「被告次郎」という。)
被告車保有者 被告乙山三郎(以下「被告三郎」という。)
エ 被害車両 原告が運転する普通乗用自動車(以下「原告車」という。)
オ 事故の態様 原告が、本件現場を横山温泉方面に向かって走行中、対向車線を走行し原告車に接近してきた被告次郎運転の被告車が、カーブに差しかかり、突然センターラインを越え、原告車に正面衝突した。
(2) 本件事故の結果
ア 原告は、本件事故により、左第6、7、8肋骨骨折、両膝・両大腿・左肘挫傷、右膝挫創、頸椎捻挫、腰椎捻挫、頭部・右手関節打撲、右手捻挫、右膝蓋靱帯損傷(外傷性関節症)、左肋間神経痛(左第6、7、8肋骨骨折後)、反射性交感神経性萎縮症、反射性交感神経性ジストロフィー、右膝内側部痛(正座不可)、右膝内側知覚異常の傷害を負った。
イ 原告は、上記傷害により、以下のとおり入通院した。
(ア) 入院経過
@ 平成8年7月7日から同年8月2日まで(27日) Z病院
A 平成8年8月7日から同年9月22日まで(47日) W病院
B 平成9年10月16日から同年11月1日まで(17日) Q病院(当時の名称はS病院)
C 平成10年11月12日から同年12月28日まで(47日) Q病院(当時の名称はS病院)
(イ) 通院経過
@ 平成8年8月5日から同年12月31日までR病院、P病院、U病院に55回通院
A 平成9年1月1日から同年12月31日までU病院、Q病院に155回通院
B 平成10年1月1日から同年12月31日までU病院、M整形外科、Q病院、N病院に114回通院
C 平成11年1月1日から同年12月31日までU病院、Q病院に54回通院
D 平成12年1月1日から同年12月31日までU病院、Q病院に81回通院
ウ 原告の後遺障害
(ア) 左胸部付近の後遺障害
原告には、左第6、7、8肋骨骨折及び左上胸組織損傷に起因する神経因性疼痛が残存している。原告の疼痛は、@有害な出来事又は不動の原因が存在する、A原因に比べて不釣り合いに強い持続痛又は異痛症(アロディニア)、若しくは、痛覚過敏がある、B疼痛のある部位に浮腫、皮膚血流の変化(皮膚変色の変化・皮膚温差)又は発汗異常がある期間存在したこと、C疼痛や機能異常の程度を説明するに足る状況が他にないという条件を満たしており、複合性疼痛症候群(CRPS)タイプTである。
原告には、疼痛障害が強くみられ、神経因性疼痛の要素が強く関与している。神経因性疼痛は、発作的な痛みや刺すような痛み、燃えるような痛みであり、交感神経系の影響を密接に受けるC線維の自発発火が持続的な灼熱痛を起こし、更に脊髄後角細胞を感作しやすくする。知覚神経(Aδ〜Aβ)は、末梢の侵害受容器から鋭敏な痛みをAδ線維、触覚、振動覚の刺激をAβ線維を通して脊髄後角細胞に伝える。このとき損傷部の末梢の侵害受容器が炎症物質などで障害、感作されていくと、侵害刺激を調整することができず、どんどん刺激を脊髄後角細胞に伝えることになる。そこで感作が生じる。正常時は、脊髄後角細胞では交感神経刺激(C線維)と知覚神経(Aδ〜Aβ)、そして脳からの下行性抑制系によって痛みをはじめ、侵害刺激を調整して、それを中枢に伝える機構が働いている。しかし、脊髄後角細胞での調整作用が障害されると、軽度の刺激に対しても痛覚過敏になったり、Aβ線維を伝わった触覚、振動覚を痛みとして感じるアロディニアが生ずる。
原告は、交感神経系の障害ではなく、知覚神経系の障害による神経因性疼痛に派生する症状によって苦しんでいる(左腋窩〜左側胸部(乳房下部・左肩甲骨下部)の疼痛、冷感(締めつけられるような、かまれるような、火傷したような痛み)があり、日常 生活に支障を来している。
胸部交感神経節ブロック・肋間神経ブロック、神経根ブロックなどの治療にもかかわらず、持続する難治性の後遺障害である。)。
(イ) 右膝部の後遺障害
加えて、右膝挫傷(裂傷)に起因し、右膝内側部痛及び右膝内側異常知覚が残続しており、右下肢萎縮・筋力低下、100b歩行によって疼痛が増強し、正座ができず、日常生活への障害を来している。また、右膝内側部に約7abの裂創(醜状)痕が残っている。
エ 原告の後遺障害等級
(ア) 原告の上記ウ(ア)の後遺障害は、神経系統の機能に障害(中枢神経を構成する脊髄後角細胞での調整作用障害を含む)を残し、軽易な労務以外の労務に服することができない(神経系統の機能の障害のため、社会通念上、労働能力が一般平均人の2分の1程度に低下している)状態にあり、自動車損害賠償保障法(以下「自賠法」という。)施行令2条別表第2の後遺障害等級(平成16年政令改正前のもの。
以下「後遺障害等級」という。)7級4号に該当するものである。
仮に、そうでないとしても、原告の上記後遺障害は、神経系統の機能に障害(中枢神経を構成する脊髄後角細胞での調整作用障害を含む)を残し、服することができる労務が相当程度に制限される(社会通念上、就労可能な職種の範囲が相当程度に制限される)状態にあり、少なくとも後遺障害等級9級10号に該当するものである。
(イ) 原告の上記ウ(イ)の後遺障害は、局部に神経症状を残すものとして、少なくとも後遺障害等級14級10号に該当する。
(3) 責任原因
ア 被告次郎は、第1次的に自賠法3条に基づき、第2次的に民法709条に基づき、本件交通事故により生じた損害を賠償すべき責任を負う。
イ 被告三郎は、本件交通事故発生当時、被告車を保有するものであり、運行供用者として自賠法3条により、本件交通事故により生じた損害を賠償すべき責任を負う。
(4) 主位的損害
ア 休業損害 1,383万2,552円
原告は、本件事故によって被った前記の傷害により、本件事故日から後遺症症状固定日(平成14年6月28日)までの約6年間、少なくとも67%の準完全休業を余儀なくされた。平成8年から平成16年の各年の賃金センサス第1巻第1表・産業計・企業規模計・女子労働者学歴計・全年齢平均年間合計賃金によれば、原告が本件事故により被った休業損害は、1,383万2,552円である。
(計算式)
(3,351,500+3,402,100+3,417,900+345,3500+3,498,200+3,522,400)×0.67=13,832,552