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小松亀一法律事務所は、「交通事故」問題に熱心に取り組む法律事務所です。

任意保険会社への直接請求

加害者請求権消滅時効理由での保険会社への直接請求否認判例全文紹介6

○「加害者請求権消滅時効理由での保険会社への直接請求否認判例全文紹介5」を続けます。

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(3)検討
ア 起立性頭痛について

 前記(2)で認定した医学的知見によれぱ、起立性頭痛は、低髄液圧症候群の特微的な症状であると認められる。そこで、第1事故(平成17年11月18日)以降、原告に起立性頭痛が生じていたか否かについて検討するに、原告は、第1事故以降、激しい頭痛があり起きていることも辛く横になると頭痛は少し和らぐなどの供述をし(甲30)、平成19年4月17日になって初めて、原告の仙台医療センターの医療記録にr起立性頭痛+」と記載されたことが認められる。

 しかしながら、平成17年11月18日の第1事故後、原告が平成19年3月27日に初めて仙台医療センターを受診するまでの間に、原告が受診した東北公済病院宮城野分院、中嶋病院等の医療記録には、起立性頭痛があったとの明確な記載は一切見当たらない。

 この点、原告は、当時の医療記録に起立性頭痛の記載がないのは、起立性頭痛が低髄液圧症候群の特徴的な症状であかとの認識が医師になかったからであると主張するが、起立性頭痛とは、座位又は立位をとると15分以内(脳神経外傷学会基準)あるいは30分以内(厚労省研究班基準、乙9)に増悪する頭痛とされているから、仮に起立性頭痛の知識が当該医師になかったとしても(ただし、そめことを認めるに足りる的確な証拠はない。)、原告が訴える頭痛が立位ないし座位時に特に増悪するものであったのであれば、そのことが患者によっで率直に述ぺられ、その訴えが医師によって医療記録に記載されることが通常であるにもかかわらず、原告の頭痛が立位ないし座位時に特に増悪するものであったことを明確に示す記載はない。

 もっとも、東北公済病院宮城野分院の医療記録には、「頭ボーとしていて動くとひどくなる」(平成17年11月21日付け)、「家事したら頭痛」(同年12月12日付け)、「仕事してみて頭痛がひどい」(平成18年L月13日)などの記載もみられるが、これらの記載から立位又は座位時に頭痛が特に増悪する症状があったとまでは読み取れず、むしろ、それ以外の大部分の記載は、頭痛を始めとする不定愁訴が常時持続していることを訴える内容である。

 そして、原告が、第1事故から約1年4か月後に仙台医療センターを受診し、同センターの平成19年4月17日付け医療記録に初めて「起立性頭痛+」の記載がされたが、これは第1事故後の上記経過とは必ずしも整合しない。

 以上に鑑みると、医療記録の上記記載のみをもって直ちに、第1事故の直後から継続して原告に起立性頭痛が生じていたとは認め難い。そうすると、第1事故(平成17年11月18日)後、原告が外傷性頚部症侯群め症状に悩まされていたということはできるが、その症状が起立性頭痛であったとは認められない。(なお、脳神経外傷学会基準によれぱ、原告については、外傷後30日以内に起立性頭痛が発症したとは認められないことから、外傷性低髄液圧症候群と診断できないことになる可能性が高いことにもなる。)

イ 起立性頭痛以外の症状について
 原告は、原告には第1事故の後、眼球異常(目の奥の痛み等)、肩こり、しぴれ、倦怠感、手足冷感、発汗異常、不眠等の起立性頭痛以外の症状も生じていたと主張するところ、前記(1)の認定事実によれぱ、原告は、第1事故後、上記のような起立性頭痛以外の症状があることも訴えていたことが認められる。

 しかしながら、脳神経外傷学会基準によれば、起立性頭痛以外の症状(項部硬直、耳嗚、聴力低下、光過敏、悪心)については、「体位による症状の変化」があることが低髄液圧症候群の診断基準の前提基準とされているのであって、原告が主張する上記の起立性頭痛以外の症状が、体位による症状の変化がみられるものであったか否かについては、証拠上、判然としないといわざるを得ない。

 また、厚労省研究班基準によれぱ、脳脊髄液減少症。の症状には起立性頭痛以外にも多彩な症状があるといわれているが厚労省研究班において評価可能であった94例の症状出現頗度について統計解析を行った結果によれぱ、起立性頭痛以外の参考となる症状について、@有意に『「髄液漏あり」>「髄液漏なし」』とする症状はなく、A「髄液漏れあり」と「髄液漏れなし」とで有意差のない症状は、嘔気嘔吐、項部硬直、上背部痛、歩行困難、耳鳴り、難聴、音が大きく響く、物がニ重に見える、顔面非対称及ぴ排尿障害があるとされ、B有意に『「髄液漏あり」<「髄液漏なし」』とする症状は、めまい、目のかすみ・視力低下、倦怠・易疲労感、顔面の痛み・しぴれ、上肢の痛み・しぴれ及ぴ腰痛であるとされていることが認められるところ(乙9・50頁)、原告の上記症状は、上記のAないしBに該当するから、これをもって直ちに髄液漏れがあるとは認め難い。

 そうすると、原告が上記の起立性頭痛以外の症状を訴えていたことから、直ちに原告が低髄液圧症候群を発症したものであると認めることはできない。

ウ 画像診断について
(ア)頭部MRI査の結果について

 原告は、MRI検査の結果、鈴木医師が、大脳の下垂の疑いを認めたことは、原告が低髄液圧症侯群を発症したことの医学的根拠になると主張する。
 しかしながら、他方において、脊椎脊髄外科指導医の本間隆夫医師(以下「本間医師」という。)は、鈴木医師が大脳の下垂を疑った根拠とされるMRI両像(甲28、29(枝番を含む。))を確認した上で、当該画像から大脳の下垂を疑うことはできないとの医学的意見を述べており(乙5)、これに対し、鈴木医師自身も、高度所見ではないので頭部MRI両像からの診断だけでは脳の萎縮例との区別は付きにくい旨を原告訴訟代理人に説明していること(甲39、41)、厚労省研究班基準は、大脳の下垂を診断基準にしておらず、頭部MRI検査を参考所見にとどめていることからすれば、原告の主張するMRI検査の結果をもって直ちに原告が低髄液圧症候群を発症したものであるとは認められない。

(イ)RI脳槽脊髄腔撮影の結果について
 原告は、RI脳槽脊髄腔撮影の結果、鈴木医師が、腰部に髄液漏れを認めたことは、原告が低髄液圧症候群を発症したことの医学的根拠になると主張する。
 しかしながら、他方において、本間医師は、鈴木医師が髄液漏れを認めた根拠とされるRI脳槽脊髄腔撮影の画像(甲36)を確認した上で、腰椎部の1か所に髄液が漏出していることを疑わせるアイソトープを含んだ髄液漏れの所見が認められるが、穿刺針を用いたアイソトープの注入に伴う必然的な髄液の漏れが含まれる可能性があるとする医学的見解を述ぺている(乙5)。

 また、検査実施から6時間後の画像において腰部に左右非対称のRI異常集積が認められるとの鈴木医師の診断を前提としても(甲39、41)、厚労省研究班基準及ぴ同「脳脊髄液漏出症の画像判定基準と解釈」(乙10)によれば、脳槽シンチグラフィーは、脳脊髄液漏出のズクリーニング検査法と位置付けられおり、この検査法のみで脳脊髄液漏出を確実に診断できる症例は少ないとされ、また、非対称性のRI異常集積は、参考所見にとどまるものではないが、画像診断基準における所見(確実性が高い順に確定、確実、強疑及ぴ疑)のうちの「疑」所見にすぎないとされていることが認められる。

 そうすると、原告のRI脳槽脊髄腔撮影の結果は、原告が低髄液圧症候群を発症したのではないかと疑わせる1つの根拠であるとはいえるが、これのみをもっては、その疑いがあるというにとどまらざるを得ず、原告が低髄液圧症候群を発症したことが立証されているとはいえない。

エ 国際頭痛分類第3版
 これに対し、原告は、最近、国際頭痛分類の第3版が公表されたとして、これによると原告は低髄液圧症候群に該当することになると主張する。しかしながら、証拠(甲57の1、2)によれぱ、国際頭痛分類第3版によっても、起立性頭痛は、低髄液圧症候群の特徴的な症状とされていることが認められるところ、前示のとおり原告には起立性頭痛が認められず、このことに加えて、本件の画像診断によっても原告の脳脊髄液漏出が立証されていないことに鑑みれば、この点に関する原告の主張は、前記の認定判断を左右しないというべきである。

オ 以上の検討を総合考盧すれば、原告が本件各事故により低髄液圧症候群を発症したと認めることはできない。