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小松亀一法律事務所は、「交通事故」問題に熱心に取り組む法律事務所です。

その他交通事故

交通事故・医療過誤競合原因死亡事故損害賠償二重請求返還認容例4

○「交通事故・医療過誤競合原因死亡事故損害賠償二重請求返還認容例3」の続きで、裁判所の被告弁護士による「過失相殺の主張」と「損害と因果関係」に対する判断です。

○「過失相殺」の主張は、加害者側代理人が、被告を代理人とするa医大との示談について確認出来る立場にあるのに確認しなかったことを持って、過失相殺減額をすべきとの主張です。
 確かに本件は、交通事故による傷害だけでは死亡まで至らず、医療過誤と相俟って死亡したものであり、加害者側に全損害額の請求がされた場合、通常、加害者側代理人は、交通事故による傷害と死亡との間の因果関係を争うはずです。要するにこの程度の傷害で死亡するはずがなく、加害者が死亡については責任がないと主張するはずです。加害者側代理人が気付かなくても、実際、お金を支払う保険会社側で強く主張するのが一般です。

○この加害者側代理人弁護士も、a医大との医療過誤の関係について訴訟告知の主張をするくらいですから、事故による傷害と死亡との因果関係に問題があることが気付いていたのに、途中でこれを失念し、全責任が加害者側にあることを前提に和解してしまったことは弁護過誤と評価出来るほどの過失と思われます。万一、被告弁護士が破産でもして回収できなかった場合、加害者側弁護士も弁護過誤による損害賠償請求を受ける可能性があります。

○しかし、本件での被告弁護士のa医大との示談による6600万円もの示談金受領を秘匿して全損害を交通事故加害者側に請求する行為は詐欺にも等しく、騙した者が騙された方にも落ち度があるから過失相殺だなんて主張は通るはずがありません。

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3 過失相殺の主張について
 本件では,訴訟の当初,加害者の訴訟代理人が,医療過誤の可能性を指摘し,a医大への訴訟告知の意思を示していた事実は認められる。しかし前記のとおり医療過誤による損害賠償は,社会的には比較的稀な事情である。他方で被告は,a医大からの解決金支払の事実を告げるだけで説明義務を果たすことができた。a医大との示談では,示談の存在及び内容を第三者に開示しない約束がされているが,6600万円にも上る解決金支払の事実は,加害者の損害賠償額を大きく左右する重大な事実であり,弁論の全趣旨に照らしても,a医大に確認すれば当然に示談内容の開示につき了承が得られたと推認できる。

 そうであるとすれば,被告において容易にできた説明をしなかったのであるから,それにもかかわらず,加害者側が比較的稀な事例である医療過誤による損害賠償の有無について積極的に事実を確認したり調査したりしなかったことをもって,また加害者の訴訟代理人が交通事故訴訟に詳しい保険会社の顧問弁護士であったからといって,それを不法行為の被害者に過失があったものとして民法722条2項の過失相殺により,これを考慮して損害賠償の額を定めることは相当でない。過失相殺の主張は,採用できない。

4 損害及び因果関係について
 さいたま地方裁判所が提示した別紙和解案は,その算定方法に照らして合理的なものであり,和解案で遅延損害金相当とされている800万4767円は,弁護士費用相当の損害とみることができる。本件全証拠によっても,被害者の相続人らは,交通事故の加害者に対する不法行為による損害賠償請求権に基づき,a医大からの解決金を控除する前の損害額として,弁護士費用を含めて和解金額と同額の9000万円を超える損害賠償を求めることができたとは認められない。

 なお,被告は,事故の2年前である平成14年分の源泉徴収票(乙A48)に基づき逸失利益を算定して請求しているが,弁論の全趣旨によれば,これは事故の前年の中途である平成15年5月16日に60歳に達して定年退職した後に再雇用され,再雇用後の所得を的確に証明する資料がなかったためであると認められる。a医大の示談提案(丙2)でも,退職前の平成14年分の源泉徴収票の給与所得の6割を基礎収入として逸失利益を算定して提案されており,裁判所の和解案でも別紙和解案の(注)記載のとおり,平成15年の退職前の所得の日割計算から平成15年の年間給与額を推計している。したがって,平成14年の源泉徴収票に基づき逸失利益を算定して請求したことには何ら不当な点はない。そして逸失利益については,さいたま地方裁判所が和解案の(注)に示した算定方式に基づき算定するのが相当である。

 上記損害額9000万円は,被害者の死亡による損害が中心であるから,死亡日である平成16年1月7日から民法所定年5分の割合による遅延損害金を付するのが相当である。したがって,加害者としては,被告の不法行為がなければ,9000万円の支払をする訴訟上の和解を成立させることはなく,交通事故の不法行為による損害賠償義務として,被害者の相続人らに対し,9000万円の損害賠償義務とこれに対する平成16年1月7日から支払済みまで民法所定年5分の割合による遅延損害金の支払義務を負い,和解時においては,これからa医大からの解決金のうち連帯債務の弁済に充当される額を控除した額の支払義務を本来負っていたことになる。

 そして,前記認定事実によれば,a医大からの解決金6600万円には,慰藉料の趣旨の支払が含まれていると考えられる。被告は,相続人らの代理人として,交通事故の加害者には,2800万円の慰藉料を請求し,a医大には,3000万円の慰藉料を請求した。慰藉料は,不法行為における加害行為の態様や加害者側の事情も考慮して定められることからすると,6600万円の解決金のうち200万円については,a医大の固有の慰藉料に相当するものとして,交通事故の加害者の損害賠償債務と連帯債務の関係にならないと解する余地がある。

 また,被害者の実母が示談の当事者となっているから,6600万円の解決金のうち100万円については,被害者の実母が支払を受けるべき固有の慰藉料に相当するものとして,これも連帯債務の関係にならないと解する余地がある。

 さらに6600万円の解決金のうち300万円についても,a医大との紛争を解決するための別途の弁護士費用に相当するものとして,これも連帯債務の関係にならないと解する余地がある。

 したがって,平成16年12月21日にa医大から支払われた解決金6600万円のうち,連帯債務の関係にならない債務の弁済と解する余地がある合計600万円を除いた6000万円が,交通事故の加害者の損害賠償債務と連帯債務となっている債務の弁済と評価でき,この部分は加害者の債務が消滅することになる。

 a医大からの解決金6600万円のうち6000万円は,死亡日である平成16年1月7日から受領日である平成16年12月21日までの遅延損害金に充当され,その残りが元本に充当される。遅延損害金は,430万3278円(9000万円×5%×350/366)であり,元本に充当される額は,5569万6722円,残元本は,3430万3278円となる。

 残元本3430万3278円に対するa医大の解決金支払日の翌日である平成16年12月22日から原告が損害賠償金を支払った平成20年1月31日までの遅延損害金は,533万7755円(3430万3278円×5%×(10/365+3+31/366))となり,これを残元本に加えると3964万1033円となる。これに対して,原告は,被告が不法行為により成立させた訴訟上の和解により賠償金9000万円を支払っているから,賠償金支払額のうち残債務額3964万1033円を超える額5035万8967円が,原告の損害額となる。

 弁護士費用の損害額は,上記認容額,本件訴訟の経過等に鑑み,上記損害額の約5%に相当する250万円とするのが相当である。
 したがって,弁護士費用を含めた損害額は,合計5285万8967円となる。

5 結論
 以上によれば,被告は,原告に対し,不法行為による損害賠償として,上記損害額合計5285万8967円とこれに対する不法行為の後である平成20年2月1日(賠償金支払日の翌日)から支払済みまで民法所定年5分の割合による遅延損害金を支払うべき義務がある。原告の請求は,その支払を求める限度で理由があり,その余は理由がない。
 (裁判長裁判官 小林久起 裁判官 佐々木清一 裁判官 小泉健介)