本文へスキップ

小松亀一法律事務所は、「交通事故」問題に熱心に取り組む法律事務所です。

その他交通事故

素因減額する対象限定した平成22年1月21日最高裁判例解説1

○「素因減額する対象限定した平成22年1月21日最高裁判例全文紹介」の続きで、そのまとめ解説です。
先ず、事案の概要です。
・上告人は、同じ中学校の被上告人Y1,Y2及びY3(被上告人生徒ら)からいじめを受け,これが原因となって統合失調症を発症したとして、被上告人生徒ら及び被上告人Y1両親Y4,Y5に対して民法709条,719条に基づき,中学が所属する広島市と広島県国賠法に基づき,慰謝料1000万円及び弁護士費用100万円の損害賠償を請求

原判決概要は以下の通りです。
・被上告人生徒らは,平成13年4月ころから平成15年6月にかけて,上告人に対し,首を絞める,文房具や教科書を隠したり壊したりする,小石をぶつける,水をかけるなどし,さらに,上告人にゲームソフトの万引きをさせた上,万引きをしたことをはやし立て,警察に告げるなどと言って金銭を脅し取ろうとした(本件いじめ)

・このため,上告人は,平成14年6月以降,登校しなくなり,同年7月ころからは妄想や幻覚の症状が現れ,同年11月に統合失調症と診断された。上告人が統合失調症を発症したのは,以前から脳に何らかの生理学的・生化学的機能や構造の異常(本件疾患)があったところに,本件いじめによるストレスが加わったことが原因と認定(いじめと統合失調症発症の因果関係認定)

・損害賠償の額については,「本件いじめの程度,期間,被害の重大性その他本件に現れた一切の事情を考慮すると,慰謝料の額は,本件いじめによる精神的苦痛に対するものと統合失調症の発症による精神的苦痛に対するものとを合わせて1000万円とするのが相当である」旨を判示

・上告人の統合失調症の発症には,本件疾患が関与しており,本件いじめがなくても上告人はいずれ統合失調症を発症した可能性がある。そうすると,本件において損害賠償額を定めるに当たり,民法722条2項の規定を類推適用して,上告人の本件疾患をしんしゃくすべきであり,その減額割合は7割が相当

・被上告人らが負担すべき慰謝料額は,上記1000万円から7割を減額した300万円、弁護士費用の同様として、各自330万円の限度で認容


平成22年1月21日最高裁の判示概要は以下の通りです。
・原審の上記損害賠償の額に関する判断のうち,慰謝料の額を本件いじめによる精神的苦痛に対するものと統合失調症の発症による精神的苦痛に対するものとを合わせて算定した部分については是認することができるが,本件いじめ自体による精神的苦痛に対する慰謝料についても民法722条2項の規定の類推適用による減額の対象とした部分は,是認することができない

・被害者に対する加害行為と加害行為前から存在した被害者の疾患とが共に原因となって損害が発生した場合において,当該疾患の態様,程度などに照らし,加害者に損害の全部を賠償させるのが公平を失するときは,裁判所は,損害賠償の額を定めるに当たり,民法722条2項の規定を類推適用して,被害者の疾患を斟酌することができる(最高裁昭和63年(オ)第1094号平成4年6月25日第一小法廷判決・民集46巻4号400頁参照)。

・しかし、本件いじめについては,上告人の本件疾患は何ら原因となっていないのであるから,本件いじめ自体による精神的苦痛に対する慰謝料の額を定めるに当たっては,上告人の本件疾患を斟酌することはできない

・従って上告人の本件疾患を斟酌して被上告人らが負担すべき慰謝料の額を定めるに当たって,統合失調症の発症による精神的苦痛に対する慰謝料に限定せず,本件いじめ自体による精神的苦痛に対する慰謝料をも減額の対象とした原審の判断には,法令の解釈適用を誤った違法がある」

・原判決中の上告人敗訴部分を破棄し,本件について,被上告人らの負担すべき損害賠償の額につき更に審理を尽くさせる必要があるとして,上記部分について原審に差し戻し