本文へスキップ

小松亀一法律事務所は、「交通事故」問題に熱心に取り組む法律事務所です。

任意保険会社への直接請求

免責証書提出による直接請求権行使の場合の提出先と時期

○「交通事故被害者の加害者任意保険会社に対する直接請求権復習」を続けます。
大変くどくて恐縮ですが「被害者の対保険会社直接請求のための請求権不行使とは」での解説の復習備忘録です。
先ず保険毎日新聞社発行「自動車保険の解説2012」56頁以下に記載された直接請求に関するサンプル約款の必要部分を示します。

第11条(損害賠償請求権の直接請求権)
(1)対人事故によって被保険者の負担する法律上の損害賠償責任が発生した場合は、損害賠償請求権者は、当会社が被保険者に対して支払責任を負う限度において、当会社に対して(3)に定める損害賠償額の支払を請求することができます。

(2)当会社は、次のいずれかに該当する場合に、損害賠償請求権者に対して(3)に定める損害賠償額を支払います。ただし、当会社がこの賠償責任条項および基本条項に従い被保険者に対して支払うべき保険金の額(注)を限度とします。
@被保険者が損害賠償請求権者に対して負担する法律上の損害賠償責任の額について、被保険者と損害賠償請求権者との間で、判決が確定した場合または裁判上の和解もしくは調停が成立した場合
(中略)
B損害賠償請求権者が被保険者に対する損害賠償請求権を行使しないことを被保険者に対し書面で承諾した場合


○上記@は被害者の加害者に対する損害賠償請求判決が確定した場合であり、これによる保険会社に対する訴えでの請求の趣旨は、
被告(保険会社)は原告(被害者)に対し、原告の被告に対する判決確定を条件に金○円及びこれに対する平成○年○月○日から支払済みまで年5%の割合による金員を支払え。
となります。
これに対し、上記Bでは、
被告(保険会社)は原告(被害者)に対し、原告が訴外A(被保険者・加害者)に対する損害賠償請求権を行使しないことを訴外Aに対し書面で承諾することを条件に金○円及びこれに対する平成○年○月○日から支払済みまで年5%の割合による金員を支払え。
となります。
なお、この「原告が訴外A(被保険者・加害者)に対する損害賠償請求権を行使しないことを訴外Aに対し承諾する書面」は実務的には免責証書と呼ばれています。

○この請求の趣旨に対し、「損害賠償請求者の被保険者に対する書面による承諾」は、被保険者の協力や同意などが得られず、そのままでは被害者の救済が遅滞するなどの不利益を救済するために制定したものであるから、あくまでも被保険者に直接発せられたものでなければならないと主張されることが希にあります。

○しかし、この理由と結論は論理矛盾でしょう。被保険者の協力や同意が得られないから、被保険者ではなく保険会社に直接発すれば足りるとするのが論理の帰結であるはずです。この論理について保険毎日新聞社発行「自動車保険の解説2012」の59頁には「本項Bの規定は、被保険者が保険会社による示談代行に同意せず、その上被害者との交渉にも応じない場合等に備えたものであって、保険会社への直接請求に際してあらかじめ被害者に承諾書を提出させることを条件付けするものではない。」と解説されています。

 また同解説書では、実務的にも「この場合(※本項Bの場合)には、被害者は被保険者宛の免責証書(release、債権者が債務者のために債権を放棄(不行使)し、債務を免除することを記した証書)を作成し、保険会社に提出するが、受け取った保険会社はこれを被保険者に送付する。」として、損害賠償金支払者である保険会社宛に提出することを明記しています。
 ですから、この免責証書は「あくまでも被保険者に直接発せられたものでなければならない」との主張は誤りです。

○結論として、免責証書を提出による直接請求での、免責証書提出先は、損害賠償金を実際に支払う保険会社であり、その支払を受けると引換に或いは支払が確実に得られる保険会社の約定書と引換に提出すれば足ります。それ故、免責証書提出による保険会社に対する直接請求の訴えでの請求の趣旨は、上記の通り、
被告(保険会社)は原告(被害者)に対し、原告が訴外A(被保険者・加害者)に対する損害賠償請求権を行使しないことを訴外Aに対し書面で承諾することを条件に金○円及びこれに対する平成○年○月○日から支払済みまで年5%の割合による金員を支払え。
でよいでしょう。