○「
平成24年7月31日横浜地方裁判所判決紹介1」の続きで、裁判所の判断です。
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第三 裁判所の判断
1 過失相殺の可否について
(1) 前記争いのない事実に証拠(略)及び弁論の全趣旨を総合すると、次の事実が認められる。
ア 本件交差点は、a方面とb方面に伸びる道路(以下「道路A」という。)とc方面とd方面に伸びる道路(以下「道路B」という。)が交差する十字路交差点であり、信号機は設置されていない。
道路Aは車線の別がある片側1車線の道路であり、各車線の幅は約3mで、両側に約1.4mの歩道がある。同歩道での自転車の通行は不可とされている。ただし、道路Aの車道の交通量が多いため、多くの自転車運転者は、歩道を走行していた。道路Bは幅員約4.8mの道路である。
いずれの道路からも左右の見通しは悪いが、別紙図面の「カーブミラー」と記載された位置にはカーブミラーが設置されている。道路B上には、別紙図面の「止まれ」と記載されている位置に、一時停止線がある。
イ 被告車両は、c方面からd方面へ道路Bを走行し、上記一時停止線で一時停止した後、本件交差点に進入したところ、左方向から道路Aの東方面にある歩道上を走行してきた原告自転車と、別紙図面の×地点で、衝突した。
原告は、ブレーキをかけないまま、原告自転車を本件交差点に進入させ、進入直後に被告車両と衝突した。
(2) 被告は、陳述書で、上記一時停止線で一時停止したと供述しているところ、証拠(略)によると、被告車両は、本件事故発生した地点から約0.6b離れた地点で停止しているから、本件事故当時、被告車両の速度はほとんど出ていなかったと認められる。このことからすると、本件交差点に進入する手前で一時停止した旨の被告の上記供述は信用することができる。したがって、被告車両は、本件交差点に進入する手前で一時停止したものと認められる。
これに対し、原告は、被告車両が一時停止していないと主張し、陳述書及び本人尋問において、別紙図面のBの位置辺りで、カーブミラーを見て確認したところ、被告車両はいなかったと供述するが、この供述から直ちに被告車両は一時停止していないと認めることはできず、他に、被告車両は本件交差点に進入する手前で一時停止した
との上記認定を左右するに足りる証拠はない。
(3) 以上の事故態様からすると、原告車両は、自転車の通行が禁止されている歩道上を左方向から進行してきたのであるから、原告にも過失があるということができ、25%の過失相殺をするのが相当である。
2 原告は脳脊髄液減少症を発症しているか
(1) 証拠(略)によると、次の事実が認められる。
ア H病院
原告は、平成17年6月8日、本件事故により頸部を負傷し、その直後に意識を失い、直ちに、H病院へ救急搬送された。原告は、同日、頭痛や右後頸部痛を訴えていた。同日、CT検査が行われたが、異常はなかった。
同月9日の通院時、原告は、首筋の痛み(頸部痛)を訴えたが、頭痛はないと述べていた。同病院の医師は、同日、脳震盪症、頸椎捻挫と診断した。
イ J病院
原告は、平成17年6月9日、J病院ヘの通院を開始した。初診時において、原告は、後頸部痛及び背部痛を訴えていたが、頭痛は訴えていなかった。レントゲン検査が行われたが、異常はなかった。
原告は、同年7月28日、ひどい頭痛があると訴えた。
同年9月8日のカルテには、「かなり改善してきた。motionも良くなってきている。リハしている。肩こりのみ」との記載がある。
同月26日、同病院の医師は、外傷性頸部捻挫と診断した。
原告は、同年11月2日、同病院の整形外科の問診票において、小指及び薬指のしびれを訴えているが、頭痛は訴えていない。
同病院の医師は、平成18年1月13日、外傷性頸部捻挫に加え、末梢神経障害と診断した。
原告は、平成18年2月3日、右手の指の痺れや右側の肩こり、頭痛等を訴えた。
同病院には、平成20年2月28日まで通院した。
ウ K病院
原告は、平成17年7月19日、同病院のリハビリテーション科に通院し、運動療法等のリハビリを開始した(疾病名は外傷性頸部捻挫)。
同年7月25日のカルテには、「症状は落ち着いてきている」との記載があるが、原告は、同月28日、右の首筋の痛みを訴えている。
エ B病院
(ア) 原告は、平成17年12月19日、B病院の脳神経外科を受診し、同病院への通院を開始した。
(イ) 同病院ではMRI検査が行われたが、MRI上、低髄液圧症の所見は認められず、器質的病変も認められなかった。
しかし、低髄液圧症様の症状が持続するため、同病院の麻酔科の丙川三郎医師(以下「丙川医師」という。)は、平成18年11月9日、1回目のブラッドパッチを施行した。これにより、低髄液圧症様の症状は著明に改善した。
しかし、その後、症状が再発したため、原告は、平成19年2月1日に頸部に、同年5月24日に腰部に、それぞれ、ブラッドパッチを受けたものの、症状は一過性に軽減するのみであった。
原告は、平成19年7月30日から同年8月10日まで、B病院に入院し、その間に、頸部に頸部硬膜外持続ブロックの施術を受けた。これにより、一定期間、症状が軽減したが、再び症状が悪化した。
丙川医師は、平成19年11月15日、自動車損害賠償責任保険後遺障害診断書を作成した。同診断書には、傷病名として、頸腕症候群のほか、低髄液圧症候群の疑いがある旨が記載されており、また、自覚症状として、立位で出現し臥位で軽快する頭痛が持続していたことや、ブラッドパッチにより症状が改善したこと、その後症状が悪化したことなどが記載されている。
(ウ) 丙川医師は、平成18年8月24日、原告を診察しているが、この診察時の「外来麻酔科経過記録」には、頭痛について、「臥位でも軽減なし」の記載がある。
同年10月5日の診察時の「外来麻酔科経過記録」には、「天候により頭痛、嘔気 横になっているとよくなる」との記載が、同年11月9日の診察時の「外来麻酔科経過記録」には「臥位で30分程度で改善」との記載が、平成19年3月22日の診察時の「外来麻酔科経過記録」には「日によって症状大きく異なる。朝起床してすごく痛いことがよくある」との記載が、同年6月21日の診察時の「外来麻酔科経過記録」には「臥位で…よくなる」との記載がある。
また、平成19年6月26日の診察時の「外来初診記録続紙」には、安静にしていても頭痛があり、動くとこれらが増大する旨の記載がある。
なお、平成19年3月29日の診察時の「外来初診記録続紙」には、同病院神経内科の辛田五郎医師の診断として、横になっても頭痛がなくならない旨や、「ハッキリとした起立性HA(頭痛)ではないが…」との記載がある。
(エ) 原告は、同病院で、平成20年8月18日、RI脳槽シンチグラフィー検査を受け、6時間後及び25時間後の状態を撮影した。しかし、丙川医師は、髄液漏れの所見はないと判断しており、同病院の庚山六郎医師も、髄液漏れを示唆するRIの異常集積は認められないと判断している。