違法駐車過失責任−平成13年12月18日東京地裁判決紹介1
○夜間、降雨により視界が相当悪くなっていた時に、非常点滅表示灯、尾灯等の灯火を全くつけることなく、薄暗い路上に違法に車両を駐車させていたB車両を、A(17歳・女・職業不明)運転原付自転車が22m手前で発見し、14m手前で急ブレーキをかけて、転倒滑走し、B車両後部に衝突し、Aは、頭部打撲、顔面骨骨折等の重傷を負い、最終的に後遺障害併合第11級を認定され、B及びBの任意保険会社のC保険に約793万円の損害賠償請求した事案についての平成13年12月18日東京地裁判決(交民34巻6号1624頁)を紹介します。単に駐車しているだけでも、違法駐車の場合、時に責任が生じる例です。
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主文
一 被告Bは、原告に対し、214万9615円及びこれに対する平成12年4月17日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。
二 被告C保険は、原告の被告Bに対する判決が確定したときは、原告に対し、214万9615円及びこれに対する平成12年4月17日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
三 原告の被告らに対するその余の請求を棄却する。
四 訴訟費用はこれを3分し、その1を被告らの負担とし、その余を原告の負担とする。
五 この判決は、第一項に限り、仮に執行することができる。
事実及び理由
第一 請求
一 被告Bは、原告に対し、793万3000円及びこれに対する本件事故の後である平成12年4月17日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。
二 被告C保険は、原告の被告Bに対する判決が確定したときは、原告に対し、793万3000円及びこれに対する本件事故の後である平成12年4月17日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。
第二 事案の概要
本件は、駐車車両に衝突して受傷した原告が、駐車車両の運転者であり保有者である被告Bに対し、民法709条、自賠法三条に基づき損害賠償の請求をし、また、被告Bとの間で自動車保険契約を締結している被告C保険に対し、同額の損害賠償金の支払を求めた事案である。
一 前提となる事実(証拠を掲げた事実以外は、争いがない。)
(一) 本件事故の発生
(1) 日時 平成11年8月13日午後8時00分ころ
(2) 場所 東京都町田市○○先路上(本件道路)
(3) 原告車両 原告が運転する原動機付自転車
(4) 被告車両 被告Bが運転し保有する普通乗用自動車
(5) 態様 原告車両が、駐車中の被告車両に衝突した。
(二) 原告の受傷内容、入通院の経過及び後遺障害
(1) 原告の受傷内容
原告は、本件事故により、頭部打撲、顔面骨骨折、腰部挫傷、両股関節捻挫、仙骨骨折、頸椎捻挫、顔面挫創等の傷害を負った(甲二〈1〉)。
(2) 原告の入通院の経過(甲2、8)
ア ○○丘陵病院
入院 平成11年8月13日〜同年9月6日(25日)
通院 平成11年9月14日(1日)
イ ○○整形外科クリニック
通院 平成11年9月10日〜平成12年2月14日(実日数87日)
ウ ○○大学付属多摩永山病院
通院 平成11年9月3日〜同年10月13日(実日数9日)
(3) 原告の後遺障害(甲二〈1〉、甲三〈1〉)
原告は、平成12年2月14日に症状固定し、自算会から、次の二つの後遺障害により併合11級との認定を受けた。
ア 顔面挫創による外貌の醜状障害(後遺障害等級表12級14号)
イ 仙骨骨折に伴う骨盤骨の変形障害(同12級五号)
(三) 責任原因
(1) 被告Bは、被告車両を運転し、かつ、保有している。
(2) 被告C保険は、被告Bとの間で、被告車両について自動車保険契約を締結している。
(四) 損害の填補
原告は、自賠責保険から、後遺障害保険金として231万7000円、傷害保険金として96万円の合計327万7000円の支払を受けた。
二 争点
(一) 本件事故発生の責任
(1) 被告らの主張
ア 本件事故は、原告が時速約30kmで原動機付自転車を運転していて、駐車中の被告車両を前方約22・3mの地点に発見したが、不用意に急ブレーキをかけたため転倒し、その結果滑走して被告車両に衝突したものである。なお、原告は、本件事故当時、原動機付自転車の運転免許を取得して三か月程度であった。
イ 原告が被告車両を発見した時、距離は22・3mもあったのであるから、ごく通常の制動を行えば、被告車両の手前で十分に停止することができた。すなわち、道路の摩擦係数を「湿潤なアスファルト舗装」の場合の0・3とした制動距離は11・6mであり、これに1秒間の空走距離8・3mを加えても、総制動距離は19・9mであり、十分安全に停止することができる。
さらに、当時、道路は空いており、原告に併走する車両も後続する車両もなかったのであるから、そもそもブレーキを使用しなくても、ハンドル操作でなんなく被告車両を回避することが可能であった。
ウ 被告Bの駐車していた時間は、約5分間という短時間にすぎない。また、自動車の色は白と茶のツートンカラーであって、発見が困難な色でもない。そして、現場は直線道路であって見通しは良く、かつ、街路灯は40m間隔で設置されていた。
エ 以上より、本件事故は、原告の未熟な操縦による一方的なしかも重大な過失によるものであって、被告Bには、本件事故の結果と相当因果関係のある過失はない。そして、被告車両には、構造上の欠陥も機能
の障害もなかった。
よって、被告Bには、民法709条の責任は発生せず、また、自賠法三条ただし書の免責が認められる。
オ 仮に被告Bに責任が認められるとしても、原告の過失は極めて大きいから過失相殺がされなければならず、その過失割合は9割を下回らないものである。
(2)原告の主張
ア 本件事故は、夜間・雨天のため視界不良の中、無灯火で反射板のない状態で、幹線道路における駐車禁止場所に違法駐車中の被告車両に、原告車両が衝突したものである。
イ 被告らの主張するように、本件道路には街路灯が設置されているが、灯火が街路樹の木の枝や葉に遮られ、部分照射程度の役割しか果しておらず、道路全面を照射していない。また、被告車両は、白と茶のツートンカラーで、衝突した後方から見ると茶と黒の部分が多く、夜間・雨天・視界不良の時、障害物として識別することは容易ではない。
被告らは、被告Bが駐車した時間は約5分間という短時間にすぎないと主張しているが、乙一によれば、被告Bは、午後7時55分に駐車し、午後8時8分に110番通報をしたとなっている。そうすると、被告Bは、少なくとも13分間は駐車したことになる。被告Bは、本件道路を常時駐車場として使用していたものである。
乙一によれば、原告が被告車両を認識した地点は22・3m手前となっているが、原告が障害物を認識したのは夜間・雨天で視界不良の中でのことであり、衝突地点までの距離は定かではなく、乙一に記載されている距離は推定に基づくものである。仮に22・3mの距離があったとしても、被告らの主張では、空走距離について、夜間・雨天であり、原告車両が原動機付自転車であることへの配慮が欠けている。
ウ 被告Bの違法駐車行為は、危険な道路環境を作り出していることになり、重大な結果発生の危険惹起要因として本件事故との間に相当因果関係があり、被告Bの過失割合は5割以上である。
(二) 原告の損害額(原告の主張)
(1) 治療関係費、通院慰謝料 少なくとも96万0000円
(2) 後遺症慰謝料 200万0000円
(3) 後遺障害による逸失利益 825万0000円
(4) 既払金 327万7000円
原告は、(1)ないし(3)の合計額1121万円から(4)の既払金を控除した793万3000円の支払を求める。