当事者が共謀しての仮装事故と認定された判決紹介1
○平成24年10月21日発行判例時報2159号134頁に交通事故に関する興味深い判例が掲載されており、私が提唱している被害者の加害者に対する直接請求にも多少関連しますので、参考に紹介します。
事案概要は以下の通りです。
Xの主張
・平成20年3月26日、甲社からSクラスベンツを(以下、本件車両と言う)代金1617万円で購入し、817万円を頭金として一括支払いし残金は自動車ローンを組んでいた。
・Xは、平成20年6月6日又は7日の夕方、Y2社の土場(以下、本件事故現場という)に本件車両を駐車して、Y1と仕事の話をしながら食事をして、その後、同月9日午後4時に本件衝突事故の報告を受け、その日の夜、本件車両を引き取った。
・本件衝突事故とは、Y1がY2所有2トントラックを本件事故現場に駐車するため本件車両の右隣に駐車していた車両の前に止めようとしてバックしたところ、原告車両に衝突した。
・その結果、Xには、修理費用約600万円、代車費用約435万円の合計約1035万円の損害が発生した。
・Xは、平成19年10月25日、Y3保険と自動車保険契約を締結していたが、本件車両の購入により、車両変更に伴う変更手続をして、被保険自動車を本件車両として、車両保険金1610万円とした。
・Xは、平成20年6月頃、Y3保険に対し、車両保険金支払請求をしたが拒否され、同年11月、Y1,Y2,Y3保険に対し損害賠償請求支払調停を出すも不調に終わった。
・そこでXは、
@Y1,Y2に対し約1100万円の損害賠償請求の訴えを提起したところ(A事件)、
AY2との自動車保険契約を締結していたZ保険が独立当事者参加を申し立て、X、Y1、Y2に対し保険金支払義務がないことの確認を求め(B事件)、
BY3保険に対し自動車保険契約に基づく保険金支払を求めた(C事件)
との3つの事件が係属した。
なお、Y1,Y2は答弁書においてXの請求原因を自白し(そのまま認め)、尋問においても一貫して本件事故の発生を認めています。
Z保険の主張
・高級車である本件車両を2,3日も本件事故現場に放置しておくのは不自然
・衝突したとするY2車両後部に突入防止バンパーが装着されているのでX主張のような衝突態様にならないはずなのに、本件車両に生じた各種損傷は不自然で同一機会に生じる損傷ではない
・販売した甲社作成修理見積書は、実際パテ修理しか行っていないのに、あたかも全部品を交換した如き内容で、且つ、損傷のない部分の修理費用も含まれており信用できない
・Xは、本件車両の損傷が軽微で鈑金・塗装等で修理が完了したことを知った上で、あえて高額な見積書を作成して保険金詐取をもくろんでいると推察される
Y3保険の主張
・本件事故現場に超高級車両sクラスベンツを野晒しにしておく合理性はない
・衝突事故態様が余りに不自然
・修理費用約600万円を請求しているが、実際の修理費用は48万円程度であり、Xが保険事故を偽装する十分な動機がある
・本件車両は平成20年3月1610万円で購入したして同額の高額車両保険が付されていたが、実際は、平成19年8月、甲社がオートオークションで870万円で落札し、在庫車両として残っていたもので平成20年4月当時1610万円もの価値を有するはずがない
・Xは、平成18年11月から平成20年11月まで3回もの保険事故発生による車両保険金請求をしている
○事案について当事者全員の主張を概観しただけで、見え見えの仮装事故に感じました。衝突事故による損害賠償請求の被告とされたY1,Y2が請求を自白していますが、次の条文によりその自白の効力が否定されています。
民事訴訟法
第40条(必要的共同訴訟)
訴訟の目的が共同訴訟人の全員について合一にのみ確定すべき場合には、その1人の訴訟行為は、全員の利益においてのみその効力を生ずる。
第47条(独立当事者参加)
訴訟の結果によって権利が害されることを主張する第三者又は訴訟の目的の全部若しくは一部が自己の権利であることを主張する第三者は、その訴訟の当事者の双方又は一方を相手方として、当事者としてその訴訟に参加することができる。
()中略
4 第40条第1項から第3項までの規定は第1項の訴訟の当事者及び同項の規定によりその訴訟に参加した者について、第43条の規定は同項の規定による参加の申出について準用する。
この事案に対する裁判所の判断は別コンテンツで紹介します。