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小松亀一法律事務所は、「交通事故」問題に熱心に取り組む法律事務所です。

交通事故重要判例

定期金賠償方式の原判決を一時金賠償方式に変更した例

○平成23年12月22日福岡高裁判決(判例時報2151号31頁)を紹介します。
 事案は、Y1運転の被控訴人車と衝突した自動二輪車の運転者であるX1及びその両親である控訴人X2らが、Y1とその使用者で加害車両運行供用者のY2会社に対し、損害賠償を請求したもので、損害賠償金内訳で最も大きな介護費用について、X1らは一時金賠償方式による支払を求めたものに対し、Y側は定期金賠償方式を主張したものです。

○X1は自動二輪車運転中、Y1運転貨物自動車との衝突事故で,びまん性脳損傷,外傷性水頭症等の後遺障害(自賠法施行令別表第1の1級1号相当)を負い、貨物自動車運転者とその使用者である会社に対し損害賠償を求めましたが、争点は,主として将来の介護費用等の損害額に関してであり、それに関して在宅介護の可否や,定期金賠償の可否が争われ、被害者に存した脳血管奇形による既往症減額の可否,過失相殺も争点とされました。

○第一審判決は、現在医療施設入所中の被害者について,在宅による介護も可能とした上で,将来の介護費用については定期金賠償の方式による支払が相当であるとし,金額については,母親が介護できる間は日中のみの職業介護人1人と母親の態勢で日額1万8000円,母親が介護できなくなった後は24時間職業介護人1人の態勢で日額2万3000円の介護費用相当額とし、車いすや福祉車両,介護用ベッドの買換費用についても5年又は10年ごとに定期金賠償の方式で支払うよう命じました。いずれも支払期間は,被害者の死亡又は平均寿命到達のいずれか早期に到来する時までです。
定期金賠償を可とする理由は、
@介護費用は将来継続発生する、
A将来は民訴法117条で事情変更に対処できる、
B支払者が保険会社なので将来履行は確保されている
等です。
(参考)
民訴法第117条(定期金による賠償を命じた確定判決の変更を求める訴え)
 口頭弁論終結前に生じた損害につき定期金による賠償を命じた確定判決について、口頭弁論終結後に、後遺障害の程度、賃金水準その他の損害額の算定の基礎となった事情に著しい変更が生じた場合には、その判決の変更を求める訴えを提起することができる。ただし、その訴えの提起の日以後に支払期限が到来する定期金に係る部分に限る。
2 前項の訴えは、第一審裁判所の管轄に専属する。


○X1らは、一時金賠償方式での賠償を求めているのに、定期金賠償方式での賠償を認めた原審判決を不服として、控訴した控訴審判決が平成23年12月22日福岡高裁判決(判例時報2151号31頁)です。その要旨は、X1が症状固定時25歳で、後遺障害により高度意識障害や著明な四肢拘縮が継続しているが、在宅医療をしており、これを前提に損害を算定することが公平の理念に反するものということはできないこと、また、民訴法117条が創設されたことを勘案しても、X1らの申立てに反して定期金賠償方式を採用することが相当であるとは解されないとして、定期金賠償方式を採用した原判決を変更し、一時金賠償方式を採用しました。

○福岡高裁が、定期金賠償方式を一時金賠償方式に変更した理由骨子は次の通りです。
@損保会社も破綻する可能性があり将来履行が確実とは言えない、
AXらは事故に関する加害者側主張に大きな精神的負担を負っており、被害者と加害者の関係性が長期継続することを耐え難いとして一時金賠償方式を求めてる、
BXは高度意識障害等の後遺障害で在宅療養しており、これを前提に損害を算定することが公平の理念に反するとは言えず、民訴法117を勘案してもXの意思に反して定期金賠償を採用することが相当とは解されない。

○将来の介護費用は、平均余命を前提として将来の介護費用全額を計算して、これに中間利息を控除したライプニッツ係数をかけて算出するのが常ですが、例えば平均余命50年としても、重篤な後遺障害がある場合、10年先に死亡する例もあり、この場合死去後の介護費用まで取得するのは明らかに不公平なので、生きている限り毎月支払う定期金方式にして死去後は支払を打ち切るのが公平だとの考えです。この考えも一理ありますが、被害者の立場にすれば、必ず支払って貰えるかとの不安、何より加害者側との関係を完全に遮断してしまいたいとの希望があり、私自身としては、一時金賠償方式が妥当と思っております。