本文へスキップ

小松亀一法律事務所は、「交通事故」問題に熱心に取り組む法律事務所です。

休業損害逸失利益

一人暮らしの老人の休業損害・逸失利益を認めた判例紹介3

○「一人暮らしの老人の休業損害・逸失利益を認めた判例紹介2」の続きで、過失割合部分を除いた裁判所の判断です。


***********************************************

第三 当裁判所の判断
一 争点(1)(本件事故の態様及び責任原因(過失割合))について


(中略)

二 争点(2)(一審原告らの損害額)について
 当裁判所は、一審原告らの損害額について、次のとおり認定する。
(1)一審原告X1の損害
@治療費(81万4840円)
 《証拠省略》によれば、一審原告X1は、本件事故による治療費として、その主張のとおりの病院に対し、上記の合計金額を負担したことが認められる。
 
A入院雑費(14万6900円)
 一審原告X1は、前記前提事実のとおり、合計113日間入院したものであり、入院雑費は日額1300円とするのが相当であるから、その合計額は上記の金額となる。

B付添看護料(295万2000円)
 前記前提事実のとおり、一審原告X1の入院日数は合計113日、症状固定日である平成12年1月7日までの実通院日数は合計41日であり、《証拠省略》によれば、本件事故日から平成12年1月7日までの492日間、ほぼ毎日一審原告X2が一審原告X1に付き添って看護していたことが認められるところ、一審原告X1は本件事故により複数の肋骨骨折や脳に重篤な後遺障害を残す頭部打撲等の重大な傷害を負ったものであり、その後の治療経過等にも照らすと、入通院期間中のみならず、その余の在宅期間中においても、付添看護が必要であったということができる。そして、近親者による付添看護料の日額は6000円とするのが相当であるから、本件事故日から平成12年1月7日までの492日間の付添看護料は、合計295万2000円となる。

C休業損害(396万0936円)
 前記前提事実のとおり、一審原告X1は、本件事故当時78歳の女性であり、《証拠省略》によれば、本件事故当時家事労働に従事していたことが認められるから(なお、一審原告X1は、本件事故当時、夫と死別して一人暮らしをしていたものであるが、自分の生活を維持するための家事労働に従事することができなくなった場合においても、それによる損害を休業損害と評価するのが相当である。)、一審原告X1の基礎収入は、平成11年賃金センサス女子労働者学歴計65歳以上の平均賃金293万8500円によるのが相当である。そうすると、休業期間は事故日から症状固定日までの492日間であるから、一審原告X1の本件事故による休業損害は、次のとおり、上記の金額となる(円未満切り捨て。以下、同じ。)。
 293万8500円×(492日÷365日)=396万0936円

D逸失利益(1272万1941円)
 一審原告X1の基礎収入は、前記のとおり293万8500円とするのが相当であり、後遺障害の程度は、前記前提事実に照らすと、後遺障害別等級表の二級であるとするのが相当であるから、その労働能力喪失率は100パーセントとなる。そして、一審原告X1は、症状固定時80歳の女性であり、80歳の女性の平均余命は約10年であるから、労働能力喪失期間はその二分の一の5年間とするのが相当であり、その場合のライプニッツ係数は、4・3294である。そうすると、一審原告X1の本件事故による逸失利益は、次のとおり、上記の金額となる。
 293万8500円×100%×4.3294=1272万1941円

E介護費用(3704万5566円)
 前記前提事実のとおりの一審原告X1の後遺障害の程度に加え、《証拠省略》によれば、一審原告X1は、本件事故前と異なり、現在は家人と意思の疎通をすることはある程度できるものの、食事、着替え、排泄、入浴等の身の回りのことを自分一人では十分に行うことができず、独立歩行も困難で、常に介護が必要な状態にあり、この状態が将来改善される可能性は著しく低いものであること、現在、一審原告X1の介護に当たっている一審原告X2は、作曲家として一週間に5日程度稼働しているため、その稼働日(年間260日)は職業人介護が必要であり、それ以外の日(年間105日)は一審原告X2が介護に当たることになることが認められる。そして、職業人介護に要する費用として5日間で8万0146円(甲25を基に計算)、近親者である一審原告X2の介護費用として日額6000円とするのが相当である。また、一審原告X1の平均余命は約10年であり、その場合のライプニッツ係数は7・7217である。そうすると、一審原告X1の本件事故による症状固定後の介護費用は、次のとおり、上記の金額となる。
 (8万0146円×52週+6000円×105日)×7.7217=3704万5566円

F傷害慰謝料(230万円)
 前記前提事実のとおり、一審原告X1は、本件事故日から平成12年1月7日までの間、入通院を繰り返したものであり、上記Bのとおり、一審原告X1の入院日数は合計113日、症状固定日である平成12年1月7日までの実通院日数は合計41日であるところ、一審原告X1は、本件事故により、複数の肋骨骨折や頭部打撲による重篤な脳障害を負ったことなどに照らすと、一審原告X1の本件事故による傷害慰謝料は230万円とするのが相当である。

G後遺障害慰謝料(2200万円)
 上記のとおり、一審原告X1の後遺障害の程度は、後遺障害別等級表の二級であるとするのが相当であるから、一審原告X1の本件事故による後遺障害慰謝料は2200万円とするのが相当である。

H過失相殺後の金額 (6965万0855円)
 @ないしGの合計8194万2183円の85パーセントは、6965万0855円となる。

I 損害てん補後の金額 (6160万0178円)
 一審原告X1が、本件事故による損害のてん補として、政府の自動車損害賠償保障事業に基づき、平成13年2月26日、731万9557円の給付を受けたほか、一審被告から、73万1120円を受領したことは当事者間に争いがない。なお、一審被告は、上記のほか、雑費及び見舞金として6万円を支払ったと主張するが、丙五の三も、これを認めるに十分でなく、他に、これを認めるに足りる証拠はない。そうすると、Hの金額から上記合計805万0677円を控除すると、上記の金額となる。

J弁護士費用(600万円)
 弁護士費用としては、Iの金額の約10パーセントに当たる上記金額が相当である。

K小計(6760万0178円)
 IとJの合計額は、上記の金額(認容元金内金額)となる。

L確定遅延損害金 (91万0432円)
 Iの731万9557円に対する本件事故日である平成10年9月3日から給付日である平成13年2月26日まで(908日間)の年五分の割合による確定遅延損害金は、上記の金額となる。

M総計(6851万0610円)
 KとLの合計額は、上記の金額(認容元金総金額)となる。
 以上によれば、一審原告X1が一審被告に対し本件事故に基づく損害賠償として請求することができる金額は、6851万0610円及びうち6760万0178円に対する平成10年9月3日から支払済みまで年五分の割合による金員となる。

(2)一審原告X2の損害
 上記のとおり、一審原告X1の本件事故による傷害及び後遺障害は重篤であると認められるものの、これにより一審原告X2が一審原告X1の死亡にも比肩するような精神的苦痛を受けたとまでは認めることができず、一審原告X2に固有の慰謝料請求権を認めることはできないというべきである。

三 結論
 以上によれば、一審原告X1の請求は、6851万0610円及びうち6760万0178円に対する平成10年9月3日から支払済みまで年五分の割合による金員の支払を求める限度で理由があり、一審原告X1のその余の請求及び一審原告X2の請求はいずれも理由がない。
 よって、原判決中、一審原告X1に関する部分は、請求を認容した部分は相当であるが、上記限度までの請求を棄却した部分は不当であり、また、一審原告X2に関する部分は、相当であるから、一審原告X1に関する部分を上記の限度で変更し、一審原告X2及び一審被告の本件控訴をいずれも棄却することとし、主文のとおり判決する。
 (裁判長裁判官 横山匡輝 裁判官 佐藤公美 萩本修)