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小松亀一法律事務所は、「交通事故」問題に熱心に取り組む法律事務所です。

交通事故重要判例

手話言語能力喪失に関する判例紹介3

○「手話言語能力喪失に関する判例紹介2」の続きで、裁判所の判断の損害額です。

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2 争点(2)について
(1) 治療費(請求・認容額117万5920円)

 原告は,117万5920円の治療費を要したことが認められ(甲5,6〈枝番を含む〉,弁論の全趣旨),相当因果関係のある治療費と認める。

(2) 入院雑費(請求・認容額2万6600円)
 前記のとおり,原告は,本件事故により19日間入院しており,入院雑費は1日当たり1400円が相当であるから,合計2万6600円となる。

(3) 付添看護費(請求・認容額11万4000円)
 原告は19日間入院し,骨折の傷害を負い,入院の翌日から退院するまで鎖骨バンドをはめており(甲5の1),また,聴覚障害者であることから付添看護の必要があり,入院付添看護費は1日あたり6000円とするのが相当であり,合計11万4000円となる。

(4) 介助器具等(請求・認容額11万2239円)
 原告は,メガネ代4万2624円(甲11の2),シャワートイレ代6万9615円(甲11の1),合計11万2239円を要したことが認められ,相当因果関係のある損害と認められる。

(5) 休業損害(請求466万5411円)  375万6469円
 前記のとおり,原告は,本件事故でA病院に入院し,その後,A病院及びB病院に通院し,平成18年3月24日症状固定した。そして,原告は専業主婦で,本件事故当時○歳であり(甲2,原告),退院後,自宅でリハビリをしており,平成16年12月13日「そうじきかけると痛い」(A病院診療録,以下同じ,乙1の3・30頁),同月15日「雑巾しぼると痛い」(同)と記載されており,また,平成17年1月19日「日常生活は調子よい」(乙1の2・23頁),同月26日「力がかからない事なら日常内動作大分行えるようになった」と記載されている(乙1の3・32頁)。しかし,他方,平成17年7月29日,「包丁 皮むきができない」(B病院診療録,以下同じ,乙2の1・8頁),同年9月30日「皮むき 包丁掌側にあてると痛みでやりにくい」(乙2の1・11頁)との記載もみられる。

 以上のとおりであり,原告は専業主婦で,退院後はリハビリ中心であり,症状は固定時まで徐々に改善していくものであり,被告の主張するような平成17年1月末で主婦業が可能となったとは認められないが,家事労働につき入院から退院してA病院に通院しているころまでの6か月間の180日間は100パーセント,その後は症状固定時まで50パーセント休業したものと認めるのが相当である。
 そうすると,休業損害は以下の計算式により,375万6469円となる。なお,原告は平成18年女子中卒年齢別の賃金センサスで請求しているが,家事労働であり,本件事故時の平成16年学歴計全年齢女子賃金センサス350万2200円を用いるのが相当であり,これを基礎収入とする。
 350万2200円÷365日×(180日+〈603日−180日〉÷2)
 (原告の請求 平成18年賃金センサス女子・中卒55ないし59歳282万4100円×603日〈原告の請求分〉
 被告の主張 原告が自用を弁ずるのに支障がなくなる時期は,本件受傷後3か月であり,平成17年1月末ころには通常の主婦業は概ね可能となったものである。)

(6) 慰謝料(請求・認容額150万円)
 原告は,本件事故による傷害により,19日間入院し,実通院日数合計121日(原告の主張する12か月見当で算定する)通院している。そして,その他の事情を考慮すると,慰謝料額は150万円と認める。

(7) 逸失利益(請求1424万7506円)  475万3357円
 原告は,前記のとおりの後遺障害を残し,症状固定時○歳であり,家事労働につき左手関節部の疼痛があり,左手で重いものが持てない,フライパンを左手だけでは使えない,包丁が使いにくい,更衣時右鎖骨疼痛がある,更衣時左手は使えない,タオル絞りが出きない,ビン,缶のふたが開けられない,寒冷時に右鎖骨・肩甲部,左手関節の疼痛がある,右肩の違和感がある,左手で右手指の爪は切れない,受傷前はバドミントン,ウオーキング,スキー,水泳をやっていたが,現在はしていない,左手で食器把持は困難軽度,手話での会話に支障があるという状態である(甲7,17,原告)。そして,鎖骨変形は,鎖骨骨折によるものであり,更衣時あるいは寒冷時に鎖骨に疼痛が残り,家事労働への影響を否定することはできず,11級の20パーセントの労働能力喪失率を認めるのが相当である。

 そうすると,逸失利益は以下の計算式により,475万3357円となる。なお,基礎収入は平成18年女子学歴計60ないし64歳の平均賃金の286万1400円とするのが相当である。
 286万1400円×0.2×8.306
 (原告の請求 平成18年賃金センサス女子・中卒・60ないし64歳217万1300円×0.79×8.306〈11年のライプニッツ係数〉被告の主張 鎖骨変形については労働能力に影響を与えるものではなく,12級の14パーセントとすべきである。)

(8) 後遺障害慰謝料(請求650万円)  420万円
 原告は本件事故により併合11級の後遺障害が残り,その他本件で現れた諸事情を考慮すると,慰謝料額は420万円と認める。

(9) 以上合計
 1563万8585円

(10) 既払い
 既払い額合計451万8967円を控除すると,1111万9618円となる。

(11) 弁護士費用(請求240万円)  110万円
 本件訴訟の経緯等に照らすと,本件事故と相当因果関係のある弁護士費用は110万円と認める。

(12) 以上合計
 1221万9618円

3 結論
 よって,原告の本件請求は,主文の限度で理由がある。なお,仮執行免脱宣言の申立ては相当でないので,却下する。
 (裁判官 徳永幸藏)