本文へスキップ

小松亀一法律事務所は、「交通事故」問題に熱心に取り組む法律事務所です。

交通事故重要判例

交通事故による脳脊髄液減少症を認めた名古屋高裁判決紹介1

○平成23年8月名古屋高等裁判所民事第3部判決は、第一審の津地方裁判所伊勢支部で否認された交通事故による脳脊髄液減少症発症を認めて、加害者側に約600万円の支払を命じました。脳脊髄液減少症に関する現在の医学会の論争状況も詳細に検討しており参考になりますので、何回かに分けて判決全文を紹介します。一度掲載したものですが、都合により他の記事に差し替えていたものです。今般、不都合が、解消しましたので改めて掲載します。
先ず主文・事案概要と、この判決を報道する中日新聞記事です。
なお、この判例は、判時2121号65頁、自保ジャーナル1848号1頁に掲載されています。

○事案の概要は、犬を連れて歩行中加害車両に跳ね飛ばされ、頭や腰を地面に強く打ち付けられ、左腸骨骨折等の重傷を負った被害者が、骨折等の傷害が治癒した後に持続性の頭痛、頚部痛、手足のしびれ、目眩、耳鳴り、気力低下、倦怠感等が残り、外傷性能脊髄液減少症の後遺障害を主張して約1870万円の損害賠償請求をしたところ、第一審地方裁判所伊勢支部は、外傷性脳脊髄液減少症の後遺障害を否定して、既払金約975万円の支払で全損害は填補されたとして請求を棄却し、被害者が控訴したものです。

*********************************************

主文

1 原判決を次のとおり変更する。
(1) 被控訴人は、控訴人に対し、588万4651円及びこれに対する平成15年10月11日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
(2) 控訴人のその余の請求を棄却する。
2 訴訟費用は、第1,2審を通じてこれを10分し、その3を被控訴人の負担とし、その余を控訴人の負担とする。
3 この判決の主文第1項(1)は、仮に執行することができる。

事実及び理由

第1 当事者の求めた裁判
1 控訴人

(1)原判決を取り消す。
(2)被控訴人は、控訴人に対し、1870万5566円及びこれに対する平成15年10月11日から支払い済みまで年5分の割合による金員を支払え。
(3)訴訟費用は、第1,2審とも被控訴人の負担とする。
(4)仮執行宣言

2 被控訴人
(1)本件控訴を棄却する。
(2)控訴費用は控訴人の負担とする。

第2 事実の概要
1 本件は、控訴人が、道路の歩道線内側を犬を連れて散歩していたところ、後方から進行してきた被控訴人運転の普通乗用自動車に跳ね飛ばされて、頭や腰を地面に強く打ち付けられ、左腸骨骨折、外傷性硬膜外出血、右眼球打撲傷、左眼窩内側壁骨折、右結膜炎、外傷性頚部症候群、下顎顔面挫傷、左大腿下腿打撲、胸部打撲の傷害を負い、これら傷害が治癒した後も、この交通事故(以下「本件事故」という。)による重度ストレス反応及び外傷性脳脊髄液減少症の後遺障害として、持続性・変動制の頭痛、頚部痛、手足のしびれ、目眩、耳鳴り、記憶力低下、気力低下、倦怠、不眠等が残った旨主張して、被控訴人に対し、自賠法3条に基づき、損害賠償金1870万5566円及びこれに対する本件事故日である平成15年10月11日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求めた事案である。

 原判決は、控訴人の主張する外傷性脳脊髄液減少症の後遺障害を否定した上で、本件事故との因果関係の認められる控訴人の損害は既払金975万円余により全て補填されているとして、控訴人の請求を棄却したところ、控訴人が控訴した。

2 前提事実及び当事者の主張は、以下のとおり原判決を付加訂正するほか、原判決「第2 事案の概要」欄の1ないし3に記載のとおりであるから、これを引用する。

3 原判決の付加訂正
(1)原判決2頁24行目の「症状固定した(当時37歳)。」を「一旦症状固定し(当時37歳)、」と改める。
(2)原判決3頁1行目の「残った。」を「残ったと思われた。」と改める。
(3)原判決3頁5行目末尾を改行して、次のとおり付加する。
 「しかし、控訴人は、熱海病院における3回のブラッドパッチ治療の結果、平成21年12月18日、医師から外傷性脳脊髄液減少症が完治した旨を告げられ、平成22年5月以降、会社に雇用されるに至っており、現在までに控訴人の頭痛等の症状は完治している。」
(4)原判決3頁13行目の「症状悪化を防ぐために」を「症状悪化の防止と完治を目的として」と改める。
(5)原判決7頁14行目末尾を改行して、次のとおり付加する。
 「(6)なお、当審の終盤において控訴人がなした完治の主張は、時機に後れたものであり許されない。
 また、仮に、控訴人の症状が完治していたとしても、平成17年1月に症状固定した14級の後遺障害が約5年程度後の平成22年初旬ころ、逸失利益の算定をする必要もないほどに軽快ないし全快したというにすぎず、外傷性脳脊髄液減少症の罹患とこれに対する熱海病院の治療による完治を示すものではない。」


***************************************

脳脊髄液減少症、事故との因果関係認定 名古屋高裁、逆転判決
中日新聞 2011年3月30日 10時40分

 髄液が漏れて頭痛やめまいを起こす「脳脊髄液減少症」になったのは交通事故が原因として、三重県伊勢市の男性患者(40)が損害賠償を求めた訴訟の控訴審判決で、名古屋高裁は、「因果関係を証明できない」とした1審判決を変更し、事故の加害者側に治療費や休業損害額など600万円の支払いを命じた。

 脳脊髄液減少症は、強い衝撃を受けた首や腰から慢性的に脳脊髄液が漏れる病気。原因や病態の見解は医学界で分かれるが、18日の控訴審判決で高田健一裁判長は「外傷によって発症することは認められつつあり、厚生労働省も2010年4月に、検査が保険適用になる見解を示している」と指摘。そのうえで「男性に既往症がないことから、事故との因果関係が存在する」と結論付けた。

 判決によると、男性は03年に歩道を散歩中、後ろから来た乗用車に7メートルはね飛ばされ、腸骨骨折など重傷を負った。その後も頭痛が治まらず、複数の病院でストレスと診断されたが、06年に脳脊髄液減少症を知り、自分の血液を注入する「ブラッドパッチ療法」を受けたところ、症状が改善。仕事もできるようになった。

 NPO法人「脳脊髄液減少症患者・家族支援協会」(和歌山市)によると、脳脊髄液減少症は診断基準が確立されていないことや、事故との因果関係が不明確だったため、健康保険の対象にならず、自賠責保険も適用されにくかった。事故後に同症と診断された患者が各地で賠償を求める裁判を起こし、勝訴は全国で6例目という。

 民間統計によると、交通事故でむち打ちなどを起こし、半年たっても頭痛などを訴える人は年間約5万人。その一部は脳脊髄液減少症の可能性があり、同会の中井宏代表理事は「事故3年後に診断されて因果関係を認めた点は画期的」と話している。
(中日新聞)