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判例タイムズ2011/07/01号交通事故訴訟実務座談会紹介3」を続けます。
●私的工学鑑定書の提出
大阪地裁裁判官の話では、物損事故事件その他事故状況が争われている事案では、自動車工学の専門的知見に基づいた鑑定意見書なるものが提出されることが少なくなく、作成者は、加害者加入損保従業員、関連会社アジャスターが多いとのことですが、これについては医師の意見書以上に少なからぬ問題点があると考えている裁判官が多いとの言葉が心強いところです。
その問題点は、作成者の資格で、専門家としての資格がハッキリしていないことが第一点で、その他の問題点を以下の通り挙げています。
・前提事実が提出された証拠から認められない事実となっていることがある。
※これは、加害者側に有利な事実をでっち上げて、その事実を前提に論じているというものです。例えば、良くある例は、追突事故で追突の衝撃が大変小さく人間の身体に殆ど影響のない程度であるとの鑑定意見書が良く出されますが、残された写真等から認定できる衝突部位、衝突程度とは異なる事実を作り上げて、いわば事実を曲げても加害者側に有利に記述されている例が多く見られます。
・鑑定書に記述された推論の過程が明確でないことがある。そもそも専門家の経験則だとか、専門家なら当然そう推論されると記載されていることが本当なのだろうかと疑問を感じるものも少なくない。
※前提事実の問題、あるいは推論過程の問題等々で結果的には支持できず、従ってその結論は採用できないと言う工学鑑定が決して少なくないと言う印象、と結ばれていますが、私が現在抱えている事件でも、正に我が意を得たりと感じる鑑定書があり、大いに勇気づけられました。
次の名古屋地裁裁判官意見も大変心強いものです。
・工学鑑定書に関しては、物理の難しい公式だとか法則だとか色々書かれているが、推論の過程が何度読んでもサッパリ判らず、そんな理解も納得もできないものは使えない。
前大阪地裁判事は、工学鑑定書について、採用するかどうかは別にして少なくとも事案の解明には資するところがあるのかなという感じは、しないでもないと曖昧な結論でしたが、いずれにしても余り信用されていないようです。
私の経験では、工学鑑定書が出てくる典型的事例は、追突によるむち打ち症事案で、追突による衝撃は全く軽微で人間の身体に殆ど影響がなく、被害者主張のような被害が出るはずがないとの鑑定ですが、これに対する反論検討には、判例タイムズ737号所収・
東京三弁護士会交通事故処理委員会むち打ち症特別研究部会著「むち打ち症に関する医学・工学鑑定の諸問題」が必読書です。