○「
うつ病発症自殺と交通事故との因果関係を認めた判例1」を続けます。
うつ病等精神疾患発症による損害については、交通事故との間に因果関係を認めても、本人の精神の脆弱性も発症の原因になっているとして素因減額がなされるのが通常です。その損害が自殺による場合は、通常、自殺までに至る例はそれほど多くないとして、更に大きい割合の素因減額なされます。大阪地裁昭和60年4月26日判決では、「死亡による損害については、その4割の賠償を認める」として6割が素因減額されました。
○同様に交通事故後のうつ病発症による自殺と交通事故との間の因果関係が認められた例として大阪地方裁判所平成15年2月5日判決(
自動車保険ジャーナル・第1506号) を紹介します。
事案は、死亡時43歳男子大卒公務員(教員)Aは、平成11年12月25日午後8時45分ころ、兵庫県加古川市内で乗用車を運転、信号待ち停車中、B運転乗用車に追突され、前車に玉突き追突して頸・腰部捻挫等で11か所の病院等に168日実通院して、通院中神経症からうつ症状となり、平成13年2月22日自殺したもので、よって妻と2人の子が、Aの自殺は、全面的に交通事故による傷害にものとして、加害者側に約1億4000円の損害賠償を求めて訴えを提起したものです。
これに対し、加害者側は、原則的に、自殺による死亡は、交通事故により通常生ずべき結果にはあたらず、例外的に、自殺してもむりからぬ事情あるいは蓋然性のある場合、例えば、肉体的・精神的後遺症が重篤で、何人も耐え難いと首肯し得る状況にある場合には、相当因果関係の存在を肯定する余地があるかもしれないが、Aの場合は、到底、このような例ではなく、自殺と事故との間に因果関係はないと主張して徹底抗戦しました。
これに対し,判決概要は以下の通りです。
・Aは本件事故によって心因性の耳鳴り・頭鳴りが1年以上継続して神経症となり、うつ症状に陥り、自殺を図って死亡したもので、この場合の自殺は、通常人においても予見することが可能」で、本件事故と自殺との間には、相当因果関係があると認定
・但し、神経症からうつ症状となって自殺へと進展することについてもAの性格的傾向等の心因性要因が寄与しているとし、損害額から80%を減額
・43歳で「死亡しなければ満68歳から満78歳までの間年金の支給を受けられた」として生活費50%を控除して年金逸失利益を認める。
・定年退職後67歳までの逸失利益につき、「公務員等共済組合による年金額は、平均的な受領年金額を上回る」とし、センサス同学歴60歳以上を1.1倍し生活費40%控除で認定した。
○昭和60年4月26日判決の60%減額と、平成15年2月25日の80%減額で、20%の差は相当大きいもので、その差がどこから生じたのか、判例を詳しく分析したいと思っております。大きく素因減額がなされていますが、兎に角、両事件とも、信号待ち停止中に追突された典型的なむち打ち症事案で、傷病名は、頚部挫傷、頚部捻挫等で、頭部挫傷、頭部外傷等の傷病名は付かず、傷病名的には脳に外力が働いたものではないのに、精神疾患発症と更にそれによる自殺にまで因果関係を認めていることは大いに意義があります。