○「
交通事故での胸郭出口症候群等を認めた名古屋地裁判決紹介1」から紹介してきた平成22年10月22日名古屋地裁判決の控訴審判決を紹介します。同地裁判決は、自賠責保険会社の後遺障害等級第14級認定を覆し、胸郭出口症候群等等の他覚症状を認めて併合第10級を認定し、約2793万円の請求に対し2245万円の損害賠償を認めた画期的判決です。保険会社側は当然不服として控訴しましたが、全面棄却でした。先ずは事実及び理由部分の当事者の求めた裁判と事案概要です。
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平成23年3月18日判決言渡同日原本領収裁判所書記官
平成22年(ネ)第1323号・平成23年(ネ)第38号 損害賠償請求・同附帯控訴事件(原審・名古屋地方裁判所平成20年(ワ)第5127号) 口頭弁論終結日平成23年1月26日
判決
名古屋市××
控訴人兼附帯被控訴人 Y1
名古屋市○×
控訴人兼附帯被控訴人 株式会社Y2
上記代表者代表取締役 A
上記2名訴訟代理人弁護士 向井邦生
名古屋市△△
被控訴人兼附帯控訴人 X
同訴訟代理人弁護士 福島啓氏
同 河合慎太
同 山森広明
同 岡田香世
主文
1 本件控訴及び本件附帯控訴をいずれも棄却する。
2 控訴費用は控訴人兼附帯被控訴人らの,附帯控訴費用は被控訴人兼附帯控訴人の負担とする。
事実及び理由
第1 当事者の求めた裁判
1 控訴人兼附帯被控訴人ら(以下「控訴人ら」という。)
(1)原判決中,控訴人ら敗訴部分を取り消す。
(2)被控訴人兼附帯控訴人(以下「被控訴人」という。)の請求をいずれも棄却する。
(3)被控訴人の本件附帯控訴をいずれも棄却する。
(4)訴訟費用は第1,2審とも被控訴人の負担とする。
2 被控訴人
(1)原判決を次のとおり変更する。
(2)控訴人らは,被控訴人に対し,各自2793万4472円及びこれに対する平成16年6月30日から支払済みまで年5分の割合による全員を支払え。
(3)控訴人らの本件控訴をいずれも棄却する。
(4)訴訟費用は,第1,2審とも控訴人らの負担とする。
(5)(2),(4)について仮執行宣言
第2事案の概要
1 本件は,被控訴人が控訴人らに対し,控訴人株式会社Y2(以下「控訴人会社Y2」という。)が所有し,控訴人Y1(以下「控訴人Y1」という。)運転の普通乗用自動車(以下「控訴人車」という。)が,青色信号で停車中の被控訴人運転の普通乗用自動車(以下「被控訴人車」という。)に追突した交通事故(以下「本件事故」という。)により受傷するなどして損害を被ったとして,控訴人Y1については民法709条に基づき,控訴人会社については自動車損害賠償保障法3条に基づき,損害の賠償を求める事案である。
2 原判決は,被控訴人の請求のうち,各自2245万2437円及びこれに対する遅延損害金の支払を求める限度で認容し,その余を棄却したところ,控訴人らは自己の敗訴部分を不服として控訴し,被控訴人も自己の敗訴部分を不服として附帯控訴した。
3 前提事実(争いのない事実),争点及びこれに対する当事者の主張は,次のとおり原判決を付加訂正するほかは,原判決「第2 事案の概要」欄の1,2に記載のとおりであるからこれを引用する。
4 原判決の付加訂正
(1)原判決4頁2行目末尾に,次のとおり付加する。
「さらに,被控訴人は,本件事故発生後から平成16年9月末にかけて,Bクリニックで,首から下のしびれや痛みを押さえる局所麻酔剤の注射を受けていること(甲3の2,4の2),同年7月から同年9月にかけて神経痛,末梢神経炎,末梢神経麻薄を緩和する薬剤(ピタノイリンカプセル25)の処方を受けていること,平成17年11月30日付け診断書には「首〜肩へのしびれ感が出現」との記載があり(甲19の1),平成18年1月16日付けの後選障害診断書にも「左上肢しびれ感」との記載がなされている(甲21)ことからすると,被控訴人には本件事故発生直後から現在に至るまで左上肢の強烈なしびれ感が存在している。そして,外傷性の胸郭出口症候群は,必ずしも,筋肉の断裂を伴うものではなく,頚椎の過伸展・屈曲に起因して,前斜角筋等の肥大化,繊維化などによる腕神経叢の絞掘等により起こるものであること,追突速度が時速5キロメートルの低速度でも,約25パ一セントの人にむち打ち損傷が発症するとのデーターがあり,むち打ち損傷は頚椎の過伸展・屈曲により起こるものであること,控訴人車が被控訴人車に追突した際の衝撃の程度は,本件事故発生直後の被控訴人の状態や被控訴人車の損傷状態からしても相当大きかったものといえること本件事故発生以前の被控訴人の血中の脂質量は正常範囲内のものであり,被控訴人の動脈の狭窄は経年性のものではないことなどからすると,本件事故と被控訴人に,発症した胸郭出口症候群との間には相当因果関係が認められる。
また,被控訴人は,平成18年3月6日付けの診断書により神経因性膀胱との診断を受け,尿流測定により排尿障害が認められ,これらは本件事故による腰椎椎間板障害に起因するものである。」
(2)(原判決4頁21行目「本件事故により」から同質23行目「消失とされている(乙5)。」までを,次のとおり改める。
「本件事故により,被控訴人が胸郭出口症候群及び神経因性膀胱の後遺障害を負ったとの主張は争う。まず,胸郭出口症候群は,斜角筋,鎖骨下筋,小胸筋等の筋肉が断製し,血腫,瘢痕が形成され,その結果,血管や神経を圧迫することによって発生するものであるところ,本件事故は,信号待ちで停止していた被控訴人車に,控訴人車が時速10キロメートル程度の速度で追突したというものであり,本件事故により被控訴人車にわずかな凹損が生じた程度であることに照らしても,被控訴人車内にいた被控訴人に前記筋肉の断裂という負傷を生じさせる程度の外的な衝撃が加わったものとはいえない。また,本件事故発生から約2年経過後に撮影された被控訴人の胸郭上部の血管造影ビデオによると,当該部動脈の一部狭窄の所見は見られるが,明らかに外傷によるものと捉えられる異常所見は認められないのであり,動脈狭窄の原因の大半は経年性のものである。さらに,被控訴人が,左上肢の強烈なしびれを訴え始めたのは,平成18年6月22日に加納クリニックを受診した以降のことであり,それ以前の診断書には被控訴人が前記自覚症状を訴えたとの記載は全くないのであるから,被控訴人について,本件事故直後から左上肢の強烈なしびれがあり,それが現在もなお残存しているものと考えることはできないというべきである。したがって,被控訴人が,本件事故に起因して胸郭出口症候群を発症し,それが後道障害として残存しているものとはいえない。
次に,排尿障害の点についても,被控訴人が通院していた医院の医師は,被控訴人について,平成19年3月の終診時において排尿障害は消失し,神経学的にも症状固定日(平成17年12月30日)及び前記終診時において,膀胱直腸障害は無いとの診断をしていること,仮に,被控訴人に現時点で排尿障害が認められるとしても,それが高度の蓋然性をもって本件事故に起因するとの立証がなされたとはいえないというべきである。したがって,被控訴人が,本件事故に起因して排尿障害を発症し,それが後遺障害として残存しているものとはいえない。」
(3)原判決5頁17行目「なお,」から同頁18行目末尾までを,次のとおり改める。
「なお,被控訴人が平成17年12月31日に勤務先を退職したのは,本件事故の後遺障害により,仕事に不可欠な長時間の運転や医薬品の知識の習得が困難となり,専門職である医薬情報担当者として稼働できなくなったからである。したがつて,被控訴人の後遺障害逸失利益を算定する際の同人の基礎年収は,平成16年度の年収をもってするべきである。」