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小松亀一法律事務所は、「交通事故」問題に熱心に取り組む法律事務所です。

交通事故重要判例

交通事故での胸郭出口症候群等を認めた名古屋地裁判決紹介6

○「交通事故での胸郭出口症候群等を認めた名古屋地裁判決紹介1」から続けている交通事故での胸郭出口症候群等を認めた名古屋地裁判決の最後です。自賠責保険認定では14級であった後遺障害を併合10級を認め労働能力喪失率を27%認めた画期的判決です。被害者は自賠責保険第14級認定を不服として紛争処理機構まで異議の申立をしていましたが、同機構は提出画像上器質的異常所見がないとのいつもの定型的判断で異議を認めませんでした。

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 争点(2) 本件事故による原告の損害について
(1)治療費 142万2160円
ア Bクリニックの治療費142万2160円が本件事故による原告の損害であることは当事者間に争いがない。
イ C病院における治療費9835円及びDクリニックにおける治療費5万8750円について判断する。
 前記認定のとおり,原告の症状は,平成17年12月30日には症状固定になっていると認められ,かつ,その旨の後遺障害診断もされている。
 C病院及びDクリニックにおける通院治療は,症状固定後にされた通院治療であり,その必要性も認められない。したがって,これらの治療費は本件事故との因果関係が認められない。
 したがって,治療費分の損害は142万216 0円である。

(2)通院交通費 8万2470円
 通院交通費8万2470円が本件事故による原告の損害であることは当事著聞に争いがない。

(3)休業損害 3万8074円
証拠(甲29,乙2)及び弁論の全趣旨によれば,本件事故による傷害のため,原告は合計10.5 日勤務先(A株式会社)を休んだが,そのうち10日は特別休暇(疾病休暇)扱いであり,有給休暇を取得したのは0.5日だけであること,本給の減給はなく,付加給の減給が10.5日分で2万7537円あったこと(したがって,特別休暇による付加給の減給分は2万6226円と認めるのが相当である。),本件事故の直前3か月の原告の給与が合計213万2730円であることが認められる。

 以上の事実によれば,本件事故による原告の休業損害は,213万2730円÷90日×0.5日=1万1848円に特別休暇取得による付加給の減給分である2万6226円を加えた3万8074円であると認められる(年次有給休暇の場合,それを取得してしまうと,それを別の機会に取得する利益が失われるが,特別休暇は,本件事故による傷害のために与えられた特別の有給休暇であると認められるから,そのような利益の喪失はないというべきである。しかし,特別休暇の取得により支払われるのは本給のみであると認められるから,付加給の減給分のうち,特別休暇取得に関するものは,本件事故による休業損害であると認めるのが相当である。)。

(4)後遺障害逸失利益 1471万4363円
 甲第65号証によれば,原告の平成16年(原告は57〜58歳)の給与所得は814万0563円であったことが認められる。
 しかし,証拠(甲36,64〜68,原告本人)によれば,原告の勤務先であるA株式会社(以下「A社」という。)における給与・賞与の年額は,平成15年が766万8000円(甲64),平成16年が814万0563円(甲65),平成17年が836万7117円(甲36)であったこと,同社の定年は65歳であるが,原告は,平成17年12月31日付け(原告は昭和21年8月5日生まれであるから 当時,69歳と5月弱である。)で同社を自主退職したこと,その後1年間は就職せず,平成19年にB株式会社(以下「B社」という。)に委託営業職で就職し,同社からの営業報酬が平成19年が409万3334円であったこと(甲66),平成20年4月1日にはC株式会社(以下「C社」という。)に移って同社からB社に派遣されて同様の仕事をし,平成2 0年はB社からのセールス報酬が266万0733円,C社からの給料・賞与が274万9014円であり,合計で同年の年収が540万9747円であったこと(甲67,68),平成21年6月30日にS社を退職したが,同年の同社からの給料・賞与が242万6984円であったこと(甲6 8)が認められる。

 原告は,後遺障害逸失利益の基礎年収を平成16年の年収額である814万0663円として逸失利益を算定している。しかし,前記認定のとおり,原告は,症状固定時期とほぼ同時期である平成17年12月31日にA社を自主退職し、自ら、その基礎年収を得られる条件を手放しているのであるから,当然に,これを基礎年収にすることはできない。

 他方,被告は,原告が自主退職をしていることを理由に,基礎年収を賃金センサスの男性労働者の平均賃金である555万4600円を基礎年収にするべきである旨主張する。しかし,原告は,前記認定のとおりの後遺障害をかかえながら再就職し,前記のとおり,平成20年には540万9747円の年収を得ているのであるから,本件事故がなければ,もっと多くの収入を得られた蓋然性があったというべきである。

 そうすると,後遺障害等級10級に相当する後遺障害をかかえ,労働能力喪失率27%の状態で540万9 74 7円の年収を得ていることから,本件事故がなければ,自主退職した後の再就職においても,540万974 7円÷(100%−27%)=741万0612円の年収を得られたものと認め,基礎年収を741万0612円とするのが相当であると認める。

 前記認定のとおり原告の本件事故による後遺障害は併合で10級であると認められるから 労働能力喪失率は27%とするのが相当である。症状固定時である平成17年12月30日において原告は59歳であるから,就労可能年数は平均余命の半分の11年(ライプニッツ係数は8.3064)と認めるのが相当である。ただし,症状固定後,自主退職し,1年間は就労していないところ,自主退職の前後において,労働能力の一部喪失はありながらも就労自体は可能な状態であったのであり,自主退職をせざるを得ない事情や,1年間不就労であらねばならない事情までは認められないから,この1年間は原告の自主的な判断による不就労であるというべきである。したがって,最初の1年間については後遺障害による逸失利益は認められず,1年後(ライプニッツ係数は0.9524)から11年後までの10年間についてのみ逸失利益を認めるべきである。

 以上によれば,原告の後遺障害による逸失利益は,741万0612円×27%×(8.3064−0.9524)=1471万363円と認めるのが相当である。

(5)傷害慰謝料 155万円
 前記認定のとおり,原告は本件事故により受傷し,その治療のため,本件事故時である平成16年6月30日から症状固定時である平成17年12月30日まで約18か月の間に150日の通院をしているところ,平成16年6月30日から同年末までの約6か月は通院が月に14日以上で合計150日と頻繁であるが,平成17年は,毎月2日から7日,1年間で合計53日と頻度が小さくなる。本件事故による原告の受傷の部位及び程度やこのような通院の状況からすれば,傷害慰謝料は155万円を認めるのが相当である。

(6)後遺障害慰謝料 550万円
 後遺障害等級は10級なので,後遺障害慰謝料は550万円が相当である。

(7)以上の(1)ないし(6)の合計は2330万7067円である。

(8)既払い額が225万4630円であることは当事者間に争いがないところ,これを(7)の合計額から控除すると,残額は2105万2437円である。

(9)上記(8)の額や本件訴訟の経緯等からすれば,弁護士費用分の損害としては140万円を認めるのが相当である。

(10)(8)と(9)の合計である2245万2437円が被告らの賠償すべき損害額残額(元金)である。

(11)なお,被告らは,原告には,頚椎椎間板ヘルニア,前方すべり症等の既往症があったとし,素因減額がされるべきである旨主張する。しかし,これらの症状は,経年性のものであり,特段の素因というほどのものであるとは認められないから,素因減額するのは相当ではない。

3 以上によれば,原告の請求は,被告らに対し,各自2245万2437円及びこれに対する本件事故の日である平成16年6月30日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求める限度では理由があるからこれを認容することとし,その余の請求は理由がないからこれを棄却することとし,主文のとおり判決する。

名古屋地方裁判所民事第3部
裁判官 寺西和史