○被告を自動車保険料率算定会(現
損害保険料率算出機構)として金100万円の支払を求めた珍しい訴えがあります。残念ながら訴えは棄却されていますが、趣旨は後遺障害を認定する自動車保険料率算定会がいい加減な認定で誤って後遺障害を6級と認定され,異議の申立をした結果、5級に繰り上げになったことについて、当初のいい加減な6級の認定により、苦しめられたことについての慰謝料を支払えというものです。
その主張は以下の通りです。
(誤った認定)のため原告は、興亜火災との間で、第1事故につき症状固定、後遺障害等級第6級との前提による示談を強いられるとともに、第1、第2両事故による後遺障害につき改めて等級認定を受けるに当たって困難を極め、多大の精神的苦痛を蒙った。
2 また、被告の担当者は、第1事故につき後遺障害等級第6級との認定をした理由を原告が問い合わせたのに対し、第2事故の発生を知らなかったと発言するなど、いい加減な態度で回答したことにより、原告に精神的苦痛を与えた。
○この裁判は、平成11年7月12日の福岡地裁判決(交民32巻4号1100頁)ですが、結論は請求棄却ですが、自賠責保険実務についての説明が参考になります。
争点は、6級の後遺障害認定に過失があったかどうかですが、原告は
第1事故による後遺障害の認定に当たり、第1診断書の記載において第1事故後遺障害の症状固定日が第2事故の発生日とされているという不自然さに疑問を差し挟み、症状を主治医に照会するなどして、その時点における事前認定を時期尚早として見送るか、あるいは第2事故をも考慮に入れた後遺障害等級の認定に努めるべきであったのにこれを怠った過失により、安易に第2事故日が第1事故後遺障害の症状固定日であると即断し、後遺障害等級併合第六級との誤った事前認定を行った。
と主張しました。
○これに対し被告自算会は、
1 被告は、損害保険料率算出団体に関する法律により設立された法人であり、保険会社からの委託を受けて、後遺障害等級の事前認定を行っているが、かかる認定は、多数の交通事故事案を処理するため、任意保険会社が収集、提出した文書に基づいて行い、特に問題がない限り被告が直接事案の調査を行ったり、任意保険会社に追加資料の提出を求めたりすることはない。
2 第一診断書によれば、原告が平成七年八月二六日に第二事故に遭ったことは明らかであったが、同診断書における主治医の意見に基づけば、同日、症状が固定されていても奇異ではない状況であった。したがって、被告が第一事故につき後遺障害等級第六級と認定したことに何ら過失はない。
答弁しました。
○これに対し判決は
被告が業務として行ういわゆる事前認定とは、交通事故における自賠責保険金及び任意保険金の請求、支払事務を簡素化するためのいわゆる保険金一括払制度を円滑に運用するために、保険会社が後遺障害等級認定等、自賠責保険の取扱いについて事前に確認を取る必要がある場合に、被告が保険会社からの依頼を受けて右認定等を行う制度である。被告は事前認定に当たり、原則として保険会社から提出された資料の範囲で、保険会社から事前認定を依頼された事項についてのみ判断を行うが、右資料では判断が困難な場合等には、保険会社に資料の追加提出を求めることもある。また、被告は、交通事故の当事者と保険会社との間における示談交渉について、監督、勧告あるいは助言をする立場にはない。
被告による第一事故に関する右事前認定は、その時点において任意保険会社から提出された資料を前提として、被告の業務の範囲において適切に行われたものというべきであって、更に被告が右事前認定を行うに際し、原告の主治医に追加資料の提出を求めたり、症状を照会したりするなどの措置をとることにより、右事前認定を改め、又は見合わせるべきであったことを認めるに足りる証拠はない。したがって、被告による右事前認定に過失があるとは認められない。
として慰謝料請求を棄却しました。
○この判決でのポイントは、自動車保険料率算定会(現
損害保険料率算出機構)は、支払事務を簡素化するためのいわゆる保険金一括払制度を円滑に運用するため、
原則任意保険会社から提出された資料のみを前提にその範囲内で、保険会社から事前認定を依頼された事項についてのみ判断を行うと言うことです。自賠責認定を金科玉条として、絶対のものと主張する保険会社に対し、
その認定に公平性の制度的担保はないと大いに反論として使えます。