本文へスキップ

小松亀一法律事務所は、「交通事故」問題に熱心に取り組む法律事務所です。

休業損害逸失利益

神経症状後遺障害14級と12級の違い−胸のすく判例

「神経症状後遺障害14級と12級の違い−疑問」で「(自賠責保険実務では)器質的損傷がなく、他覚的所見もないとどんなに痛みやしびれ等の厳しい神経症状が長く続いても、良くて14級止まりで,殆どが非該当とされ、まして12級に認定されることはあり得ません。」、そして「裁判実務もこの後遺障害認定は、基本的に『構造上の異常原因説』に立って」いますと説明しました。

○しかし裁判例の中には、各種検査結果では異常がなく、他覚所見が認められなくても、現実に症状が存在している以上「頑固な神経症状」を残しているとして12級を認める、胸のすくような判決もあります。
平成11年5月26日神戸地方裁判所判決(交民集32巻3号813頁)で、判決要旨は以下の通りです。
@頸椎捻挫等を受傷する被害者が、自算会では14級認定を受け、異議申立を行なうも却下された事案で、右却下は客観的な検査結果がないと言うに過ぎず、現実に症状が存在していることが認められることから、12級12号が(「局部に頑固な神経症状を残すもの」)が相当とされた。
A事故で残業が出来なくなった残業喪失分を症状固定まで休業損害と認めた。
B会社で運転業務に従事する43歳男子が頸椎捻挫等の傷害を負い公傷扱いとして事故後も減収が生じていない事案で、以後5年間程度14%の減収があるものとホフマン係数により逸失利益を認めた。


以下、争点に対する判断全文を掲載します。

第三 争点に対する判断
一 争点1(原告の負傷と症状固定時期、後遺障害の程度)について
1 証拠(略)によると、事故状況は次のとおりと認められる。
 本件事故は時速20`b程度で走行している渋滞中の高速道路での計8台の玉突き衝突事故であった。初めに被告車が原告車の後を走っていた普通乗用車(中村元運転)に追突し、同車が原告車に追突した。原告車は前車の軽四輪車(西方末雄運転)に追突して、同車を左に撥ね飛ばした。ついで原告車は被告車に再度追突され、前々車である保冷車(野中新二運転)に追突して、その下にもぐり込んだ。原告は中村車に追突されたとき膝を打撲し、後部座席の同乗者を振り返ったとき再追突を受けて、頭部をドア間の柱部分に衝突した。

2 証拠(略)によると、原告の症状、治療経過は、次のとおりと認められる。
 原告は事故翌日の平成6年11月12日から同月18日まで佐野伊川谷病院に通院した。頸部痛、右側頭部痛を訴え、頸部カラー固定し、左膝打撲の手当てを受けた。頸部痛が強くなり、入院を希望したが満床のため入院できず、勤務先の同僚の紹介で11月18日から譜久山病院に入院した。頸部の後屈時の痛みが強かった。症状は専ら頸部痛のみであって、外出もしていたし、12月30日から1月3日までは外泊した。12月初めに頸部の牽引療法を行ったが気分が悪くなるため3日で中止された。1月17日の大震災のあと病院の設備が損傷したことや、震災被害者の収容のために、歩ける患者は帰宅するよう求められて、1月19日に退院した。

 退院後、ほぼ毎日、同病院に通院した。主として温熱療法と牽引療法を受け、消炎、鎮痛剤の投与を受けていた。同年3月からは勤務先に出勤していた。このころから新しく左手痺れを覚えた。平成7年6月6日から神戸労災病院に通院した。主たる訴えは、頸部から左上肢にかけての痛み、しびれであった。このとき頸髄震盪との傷病名が加えられた。同病院でも、温熱療法、ブロック注射、理学療法(理学療法士によるマッサージ等)、作業療法の治療を続けた。かなりの改善効果があり、翌平成8年8月30日に、症状固定との診断に至った。この間、平成8年2月ころから、長く椅子に座っていられない、あるいは首を長い時間支えられない、といった訴えをするようになった。

 症状固定後も、原告は月に1回程度労災病院に通院して、リハビリや温熱療法を受け、投薬を受け、首筋や首の周囲、上腕の痛むところに塗り薬を塗っている。

3 たしかに、原告の頸部可動域制限等について、これを裏付ける客観的所見は少ない。労災病院の初診時において、スパーリングテスト、アドソンテスト、イートンテスト等の結果はすべて正常とされているし、左肩部の運動制限や左上肢痛を裏付ける客観的な異常所見はない。原告が訴える左上肢痛について、労災病院の整形外科の山崎医師は、平成8年10月に同病院神経内科の診察を受けさせたが、左上肢が右に比して少し萎縮しているが、使わないためであって異常はない、とされてもいる。

4 しかし、原告の痛みの訴えは、前記の各病院の記録を見ても、概ね一定しており、単にその強弱が窺えるに過ぎない。被告の指摘する譜久山病院における原告評「神経質」との表現は、その他の記載内容から見て看護婦の観察ではなく原告の自己評価であろうし、このことから原告の訴える症状に疑問があるとできるものではない。労災病院で「自律神経失調症」の疾病名が付けられてはいるが、その病名自体、原告が実際以上に過敏に反応する性癖を現わすものではない。
 自動車保険料率算定会の事前認定により、14級10号と認定され、異議申立も却下されたとはいえ、その根拠はおそらく客観的な検査結果がない、というに過ぎない。

 結局、原告の訴える症状が客観的な裏付けを欠くものであるとしても、現実に症状は存在しているものと認められるし、それが、本件事故により発生したことも否定できないから、相当因果関係があるものというべく、その症状から見て、後遺障害の程度は、自動車損害賠償保障法別表12級2号にいう「局部に頑固な神経症状を残すもの」に該当するものというのが相当である。