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小松亀一法律事務所は、「交通事故」問題に熱心に取り組む法律事務所です。

人身傷害補償担保特約

人身傷害補償保険と外来の事故2

○「人身傷害補償保険と外来の事故1」を続けます。
平成18年2月23日松山地裁判決は、身体疾患等の内部的原因を除外するための要件である「外来性」とは、事故原因が被保険者の身体の外部作用にあることをいい、これについては保険金請求者が主張立証すべきであるとした上で、事故態様などの諸事情を勘案すると、本件事故は、運転者の既往症である労作性狭心症による意識障害の影響下で発生した疑いが強く、運転者の死亡が「外来の事故」によるものとは認定できないとして、請求を棄却し第2審も同様でした。

○ところが最高裁は、「外来の事故」について、
@その文言上、被保険者の身体の外部からの事故を言うと解され、被保険者の疾病によって生じた運行事故も該当する
A人身傷害保険特約には、傷害保険普通保険約款には存在する疾病免責条項を置いておらず、運行事故が被保険者の過失によって生じた場合も、その過失が故意に準ずる重大な過失でない限り保険金が支払われることからすれば、運行車の事故が被保険者の疾病によって生じた場合であっても保険金を支払うものとしていると解される
Bよって保険請求者は運行事故と被保険者がその身体に被った傷害とに因果関係があることを主張立証すれば足りる
として、本件事故については
Aが、自動車運転中自動車ごとため池に転落して溺死したものであるから、仮にAがため池に転落した原因が疾病により適切な運転操作ができなくなったためであるとしても、保険会社は保険金支払義務を負う
として、原判決を破棄して、支払われるべき保険金額等について審理を尽くさせるため原審に差し戻しました。

○この事故は狭心症の持病持ちのAさんが、運転中狭心症発作を起こして、適切な運転が出来なくなり、ハンドル操作を誤り自動車ごとため池に転落した可能性が極めて強いものですが、仮にそうであっても人身傷害補償保険は出さなければならないと言うものです。

○この最高裁判決によれば、このAさんの例で、保険会社が人身傷害補償保険金支払を免れるには、Aさんの傷害の原因が外来事故でないこと、即ち持病の狭心症発作で生じたことを主張立証しなければならず、具体的には狭心症の発作により自動車の中で死んでしまったことを主張立証しなければなりません。この点は解剖結果によって立証可能と思われますが、本件では溺死ですから、水を飲むまでは生きていたことになり、保険会社の主張は不可能と思われます。