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小松亀一法律事務所は、「交通事故」問題に熱心に取り組む法律事務所です。

過失相殺・損益相殺・消滅時効

身分・生活上一体でない被害者側過失例2

「身分・生活上一体でない被害者側過失例1」の話を続けます。
平成20年7月4日最高裁判例(判例時報2018号16頁)は「被害者本人と身分上、生活関係上、一体をなすと見られるような関係にある者」でない場合にも被害者側の過失として考慮すべきとした事案をもう少し詳しく説明します。

 AとBは中学時代の先輩後輩の関係で、友人約20名と自動二輪車3台、乗用車数台で暴走行為を繰り返しAとBは自動二輪車に二人乗りして交代で運転していた。
 C警察官はこれらの暴走行為を取り締まるためパトカーを運転しA・Bらの自動二輪車を追跡したがいったん見失い、その後A・Bらの自動二輪車が国道上を走行してきたので、これを停止させるためパトカーをその進路を完全にふさいだ状態で停車させた。
 付近の道路は暗く,パトカーは前照灯と尾灯はつけるも、赤色警光灯はつけず,サイレンも鳴らしていなかったためその時自動二輪車を運転していたAは、付近の駐車場に駐車していた別のパトカーに気を取られて本件パトカーに気付くのが遅れてこれに衝突して同乗していたBが死亡した。


○ABは他の友人ら合計約20名で3台のバイクと数台の乗用車で暴走行為を繰り返していたもので、しかも本件事故時はAの運転でしたがその前はBも交代で運転していました。ABらの行為は道交法68条共同危険行為で2年以下の懲役又は50万円以下の罰金に処せられる犯罪行為でした。

○確かにパトカーが暗い道路で赤色警光灯はつけずサイレンも鳴らさず道路を防ぐ形で停車させたことに過失があり、この点の過失を2割と認定されることはやむを得ないと思われます。しかし運転者Aの過失6割、Bの過失2割と認定され、Bがパトカー運行供用者D県に対し、Aの過失と合わせて8割もの賠償請求が出来るとするのは釈然としないところがあります。

○この点最高裁は、
以上のような本件運転行為に至る経過や本件運転行為の態様からすれば,本件運転行為は,BとAが共同して行っていた暴走行為から独立したAの単独行為とみることはできず,上記共同暴走行為の一環を成すものというべきである。
 したがって,上告人との関係で民法722条2項の過失相殺をするに当たっては,公平の見地に照らし,本件運転行為におけるAの過失もBの過失として考慮することができると解すべきである。

としてD県側の主張を取り入れ、D県敗訴部分を破棄し、原審に差し戻しました。

○A・B間に経済的一体性がなく、被害者本人と身分上、生活関係上、一体をなすと見られるような関係ではないので、これまでの考えではBは被害者側に該当しませんが、Aの運転行為はそれまでのBと交代で運転してきた共同暴走行為の一環であり、Bの損害についての過失相殺を考慮する場合B自身が損害発生に寄与したことは間違いなく、「公平の見地に照らし,本件運転行為におけるAの過失もBの過失として考慮する」ことは妥当な判断と思われます。