高校生暴走自転車衝突事故被害−両親の責任1
○Aさんが高校2年生Bさん(17歳)の暴走自転車に衝突されて損害を被りました。Aさんは、重傷を負い後遺障害が残り、裁判基準で1500万円もの損害を被った場合、どのようにしてその損害回復を実現するか検討します。民法の関連条文は以下の3条です。
第709条(不法行為による損害賠償)
故意又は過失によって他人の権利又は法律上保護される利益を侵害した者は、これによって生じた損害を賠償する責任を負う。
第712条(責任能力)
未成年者は、他人に損害を加えた場合において、自己の行為の責任を弁識するに足りる知能を備えていなかったときは、その行為について賠償の責任を負わない。
第714条(責任無能力者の監督義務者等の責任)
前2条の規定により責任無能力者がその責任を負わない場合において、その責任無能力者を監督する法定の義務を負う者は、その責任無能力者が第三者に加えた損害を賠償する責任を負う。ただし、監督義務者がその義務を怠らなかったとき、又はその義務を怠らなくても損害が生ずべきであったときは、この限りでない。
○Bさんは17歳ともなれば712条の責任能力はあるとされますので、Aさんは上記709条でBさんに対し1500万円の損害賠償請求が出来ますのでBさんに訴えを出して1500万円の支払を命じる判決を取ることは可能です。しかし判決を取ってもBさんは17歳の高校生では収入もなく判決を実現することは当面不可能です。
○ではBさんの監督義務者である両親C・Dさんに請求できるかというと、Bさんは高校生で通常責任能力が認められますので、責任無能力を前提とする714条の監督義務者責任を追及することは原則として出来ないとされていたこともありました。しかし子に責任能力がある場合でも、最高裁昭和49年3月22日判決で(民集28巻2号347頁、判例タイムズ308号194頁)が15歳の少年の殺人について両親の監督義務違反と損害との相当因果関係を認め、責任能力ある子の監督義務者による監督義務懈怠が不法行為となり得ることが確立しています。
○この親の責任について17歳の少年が普通乗用自動車を無免許で運転中に起した事故につき、その実父に監督義務を怠つた過失があるとされた事例(浦和地裁平成元年3月29日判決、判タ715号203頁 )、18歳の子が起こした交通事故について実父に監督義務の懈怠がないとされた事例(判タ718号156頁)等多数の判例がありますが、17歳の子の自転車事故についての親の監督責任が問題になった事例は現時点では私の利用する判例データベースでは見つけることが出来ません。
○Bさんが度々自転車暴走事故を起こしているのにこれを放置していたとの事情があれば監督責任が認められる場合もあり得ると思いますが、実務ではその辺の事情を調査するのは困難と思われます。この問題について学説・判例の調査を続けたいと思っております。