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小松亀一法律事務所は、「交通事故」問題に熱心に取り組む法律事務所です。

人身傷害補償担保特約

人身傷害補償担保特約で請求できる保険金額4

○人傷保険会社が人傷保険金を被害者に支払った場合、加害者に対して代位取得できる範囲の問題について、
支払金額全額を代位できるとする絶対説
支払金額の内加害者の過失割合に対応する金額を代位できるとする比例配分説
被害者の過失割合に対応する損害額を上回った部分のみ代位取得できるとする訴訟基準差額説
があると説明しました。

○「Aさん(60歳)が自己の過失割合8割の交通事故で死亡し、その損害額が
訴訟基準積算額で5000万円のところ過失相殺適用でその2割相当額1000万円
自賠責基準積算額3000万円のところ過失相殺適用でその7割相当額の2100万円
人傷基準積算額で3500万円
となり、人傷保険金3500万円が、Aさんの相続人に支払われた場合、人傷保険会社が代位取得する金額は、
絶対説では、3500万円全額が代位取得できそうですが、過失相殺適用後の加害者の損害賠償義務は1000万円しなかなく、絶対説においても代位取得するのは1000万円のみで、
比例配分説では、人傷保険金3500万円の内加害者の過失割合2割相当部分で700万円のみ代位取得し
訴訟基準差額説では、人傷保険金3500万円被害者の過失割合8割に対応する4000万円を超えていないので代位取得する部分はない
となります。

○これが実務で問題になるのは、Aさんが先ず保険会社から人傷基準積算額3500万円全額受領し、その後、加害者または自賠責保険会社に訴訟基準積算額5000万円との差額1500万円を支払請求をすると、加害者側は,Aさんは、過失相殺を適用した適正損害額以上の金額を既に人傷保険金として受領済みであり、人傷保険会社がAさんの損害賠償請求権を代位取得して、Aさんの損害賠償請求権は喪失していると主張するものです。

○この問題について東京地裁平成19年2月22日判決では、被害者(被保険者)が人身傷害補償保険契約(自動車保険)に基づく保険金の支払を受けた後に加害者に対する損害賠償請求訴訟を提起し被害者にも過失があるものとされたときに、同訴訟において認定された被害者の損害額(※訴訟基準総損害額)のうち同人の過失割合に対応した額と人身傷害補償保険から支払われた額を対比してみて、後者が前者を上回るときにはじめて、保険会社はその上回る額についてのみ、被害者の加害者に対する損害賠償請求権を保険代位により取得できるとされ、本件については、人身傷害補償保険金として支払われた額が訴訟により認定された損害額のうちの被害者(被保険者)の過失に相当する額を下回るので、人身傷害補償保険金を支払った保険会社が代位取得すべきものはないとして、訴訟基準差額説を取ることを明言しました(判タ1232号128頁、自動車保険ジャーナル1685号17頁)。

○東京高裁平成20年3月15日判決(判時2004号143頁)も、人身傷害補償保険金は被害者の総損害額(※訴訟基準総損害額)の内被害者の過失割合に対応する損害額を上回る限度でのみ代位取得して被害者の損害賠償請求権がその限度で喪失するとして、訴訟基準差額説を採用することを明言し、おそらく今後の判例はこの立場に立つと見て良いでしょう。Aさんの相続人は加害者側に対し1500万円の請求が認められ、自傷保険金3500万円と合わせて訴訟基準積算額5000万円全額回収できることになります。