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小松亀一法律事務所は、「交通事故」問題に熱心に取り組む法律事務所です。

交通事故重要判例

損害賠償請求権消滅時効は症状固定診断時から進行

○Xさんは、平成8年10月14日の交通事故で右膝蓋骨骨折の傷害を負い,平成9年5月22日に症状固定の診断を受け、残存する右膝痛等の痛みについて自賠責保険に後遺障害認定申請をしたところ、同年6月9日に後遺障害非該当と認定されました。

○納得できないXさんは、平成11年7月30日に異議の申立をすると今度は後遺障害等級12級の認定を受けましたが、まだ納得できないAさんは更に異議の申立をしましたが通らず、平成13年5月2日に至り、後遺障害に基づく損害賠償として約2425万円支払を求める訴えを提起したところ、加害者側は症状固定した平成9年5月22日から3年経過した平成12年5月22日に損害賠償請求権は時効消滅したと主張しました。

○これに対し1審判決(和歌山地田辺支判平14.1.29交民37巻6号1531頁)、第2審(大阪高裁判決平14.5.30交民37巻6号1537頁)いずれも,「消滅時効の起算点は,異議申立により後遺障害等級が12級12号に該当すると認定されて以降であるというべきである」として消滅時効起算点はXさんの主張通り認めました。

○第2審(大阪高裁判決平14.5.30交民37巻6号1537頁)は、「本件のような事情の下においては,Xが後遺障害等級表12級12号の認定を受けるまでは,既に後遺障害診断書が作成されていたとしても,実際に後遺障害に基づく損害賠償請求権を行使することが事実上可能な状況の下にその可能な程度にこれを知っていたということはできないものと認めるのが相当である。」と理由付けを加えており誠に持って妥当な判断と思われました。

○ところが、実質保険会社側の上告を受けた最高裁(平成16年12月24日判例タイムズ1174号252頁)は、何と、「交通事故により負傷した者が,後遺障害について症状固定の診断を受け,これに基づき自動車保険料率算定会に対して自動車損害賠償責任保険の後遺障害等級の事前認定を申請したときは,その結果が非該当であり,その後の異議申立てによって等級認定がされたという事情があったとしても,上記後遺障害に基づく損害賠償請求の消滅時効は,遅くとも上記症状固定の診断を受けたときから進行する。」として保険会社側の主張を認めたのです。

○被害者側の立場からは誠に持って納得できない結論です。しかし裁判実務は最高裁判決で動きますので、これをシッカリ自覚して、最初の症状固定診断を受けたら遅くても3年以内には訴え提起すべきです。
以下、シッカリ自覚するため最高裁判決全文を掲載します。

主文
 原判決を破棄する。
 本件を大阪高等裁判所に差し戻す。 

理由
上告代理人芝康司ほかの上告受理申立て理由について
1 原審の確定した事実関係の概要等は,次のとおりである。
(1)被上告人は,平成8年10月14日,上告人の過失によって生じた交通事故により,加療約6か月間を要する右膝蓋骨骨折の傷害を負い,右膝痛等の後遺障害(以下「本件後遺障害」という。)が残ったが,平成9年5月22日に症状固定という診断を受けた。

(2)被上告人は,本件後遺障害につき,上告人が加入していたJA共済を通じ,自動車保険料率算定会(以下「自算会」という。)に対し,自動車損害賠償保障法施行令別表第2(以下「後遺障害等級表」という。)所定の後遺障害等級の事前認定を申請したところ,平成9年6月9日,非該当との認定を受けた。

(3)被上告人は,平成11年7月30日,自算会の上記事前認定について異議の申立てをしたところ,自算会より,後遺障害等級表12級12号の認定を受けた。被上告人は,これに対し更に異議の申立てをしたが,退けられた。

(4)被上告人は,平成13年5月2日,上告人に対し,不法行為に基づく損害賠償として,本件後遺障害に基づく逸失利益,慰謝料等の合計2424万8485円及び遅延損害金の支払を求める本件訴訟を提起した。上告人は,これに対し,損害賠償請求権が民法724条所定の3年の時効により消滅した旨の主張をし,消滅時効を援用した。

2 原審は,本件後遺障害が後遺障害等級表12級12号に相当すると認定した上,次のとおり判断して,上告人の消滅時効の抗弁を排斥し,被上告人の請求を764万0060円及びこれに対する遅延損害金の支払を求める限度で認容すべきものとした。

 被上告人は,後遺障害等級表12級12号の認定を受けるまでは,本件後遺障害に基づく損害賠償請求権を行使することが事実上可能な状況の下にその可能な程度にこれを知っていたということはできないから,被上告人の本件後遺障害に基づく損害賠償請求権の消滅時効の起算点は,上記認定がされた時以降であると解すべきである。

3 しかしながら,原審の上記判断は是認することができない。その理由は,次のとおりである。
(1)民法724条にいう「損害及ヒ加害者ヲ知リタル時」とは,被害者において,加害者に対する賠償請求をすることが事実上可能な状況の下に,それが可能な程度に損害及び加害者を知った時を意味し(最高裁昭和45年(オ)第628号同48年11月16日第二小法廷判決・民集27巻10号1374頁参照),同条にいう被害者が損害を知った時とは,被害者が損害の発生を現実に認識した時をいうと解するのが相当である(最高裁平成8年(オ)第2607号同14年1月29日第三小法廷判決・民集56巻1号218頁参照)。

(2)前記の事実関係によれば,被上告人は,本件後遺障害につき,平成9年5月22日に症状固定という診断を受け,これに基づき後遺障害等級の事前認定を申請したというのであるから,被上告人は,遅くとも上記症状固定の診断を受けた時には,本件後遺障害の存在を現実に認識し,加害者に対する賠償請求をすることが事実上可能な状況の下に,それが可能な程度に損害の発生を知ったものというべきである。自算会による等級認定は,自動車損害賠償責任保険の保険金額を算定することを目的とする損害の査定にすぎず,被害者の加害者に対する損害賠償請求権の行使を何ら制約するものではないから,上記事前認定の結果が非該当であり,その後の異議申立てによって等級認定がされたという事情は,上記の結論を左右するものではない。そうすると,被上告人の本件後遺障害に基づく損害賠償請求権の消滅時効は,遅くとも平成9年5月22日から進行すると解されるから,本件訴訟提起時には,上記損害賠償請求権について3年の消滅時効期間が経過していることが明らかである。

4 以上と異なる原審の判断には,判決に影響を及ぼすことが明らかな法令の違反がある。論旨は理由があり,原判決は破棄を免れない。そして,上告人による消滅時効の援用が権利の濫用に当たるとの再抗弁について更に審理を尽くさせるため,本件を原審に差し戻すこととする。
 よって,裁判官全員一致の意見で,主文のとおり判決する。
 (裁判長裁判官・滝井繁男,裁判官・福田博,裁判官・北川弘治,裁判官・梶谷玄,裁判官・津野修)