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小松亀一法律事務所は、「交通事故」問題に熱心に取り組む法律事務所です。

過失相殺・損益相殺・消滅時効

被害者側の過失−内縁の夫も被害者側

○民法第722条2項は「被害者に過失があったときは、裁判所は、これを考慮して、損害賠償の額を定めることができる。」と規定し、これは過失相殺と呼ばれて損害の公平な分配の観点から認められるもので、交通事故においては、例えば交差点での出会い頭衝突など、どちらかの一方的過失による事故ではなく、双方に過失がある場合、相互の過失割合を巡って激しい争いになることがしばしばあります。

○ここでの被害者とは、被害者本人のみならず、被害者側の過失も含むとされ(最高裁昭和34年11月26日判決判時206号14頁)、その被害者側とは、「被害者本人と身分上、生活関係上、一体をなすと見られるような関係にある者」とされています(最高裁昭和42年6月27日判時490号47頁)。

○具体的事案としてA女が内縁の夫B運転の自動車助手席に同乗していたところ、B運転車両とC運転車両が衝突して、Aが傷害を受け200万円の損害が発生した場合、原則としてAはB及びCに200万円全額の損害賠償請求が出来ます。B・Cの共同不法行為によってAに200万円の損害が生じたと評価されるからです。 

○ところがBとCの過失割合が50%ずつであったとすると、Cが損害200万円全額をAに支払えば、Bに対しBの過失割合50%相当額の100万円をCに支払えと求償請求をすることが出来ます。本来Bが支払うべきBの過失部分50%相当額100万円をCが立替支払した関係になるからです。

○ここでAとBが正式の夫婦であればBが「被害者本人と身分上、生活関係上、一体をなすと見られるような関係にある者」に該当し、CはAからの200万円の請求に対し、Bの過失部分50%相当額金100万円は過失相殺として支払を拒み過失相殺後の100万円の支払で済みます。

○AB夫婦であれば、いわば財布も一体でAがCから200万円取っても、BがCに100万円返還することにより結局100万円しか取れなかったことになるので、当初からAは100万円しか取れないとした方が、公平且つ合理的な結論です。

○ABが正式の夫婦ではなく内縁の夫婦の場合について「一体性」が問題になり、原審では「単にBがAの内縁の夫であることをもって被害者側の過失として過失相殺することは相当ではない」判断されていた事案について最高裁平成19年4月24日(判時1970号54頁)は、「内縁の夫婦は、婚姻の届出はしていないが、男女が相協力して夫婦としての共同生活を営んでいるものであり、身分上、生活上一体を成す関係にある」」として内縁の夫の過失は被害者側の過失として過失相殺の対象になると判示しました。「身分上、生活上の一体性」は婚姻届出の有無よりも実質を見るべきと言うもので妥当な判決と思います。