○「
面会交流条件-面会時間第三者立会い等を一部変更した高裁決定紹介」で紹介した平成29年11月24日東京高裁決定(判時2365号76頁)の第一審平成29年8月4日前橋家庭裁判所審判(判時2365号82頁)全文を紹介します。
○残念ながら別紙面会交流要領が省略されており、平成29年11月24日東京高裁決定での面会交流要領との比較ができません。東京高裁決定での別紙面会交流実施要領は相当詳細に記述されていますが、第一審前橋家裁審判は、「
面会交流の内容については概括的なものにするのが相当」としていますので、もっと大雑把なものだったと思われます。
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主 文
一 相手方は、申立人に対し、別紙面会交流要領《略》記載の内容のとおり、未成年者らと面会交流させなければならない。
二 手続費用は各自の負担とする。
理 由
第一 申立ての趣旨
申立人と未成年者らが面会交流する時期、方法などにつき定めることを求める。
第二 当裁判所の認定した事実
本件記録(調停事件のものを含む。)、当事者間の当庁平成27年(家イ)第135号夫婦関係調整(円満調整)調停申立事件(以下「円満調停事件」という。)記録、平成27年(家イ)第185号夫婦関係調整(離婚)調停申立事件(以下「離婚調停事件」という。)記録及び当事者双方の審間の結果によると、以下の事実が認められる。
一 申立人(昭和51年生)と相手方(昭和56年生)は、平成21年××月××日に婚姻の届出をし、両名の間に長男(平成22年××月××日生)及び二男(平成25年××月××日生)が出生した。
相手方は、平成26年12月10日、未成年者らと共に申立人の肩書住所《略》を出て相手方の肩書住所《略》に転居し、申立人と別居(以下「本件別居」という。)した。
当事者双方は、本件別居前から薬剤師として稼働し、申立人は現在会社を経営している。
二 申立人は、平成27年2月に本件調停と共に円満調停事件を申し立てた。相手方は、同年3月に離婚調停事件を申し立てた。円満調停事件及び離婚調停事件は、いずれも平成28年6月28日に不成立により終了した。同日、本件調停も不成立となり審判移行した。
三 同居中の申立人及び相手方の関係等は、次のとおりである。
(1)申立人及び相手方は、長男が出生した頃から口論することが多くなった。
申立人は、長男が一歳未満だった頃、相手方に対し、自己が出場するマラソン大会に同行するように何回か言い、相手方は、やむなく長男と共に同行したことがあった。
正社員として稼働していた相手方は、二男を妊娠していた当時、申立人から、長男の食事の準備ができないなら実家へ帰れなどと声を荒げて言われたことがあった。
(2)相手方は、長男を出産後、申立人に対し、育休を取得したい旨話したが、申立人から反対されたこともあって、育休を取得しなかった。
相手方は、二男の出産後に、申立人に対し1年間の育休を取得したい旨話したが、反対され、やむなく8か月の育休を取得した。申立人が反対した理由は、育休中は減収となり貯蓄する金額が減ることなどであった。
また、相手方は、上記育休から復帰した平成26年8月9日頃、申立人に対し、二男が急病となった場合の対応や体力的に厳しいことを理由として、2時間勤務時間を短縮して稼働したいこと、あるいはパート勤務にしたいことを述べたが、申立人は、相手方が楽をしたいだけであるなどと言って、これに強く反対した。長男の面前で、双方とも興奮して大声を出して口論し、申立人は、相手方の両腕をつかんで床に押さえつけるなどして、相手方に対し発言を撤回しろと怒鳴ったりした。これを見た長男は泣きながら止めに入ったが、申立人は上記行動を直ちに止めることはしなかった。
(3)相手方が、申立人との同居中、申立人の言動にストレスを感じたが、精神科に通院したことはなかった。
四 本件別居後の申立人と相手方及び未成年者らの関係等は、次のとおりである。
(1)申立人は、平成27年11月、相手方に対し、自己の音声の録音が聞こえる装置の付いたぬいぐるみを子らへのプレゼントとして送付したが、その装置に気付いた相手方は、子らにその録音を聞かせなかった。
(2)本件別居後、申立人と未成年者らとの面会交流は途絶していたところ、本件における調査命令に基づき家庭裁判所調査官(以下「調査官」という。)が平成28年1月7日に当庁児童室において申立人と未成年者らとの30分間の試行的面会交流を実施した状況等の要旨は次のとおりである。
長男は当初からかなり緊張した様子であったが、申立人が入室すると、しばらくしておもちゃを使って一緒に遊び始めた。二男は、申立人におもちゃのことを聞くなど自由に振る舞っていた。長男が発語することはほとんどなかったが、申立人を避ける仕草を見せることはなかった。長男は、児童室からの帰り際に、相手方に対し、申立人の髪の毛が変わったこと、申立人がかっこよかったことを話した。
(3)申立人は、相手方が申立人と未成年者らとが面会交流する予定を反故にしたなどとして、同年の4月から7月までの4回、婚姻費用を送金する際、未成年者らに会わせてほしいこと、未成年者らを傷つけないでほしいことなどを文字化して相手方に伝えた。相手方が上記行動は精神的圧力を掛けるものであると強く抗議したことから、申立人は、上記4回後は同種の行動を止めた。
(4)同年11月23日に前記「D」において、「Z」職員立会いの下で1時間実施された申立人と未成年者らとの面会交流については、未成年者らは申立人と楽しく遊ぶことができた。終了間際に,申立人は、長男に対しずっと会いたかったと言うと、その意味がよく分からなかった長男から、申立人が怒っていると思ったからなどと聞いた。そこで、申立人は、長男に対し、怒っていないことを伝えた。
(5)本件における調査命令に基づき調査官が平成29年3月21日に当庁児童室において申立人と未成年者らとの1時間の試行的面会交流を実施した状況等の要旨は次のとおりである。
未成年者らは、児童室の隣室に相手方がいることを知った上で、入室した申立人に近寄り、あいさつした。未成年者らは、申立人の近くで同人と会話しながら、おもちゃの組み立てなどをした。また、長男は、申立人と互いに体をくすぐる遊びをはじめ、申立人の背中によじ登るなど、自ら申立人と身体的接触をしてはしゃいだ。二男は、1人で遊んでいることもあったが、申立人に対しかまってほしいことを言い、申立人と一緒に遊ぶことを喜んでいた。この間、二男が調査官に相手方のことを聞く場面もあった。申立人が退室する間際に、長男は申立人に抱き付き、長男及び二男とも申立人にハイタッチをした。
五 申立人は、毎週日曜日と第1及び第3の土曜日が休業日である。
申立人は、審問において、相手方が生活全般についてだらしなく、自立心がないこと、自分は金銭管理を含む生活全般についてきちんとしないと気が済まないという面がある旨陳述する。
六 相手方は、現在正社員として勤務しているところ、毎週土曜日、日曜日及び祝日が休業日である。
相手方は、審問において、申立人は、自己中心的で、全て自分の考えが正しく、それに異を唱える者を徹底的に攻撃する人柄である旨陳述する。
七 相手方は、平成27年12月17日付けで恐怖症性不安障害を生じているとの診断を受け、その診断をした同一医師により、平成29年2月27日付けで同一病名の診断を受けている。後者の診断書には、申立人からの面会交流などの要求により、動悸、めまい、過呼吸などの不安発作が誘発され、持病の喘息発作も誘発されているため、申立人が未成年者らと面会交流するのを回避することが望ましいと思われると記載されている。
相手方は、申立人と顔を合わせたり、申立人から面会交流の要求があると、ストレスを感じ、喘息発作、頭痛、不眠等の症状が起こり、平成29年4月以降は毎日上記医師から処方された薬を服用している。もっとも、上記症状があるために、勤務を1回休んだことがあったものの、育児や家事には特段の支障はない。
そして、相手方は、審問において、申立人を未成年者らと面会交流させると、申立人が未成年者らに対し相手方が悪いと吹き込んだりしてコントロールすることから、不安となると述べる。
第三 当裁判所の判断
一 非監護親と子との面会交流を実施することは、一般的には、子の福祉の観点から有用であり、子が精神的な健康を保ち、心理的・社会的な適応をするために重要な意義がある。もっとも、面会交流を実施することがかえって子の福祉を害するといえる特段の事情があるときは、面会交流は禁止・制限されなければならない。
二 上記第二認定の事実関係を基にした判断は、次のとおりである。
(1)本件においては、申立人の未成年者ら自身に対する具体的な問題行動は特に見当たらない。この点、相手方は、長男が相手方に対し、申立人から手を押さえて乗りかかられ怒られ、怖かったと述べたと主張する。しかし、この裏付けはなく、これまで実施された面会交流における長男の申立人への対応等によれば、上記主張を直ちに採用することはできず、長男が申立人を怖がっていると認めることはできない。
上記事情のみによれば、面会交流を実施することが直ちに未成年者らの福祉を害するということはできない。
(2)他方、当事者双方は、同居中から口論することが多く、殊に、相手方の時間短縮やパート勤務を巡っては大声を出したりし、申立人が相手方の両腕をつかむなどの騒ぎとなった。本件別居後も、離婚するか否かで意見対立を生じ、本件別居後1年以上も申立人と未成年者らとの面会交流が途絶していた。また、未成年者らへのプレゼントの件や婚姻費用送金の際の伝言等においても激しい対立を生じている。
このように、当事者は、激しい係争関係にあり、信頼関係は構築されていない。
また、申立人は面会交流等についての自己の方針を強く主張し、それに沿わない相手方を非難する傾向があるところ、申立人のこのような対応について、相手方は、ストレス、不安を強く感じ、頭痛、不眠等の症状が起こっている。現在は、それらの症状があっても育児等に特段の支障は生じていないものの、今後直ちに、第三者機関を利用しないで面会交流を実施すると、場合により育児等に支障が生じる恐れを否定することはできない。他方、相手方にも、申立人の対応に過敏に反応しすぎる面があり、申立人が未成年者らをコントロールする恐れがあるなどと考えているようであるが、現段階でその恐れがあるとまで断定することはできない。
そうすると、第三者機関を使用せず、頻回ないし長時間の面会交流を直ちに実施することは、相手方の心身の安定を害し、その結果、未成年者らの精神的安定も害するなどする恐れがあるということができる。そして、上記諸事情によれば、第三者機関を利用する期間を1年間とするのが相当である。
(3)以上検討したところなどによれば、1年間は、未成年者らの受渡し、面会交流の際の付添い(この必要期間は半年とする。)、日程変更の調整につき全て第三者機関を利用すること、面会交流の時間につき最初は短くして次第に延長すること、「Z」利用に係る費用については、当事者のどちらの帰責事由によって第三者機関を利用することが必要になったのか断定することが困難であることなどを考慮すると、折半とすること、1年経過後は、場所は戸外にし、時間を次第に延長していくのが好ましいが、現段階ではこれらの点につき断定的な判断をしにくいので、面会交流の内容については概括的なものにするのが相当である。
なお、二男がいまだ3歳であることなどを考慮すると、半年間は第三者機関の職員を立ち会わせるのが相当である。また、申立人と未成年者らとの継続的な面会交流の実績がないこと、二男の規則正しい生活リズムを確立する必要があることなどに照らすと、現段階では、宿泊付き面会交流を実施することは相当でない。
そこで、相手方が、申立人に対し実施すべき面会交流の内容は、別紙面会交流要領《略》記載のとおりとする。
三 よって、主文のとおり審判する。
(裁判官 島田尚登)
別紙 面会交流要領《略》