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小松亀一法律事務所は、「男女問題」に熱心に取り組む法律事務所です。

面会交流・監護等

面会交流条件-面会時間第三者立会い等を一部変更した高裁決定紹介

○別居前と同様に親子の交流を継続することは子の健全な成長に資するものとして意義がある反面、別居に至った経緯等から子の福祉に反する場合があることからすると、その実施がかえって子の福祉を害することがないよう、事案における諸般の事情に応じて面会交流を否定したり実施要領の策定に必要な配慮をしたりするのが相当であり、いわゆる原則実施論を論難する抗告人の主張は前記考え方と矛盾するものではないとして、面会時間、第三者立会い等につき、原審判の内容を一部変更した平成29年11月24日東京高裁決定(判時2365号76頁)を紹介します。

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主   文
一 原審判を次のとおり変更する。
「抗告人は、相手方に対し、本決定別紙面会交流実施要領記載のとおり、未成年者らと面会交流をさせなければならない。」
二 手続費用は、第1、2審を通じ、各自の負担とする。

理   由
第一 抗告の趣旨及び理由

 本件抗告の趣旨は、原審判を取消し、相手方と未成年者らとが面会交流をする時期、方法等を適切に定めることを求めるというものであり、抗告の理由は、別紙抗告理由書写し記載のとおりである。

第二 事案の概要
一 本件は、相手方が、別居中の妻である抗告人との間に生まれた長男A(平成22年××月××日生。以下「長男」という。)及びB(平成25年××月××日生。以下「二男」といい、長男と併せて「未成年者ら」という。)と面会交流をする時期、方法等について定めることを求めた事案である。

二 原審が、抗告人に対し、原審判別紙面会交流要領記載のとおり、相手方に未成年者らとの面会交流をさせるよう命ずる原審判をしたところ、抗告人がこれを不服として即時抗告をした。

第三 当裁判所の判断
 当裁判所は、抗告人に対し、本決定別紙面会交流実施要領記載のとおり、相手方に未成年者らとの面会交流をさせるよう命ずるのが相当であると判断する。
 その理由は、以下のとおり原審判を補正するほかは、原審判「理由」欄の第二並びに第三の一及び二に記載のとおりであるから、これを引用する。
一 原審判2頁2行目の「当庁」を「前橋家庭裁判所」に改める。

(中略)

九 同3頁22行目の「本件」を「本件調停」に改め、22行目から23行目にかけてのかっこ書を削る。
10 同4頁7行目の「未成年者らに」から8行目の「伝えた。」までを次のとおり改める。
 「AトBニアワセテ」(同年4月28日)、「ABヲモウキズツケナイデ」(同年5月31日)、「AトBノココロヲミツメテアゲテ」(同年6月30日)及び「AトBハイズレキヅクヨ」(同年7月29日)の各メッセージを付し、これらのメッセージは抗告人の通帳に記帳された。」

11 同4頁11行目の「「Z」」を「面会交流の支援を手掛ける「特定非営利活動法人Z」の」に、13行目の「できた。」を「でき、上記面会交流は円満に終了した。」に、14行目の「その意味が」から15行目から16行目にかけての「そこで、」までを「長男は、相手方が怒っていて未成年者らに会いたくないのだと思っていたという趣旨の応答をした。それに対して、」に、16行目の「怒っていないことを」を「怒っていないと」にそれぞれ改める。

12 同5頁11行目の「相手方は、」の次に「抗告人との別居後、H医院を受診するようになり、同医院のP1医師により、」を加え、12行目の「その診断をした同一医師により、」を「同医師により、」に改める。

13 同5頁末行冒頭から同6頁4行目末尾までを次のとおり改める。
 「一 父母が別居し、一方の親が子を監護するようになった場合においても、子にとっては他方の親(以下「非監護親」という。)も親であることに変わりはなく、別居等に伴う非監護親との離別が否定的な感情体験となることからすると、子が非監護親との交流を継続することは、非監護親からの愛情を感ずる機会となり、精神的な健康を保ち、心理的・社会的な適応の維持・改善を図り、もってその健全な成長に資するものとして意義があるということができる。

 他方、面会交流は、子の福祉の観点から考えられるべきものであり、父母が別居に至った経緯、子と非監護親との関係等の諸般の事情からみて、子と非監護親との面会交流を実施することが子の福祉に反する場合がある。
 そうすると、面会交流を実施することがかえって子の福祉を害することがないよう、事案における諸般の事情に応じて面会交流を否定したり、その実施要領の策定に必要な配慮をしたりするのが相当である。
 抗告人は、いわゆる面会交流原則実施論を論難するが、抗告人の主張の趣旨とするところは、上述した考え方と必ずしも矛盾するものではない。


14 同6頁6行目冒頭から7頁23行目末尾までを次のとおり改める。
 「(1)相手方による未成年者らに対する暴力、虐待等の未成年者らの福祉を害する行為の有無について検討する。

(ア)まず、相手方の未成年者らに対する暴力に関し、抗告人は、相手方は、長男が相手方の言うことを聞かないなどすると、長男を押さえつけ、時には馬乗りになって長時間怒鳴ることがあり、抗告人の制止も聞かなかったと主張する。
 しかしながら、一件記録によれば、相手方が自分の言うことを聞かなかった長男を厳しく叱責し続けたことがあったとは認められるが、相手方がしつけの程度を超えた暴力や虐待を行ったと認めるに足りる資料は見いだせない。

 この点に関し、抗告人は、平成28年11月23日に行われた試行的面会交流の際の相手方の発言を契機に、後日、抗告人が長男に問うたところ、長男自身が「昔、パパがAくんの手を押さえて上に乗っかって怒ったでしょ。あれが恐くて、」と述べているなどと主張するが、前記認定(引用に係る補正後の原審判「理由」欄の第二の四(2)、(4)及び(5))のとおり、試行的面会交流の場面で、長男には相手方を避けたり、怖がったりする態度は見られず、過去に相手方から暴行や虐待を受けた経験があるとは認められないものであったことからも、上記の主張を採用することはできない。

(イ)次に、前記認定(引用に係る補正後の原審判「理由」欄の第二の三(3))のとおり、長男は、平成26年8月9日頃、抗告人の勤務時間の短縮、パートタイム労働への転換等をめぐって抗告人と相手方とが諍いになった際、相手方が抗告人に対して暴力を振るい、怒鳴った状況を目撃し、相手方を制止しようとしたが、相手方が直ちには上記の行動を止めようとはしなかったことがあったものであり、このときの経験が長男に一定の精神的ダメージを与えたことは否定し難い。
 しかし、前記認定に係る未成年者らと相手方との試行的面会交流の状況に照らすと、長男が上記の経験によって根深い精神的ダメージを受け、現在もその状況から回復していないとか、相手方と接触すること自体で長男が再び精神的ダメージを受けるおそれがあるとかいった状態までは認められない。

(ウ)さらに、前記認定(引用に係る補正後の原審判「理由」欄の第二の三(2))のとおり、相手方は、長男が生後一か月に満たない時期に抗告人が反対したのに長男をマラソン大会に連れ出すなどしたが、たしかに、このことは新生児に対する配慮を欠いた行為ではあるものの、それ自体が長男の生命・身体に対する侵襲としての暴力行為に当たるとまでは認められない。

(エ)くわえて、抗告人は、相手方が同居中当事者双方の収入を管理し、未成年者らを含む家族四人の食費として月額3万5000円しか渡さなかったり、未成年者らの教育資金とする目的で蓄えた預金を使い込んだりした点も主張するが、それらによって未成年者らが窮乏したり栄養不足に陥ったりしたとは一件記録によっても認められず、これらの点が遺棄に類する虐待に当たるともいえない。

イ 以上のように、相手方による未成年者らに対する暴力行為、虐待行為等があったとは認められず、他方、前記認定(引用に係る補正後の原審判「理由」欄の第二の四(2)、(4)及び(5))のとおり、長男も、試行的面会交流を重ねるに従い相手方との親和度を増していて、未成年者らは相手方に一定程度の親和性を有していると認められる。未成年者らと相手方との直接的面会交流を禁止すべきとはいえない。

(2)
ア もっとも、相手方が長男が生後1か月に満たない時期に長男をマラソン大会に連れ出すなどしたこと(引用に係る補正後の原審判「理由」欄の第二の三(2))、抗告人が育児のために勤務時間の短縮等を希望したのにこれをはねつけたこと(同三(3))、長男の面前で抗告人に対して暴力を振るったこと(同)、長男をきつく叱責したこと(前記(1)ア(ア))など、相手方には、抗告人及び未成年者らとの同居中から、未成年者ら及び抗告人の心身の状態、立場、心情等に対する理解・配慮を欠く点があったことも認められるところである。

イ また、相手方は、抗告人及び未成年者らとの別居後も、自分の声を録音したぬいぐるみをそうと告げずに未成年者らにプレゼントとして贈ろうとしたり(引用に係る補正後の原審判「理由」欄の第二の四(1))、抗告人への婚姻費用分担金の送金に際し、未成年者らとの面会交流を求めるメッセージや抗告人が未成年者らの心情を理解せず傷つけたり、未成年者らもいずれそれに気付くはずであるといった趣旨のメッセージを直接抗告人本人に送ったり(同(3))したことも、その時点では既に当事者双方に手続代理人が就いて本件調停手続が行われていたことに照らすと、客観的な状況や抗告人の心情を踏まえない独善的な行いであるというべきである。

ウ さらに、相手方は、原審の手続においても激しく抗告人を非難し、当審で提出した答弁書でも、抗告人に対して「排他的な選民思想」、「虚偽を繰り返す人間性」といった人格否定的な言葉を用いて非難し、いたずらに対立を助長しかねない主張をしている。

エ 上記のような相手方の行動・態度は、相手方の自己中心的で他者への配慮に欠けるところがあることを示しているといわざるを得ない。面会交流を円滑かつ継続的に行うには、相手方において、面会交流の要領(ルール)の遵守に加えて、面会時の未成年者らの状況への適切な対応、未成年者ら及び抗告人への心情等の配慮が求められるところ、相手方が自制心を持って、それらを行うことができるかについては懸念がないとはいえず、この点、面会交流の在り方を検討する上で留意すべきものと考える。

(3)進んで、抗告人の現在の心身の状況等についてみるに、前記認定(引用に係る補正後の原審判「理由」欄の第二の3、7)のとおり、抗告人は、相手方との婚姻共同生活において相手方の言動によって精神的負荷を受け、別居後も未成年者らとの面会交流をめぐる相手方との言動から同様に負荷を受け、抗告人には、ストレス、不安を強く感じ、頭痛、不眠等の症状が起こっている。現在は、それらの症状があっても未成年者らの育児・養育及び監護に特段の支障は生じていないものの、場合により育児等に支障が生ずるおそれを否定することはできない。そして、抗告人は、これまでの経緯から、相手方に対して信頼感を持てなくなっていることも認められる。

 そうすると、今後、未成年者らと相手方との面会交流が円滑かつ継続的に実施されるためには、抗告人が安心して未成年者らを面会交流に送り出すことができる環境を整えることも必要と考えられる。

(4)以上の検討結果を総合すると、未成年者らと相手方との直接的面会交流を認めるのが相当であるが、未成年者らは、平成26年12月の相手方との別居後、これまで相手方と3度の試行的面会交流をしたのみであるから、短時間の面会交流から始めて段階的に実施時間を増やすこととし、頻度は1か月に1回とし、実施時間は半年間は1時間、半年後からは2時間とするのが相当である。

 そして、前示のとおり、相手方に自己中心的で他者への配慮に欠けるところがあり、抗告人の相手方に対する信頼が失われていることを踏まえれば、面会交流を円滑かつ継続的に実施していくためには、1年6か月(18回分)の間は、面会交流の支援を手掛ける第三者機関にその支援を依頼し、同機関の職員等が未成年者らと相手方との面会交流に立ち会うこととし、時間をかけて未成年者らと相手方との面会交流の充実を図っていくのが相当である。


(5)以上の諸点に鑑み、また、当事者間の衡平を図る見地から、未成年者らと相手方との面会交流の実施要領は、本決定別紙のとおり定めることとする。」

第四 結論
 よって、原審判を変更することとして、主文のとおり決定する。
(裁判長裁判官 垣内正 裁判官 内堀宏達 廣澤諭)

別紙 面会交流実施要領
一 第三者機関の関与

(1)下記第二項以下による未成年者らと相手方との面会交流(以下「本件面会交流」という。)のうち第一回目から第18回までの分は、「特定非営利活動法人Z」(E市《番地等略》所在。理事長P2。以下「Z」という。)の職員又は同法人の指名する担当者(以下「Z担当者」という。)の立会いその他の支援を得て行う。

(2)当事者双方は、本件面会交流に関し、Z担当者の指示に従う。

(3)Zに支払うべき費用は、当事者双方が折半して負担するものとする。

(4)一方の当事者は、Z以外の第三者機関から本件面会交流の立会いその他の支援を得ることを希望するときは、他方の当事者に対し、第三者機関の変更について協議を申し入れることができる。

二 本件面会交流の実施日、時間等
(1)実施日
 本決定が確定する日の属する月の翌月以降、毎月第1日曜日。

(2)実施時間
ア 第1回目から第6回目まで
 午前10時から午前11時まで(1時間)
イ 第七回目以降
 午前10時から正午まで(2時間)
ウ 第13回目以降についての協議
 第13回目以降については、一方の当事者は、他方の当事者に対し、実施時間の変更についての協議を申し入れることができ、他方の当事者は、これに応じて本件面会交流の実施時間の変更について誠実に協議するものとする。

(3)実施日及び実施時間(開始時刻を含む。以下、本項において同じ。)の変更
ア 未成年者らの病気その他やむを得ない事情により、上記(1)及び(2)の実施日又は実施時間を変更する必要があるときは、当該事情が生じた当事者は、第一回目から第18回目までの本件面会交流については、Zに速やかに連絡し、当事者双方は、Zを介して協議し、代替日又は変更後の実施時間を定めるものとする。
イ 第19回目以降の本件面会交流に関し、上記アの必要があるときは、当該事情が生じた当事者は、他方の当事者に速やかに連絡し、当事者双方は、協議して代替日又は変更後の実施時間を定めるものとする。
ウ 上記ア又はイによる本件面会交流の実施日の変更に係る代替日は、第2日曜日、第3日曜日、第4日曜日、その他の日の順とする。

三 実施方法
(1)第1回目から第12回目まで
ア 場所
 E市《番地等略》所在の「D」内
イ 未成年者らの相手方への引渡方法
(ア)抗告人は、本件面会交流の開始時刻にZ担当者が相手方に未成年者らを引き渡すことができるよう、開始時刻に先んじてZ担当者に未成年者らを引き渡す。
(イ)上記(ア)により未成年者らの引渡しを受けたZ担当者は、本件面会交流の開始時刻に、「D」内の「プレイルーム」入口付近において、相手方に未成年者らを引き渡すものとする。
ウ 交流方法
 未成年者らと相手方とは、「D」内で三名で交流する。Z担当者は、これに立ち会うものとする。
エ 未成年者らの抗告人への引渡し
 相手方は、本件面会交流の終了時刻に、「D」内「プレイルーム」入口付近において、未成年者らをZ担当者に引き渡す。
 未成年者らの引渡しを受けたZ担当者は、速やかに未成年者らを抗告人に引き渡すものとする。

(2)第13回目以降
ア 場所
 実施時間終了時に、下記エの相手方が未成年者らを引き渡すべき場所に確実に戻ることができる範囲内
イ 未成年者らの相手方への引渡方法
(ア)第13回目から第18回目まで
a 抗告人は、本件面会交流の開始時刻にZ担当者が相手方に未成年者らを引き渡すことができるよう、開始時刻に先んじてZ担当者に未成年者らを引き渡す。
b 上記aにより未成年者らの引渡しを受けたZ担当者は、本件面会交流の開始時刻に、E駅(E市《番地等略》所在)北口ロータリー又はその付近において、相手方に対し、未成年者らを引き渡すものとする。
(イ)第19回目以降
 抗告人は、本件面会交流の開始時刻に、E駅北口ロータリー又はその付近において、相手方に対し、未成年者らを引き渡す。
ウ 交流方法
 未成年者らと相手方とは、上記アの場所で三名で交流する。第13回目から第18回目までは、Z担当者は、これに立ち会うものとする。
エ 未成年者らの抗告人への引渡し
(ア)第13回目から第18回目まで
 相手方は,本件面会交流の終了時刻に、開始時刻に未成年者らの引渡しを受けた場所において、未成年者らをZ担当者に引き渡す。
 未成年者らの引渡しを受けたZ担当者は、速やかに未成年者らを抗告人に引き渡すものとする。
(イ)第19回目以降
 相手方は、本件面会交流の終了時刻に、開始時刻に未成年者らの引渡しを受けた場所において、抗告人に対し、未成年者らを引き渡す。
以上