○「
子の福祉に反するとして父と子の面会交流禁止変更高裁決定紹介1」の続きです。
********************************************
(13)原審判21頁21行目末尾を改行した次に、次のとおり付加する。
「(6)本件の原審判後の状況
ア 平成28年9月16日付けでなされた原審判に対し、双方が抗告した。
イ 原審申立人は、これまで未成年者に面会交流を働きかけるだけで心情が不安定となり、発疹が生じるなどの身体症状を呈する経験から、依然として面会交流には消極的であったが、前記のとおり、間接強制の各決定において、原審申立人が未成年者を引渡場所に連れて行ってすらいないことを再三指摘され、現実に面会交流をさせて身体症状が出たら医師を受診させればよいといった示唆もなされていることを踏まえ、代理人とも協議の上、未成年者を全力で説得して同年12月18日の面会交流に臨んだ。
未成年者は、面会交流に向かう途中で、「頭が痛い。気持ち悪い。」と訴え、泣き出したりし、面会交流場所近くの駐車場に到着しても、車から降りようとせず、降りた後にも態度や行動で抵抗したため、決められた時間に約10分遅刻した。原審申立人と同代理人は、原審相手方と未成年者が何とか円滑に会話できるように双方に促すなどしたが、原審相手方は、久々の面会に際しても、未成年者に対し直接声をかけることはなく、話しかけを促した原審申立人代理人に対して反発し、長い間面会交流がなされなかったとの不満をぶつけた。
未成年者は、原審相手方に対し、拒否的な態度を終始貫き、フードコートの席についてアイスクリームを一緒に食べることになっても、原審相手方と口をきこうとせずに席を離れて居なくなり、双方で探し回るところとなった。原審相手方が未成年者を見つけ、元の席に戻るよう声をかけて上腕をつまんだところ、未成年者は泣き出した。
その後、原審相手方と未成年者は、元の席で15分ほど向かい合ったが、未成年者は、アイスを食べ続けるのみで声を発することはなく、原審相手方は、「Aちゃん、お父さんにご挨拶は?」、「できないの?」、「学校で習ってないの?」などと詰問口調で話しかけたので、未成年者は押し黙ったまま泣き、やがて「トイレ」と言って席を離れ、またもや居なくなった。
未成年者は、トイレ内に籠って、面会交流が終わるまでここにいる旨を泣きながら訴えたので、原審申立人は、これ以上の継続は無理だと判断し、原審相手方に対し、面会交流の終了を申し入れ、挨拶をして帰宅した。この日、未成年者と原審相手方が再会してから面会交流を終了するまでの時間は、約1時間強であった。
ウ 未成年者は、同日(平成28年12月18日)の帰宅後、感想を聞いた原審申立人に対し、「前代未聞だ。」、「会ったこともない変な人だ。私の周りにはあんなのはいない。」、「気持悪い。腕をもみもみした。」などと述べた。また、両手足の甲に湿疹ができ、痒みからなかなか寝付かれず、就寝後もうなされ、目が覚めては泣き、翌19日の朝には37・9度の発熱も生じた。食欲もなく、朝食は食べられなかったが、解熱したので登校はしたものの、下校後、のどの痛みを訴え、依然、両手足の甲の痒みからボリボリ掻くので、かかりつけの小児科医を受診し、痰などの薬や湿疹の塗り薬の処方を受けた。
未成年者は、同月19日の後も食欲がなく、就寝中うなされることが続いた。
エ 原審申立人は、平成28年12月24日、かつて乳幼児精神医学を専門とする大学教授として診断書(P2診断書)を作成してもらったことのあるP2医師のいるB病院へ未成年者を連れて行き、P2医師の診察を受けさせた。P2医師は、同月18日の面会交流の状況を聞いた上、1時間ほど未成年者を診察し、診断書(以下「P2診断書二」という。)を作成した。
P2診断書二には、「診断名」として「ストレス反応・退行状態」と記載され、「附記」として「1.拒否する能力は育ってきている。2.しかし、意に反することが行われることで、自律神経を巻き込んだ反応を起こし、身体症状を引き起こしている。3.それに対して、抱っこ要求等退行反応を起こすことで身を守ろうとする反応を起こした状態である。4.自分を守ってもらえない体験を繰り返すことになっていて、この影響がこの後に一番心配される。5.夢では、まだうまくいかない体験にとどめることができているが、それでも悪夢で眠りを中断されている。6.このまま、自分の意思が尊重されない体験を繰り返すことは社会に対する不信感を増大させていくと考えられる。その結果が、身体反応になるのか、情緒的反応になるのかはわからないが、より大きな反応を起こす可能性が大きくて、精神保健的には、明らかに危険な状況である。」と記載されている。
オ 他方、原審相手方は、平成28年12月19日、その前日にもうけられた場における状況は、未成年者を引き渡したとはいえない状態であり、時間が守られない、挨拶や会話がない、未成年者の同席が1~2分しかないなど、面会交流が実現したとはいえない状況であったので、予備日に面会交流をやり直してもらいたい、として、名古屋家庭裁判所一宮支部に履行勧告の申立てを行った。
なお、原審相手方が当審において提出した「上申書七」において、10年にも及び父子関係断絶をさせた末、挨拶させない、会話させない、1~2分しか同席させないといった原審申立人の態度は、面会交流がさも困難であるかの演出であって誠意を欠くものであること、父親と挨拶も会話もしようとしない子の対応は、しつけの問題であり、原審申立人の監護親としての適性を疑うものであること等、縷々原審申立人を非難する内容の記載がなされている。」
三 面会交流実施についての検討
以上の認定事実を基に検討するに、未成年者が当初から原審相手方を頑なに拒否し続けていることは明らかであり、前件審判より以前においては、そのような未成年者の状況や、度重なる試行面会によってもこれが実際上改善されないこと、原審相手方には、面会交流を実施することの困難さや、原審申立人が産前産後の事情に対するわだかまりを超えて面会交流実施のために努力していることに対する理解が不足していることを指摘するなどして、将来における未成年者の成長発達段階に応じた直接的面会交流実施の余地を残しながらも、再三にわたる原審相手方の面会交流申立ては家庭裁判所において認められてこなかったものである。
そして、前件審判においては、片親疎外を作出しているわけでもなく、むしろ具体的に面会交流の方法を提案し、試行面会にも協力してきた原審申立人に対する理解を欠き、同人に対する非難を止めないなどの原審相手方の問題点を指摘しつつも、原審相手方には未成年者の心身を害する対応はなく、未成年者の心理的負担の程度は面会交流を禁止しなければならないほどのものではなく、未成年者の年齢が8歳に達する段階にあって、ストレス耐性能力や環境適応能力により克服可能な状況になってきているとして、直接的な面会交流を認めるに至ったものである。
しかしながら、現実の問題として、従前から通算して10回にわたる試行面会を経ても、未成年者の原審相手方に対する拒否的態度が緩解することはなかったものである上、その後も、未成年者の原審相手方に対する拒否的態度はより一層強固なものとなっており、原審申立人が未成年者に対し、原審相手方との面会交流の話をしたり、これを促したりするだけで、心身の状況に異変を生じてきたことは前記認定のとおりである上、法的に認められている措置であるとはいえ、原審相手方によりなされている間接強制の措置につき、いかに原審申立人がこれを隠しても、学業が顕著に優秀で聡明な未成年者がこれを鋭く察知し、原審相手方が金目当てで面会交流を求めているなどと敵意を抱き、そのような事態に及んでいるのは自分のせいであるとして自らを強く責め、原審相手方を拒否する心情を一層深めるに至っていることが認められる。
しかるに、原審相手方は、上記のとおり、原審申立人の原審相手方に対する過去のわだかまりや、未成年者の頑なな態度にもかかわらず、原審申立人の努力により通算10回にもわたり試行面会が実施されてきていることに対し,何ら感謝の念すら示すことなく、現在に至るまで、原審申立人が父子断絶をもたらした旨非難する偏狭な態度を改めず、前記認定のとおり、原審相手方が1回につき50万円の間接強制金を90万円に増額することを求めたのを却下した間接強制の決定書において、裁判所が原審相手方に対し、監護親である原審申立人との協議と、その理解を得られるような柔軟な対応をするよう勧告したにもかかわらず、これに敢えて抗告し、かかる裁判所の勧告を一顧だにしない態度を示した挙げ句、その抗告も棄却されており、その後、原審申立人が未成年者の心身に異常が生じて未成年者との信頼関係に支障を来す懸念を押してまで、やむにやまれぬ心境で平成28年12月18日の面会交流に臨んだ努力に対しても、何ら感謝の念をも示さないどころか、自らを嫌悪していることが明らかな未成年者に対し挨拶をしないなどと詰問するといった不適切な対応をして、一層未成年者からの顰蹙を買った末、原審申立人が挨拶のしつけもできず、監護親として不適格であるなどと、一方的に非難している。
そして、未成年者は、実際、上記面会交流後、発疹、不眠、食欲不振、発熱等の身体症状を生じて、医師の診察と薬の処方を受けた上、乳幼児精神医学の専門家であるP2医師の直接的な診察により、ストレス反応、退行状態と診断され(P2診断書二)、未成年者にこのまま原審相手方との面会交流を続けさせることは、精神保健的に明らかに危険であるとされており、これら医学的措置や診断を疑うべき事情は存しない。
なお、未成年者と原審相手方との面会交流実施につき、既に平成27年12月の時点で、臨床心理学的立場から子の福祉に反するとしたP1意見書の内容や、乳幼児精神医学の立場からその実施をやめるべきとしたP2診断書の内容は、その後、現に実施したことによる弊害状況によく合致しており、そのような事態を的確に予見したものというべきであって信用性が高いものと認められる。これらを否定するP3意見書は、原審相手方との面談は経ているが、未成年者とは面談しておらず、また、判断の基礎とすべき事実関係に偏りないし誤りがあり、抽象的かつ観念的に面会交流の必要性を言うものにすぎないから、採用し難い。
以上述べたところによれば、遅くとも平成28年12月に一部実施した面会交流において、未成年者と原審相手方との面会交流をこれ以上実施させることの心理学的、医学的弊害が明らかとなったものと認められ、それが子の福祉に反することが明白になったというべきであるから、同月以降の直接的面会交流をさせるべきでないことが明らかとなったものということができる。
他方、原審相手方が父親として未成年者のために手紙や品物を送ることまでを否定する理由はないから、この点については従前の取り扱いを変更する必要がない。
第三 結論
よって、以上と異なる原審判を変更することとし、主文のとおり決定する。(裁判長裁判官 藤山雅行 裁判官 上杉英司 丹下将克)