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養育費・認知

再婚相手と子が養子縁組した場合の養育料免除時期に関する地裁判例紹介

○「離婚後妻が再婚した場合の養育料支払義務」で離婚した前妻が再婚した場合の父の養育料支払義務が原則として免除されることについての一般論を説明し、「離婚後前妻が再婚したにも拘わらず養育料請求してきた場合」で、その養育料支払義務が消滅する時期に関する一般論を説明していました。

○前妻が再婚し、その再婚相手と子が養子縁組をした場合、原則として実父の子に対する養育料支払義務は免除になりますが、その免除される時期について争いになり、「通常は,養育費の変更の始期は調停申立時とするのが適当である」とした平成28年9月9日横浜家裁審判(判タ1446号125頁)全文を紹介します。

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主   文
1 当事者間の横浜地方法務局所属公証人○○○○作成の平成25年×月×日付け平成25年第××号「離婚給付等契約公正証書」第2条及び第3条の平成28年3月分以降の部分を主文第2項のとおり変更する。
2 申立人の相手方に対する未成年者らの養育費の支払義務を免除する。
3 手続費用は各自の負担とする。

理   由
第1 申立ての趣

 申立人が相手方に対して支払う未成年者らの養育費を0円に減額する。

第2 事案の概要
1 前提事実

(1)申立人と相手方とは,婚姻届出をし,同人らの間に,平成21年×月×日,長女として,第1482号事件未成年者C(以下「未成年者長女」という。),平成23年×月×日,二女として,第1483号事件未成年者D(以下「未成年者二女」という。)が生まれたが,未成年者らの親権者を相手方と定めて離婚届出をした。離婚後,相手方が,未成年者らを監護していた。

(2)申立人と相手方とは,離婚に当たり,養育費について合意し,横浜地方法務局所属公証人○○○○作成の平成25年×月×日付け平成25年第××号「離婚給付等契約公正証書」(以下「本件公正証書」という。)第2条及び第3条において,以下のとおり定めた。なお,同公正証書第10条において,申立人と相手方は,同公正証書の金銭債務の履行を怠ったときは,直ちに強制執行に服する旨をそれぞれ陳述している。

「第2条(養育費)
1 甲(本件における申立人。以下同じ。)は、乙(本件における相手方。以下同じ。)に対し,上記各未成年者らの養育費として,平成25年×月から上記各未成年者につき満20歳に達した日の属する月まで,1か月金5万円(合計1か月金10万円)の金銭を,毎月末日限り,乙の指定する次の銀行口座に振り込む方法により支払う。振込手数料は甲の負担とする(後略)。 
2 甲と乙は,一般物価の高騰下落,甲及び乙の収入の著しい変動その他の事情の変更(乙が再婚し,上記未成年者らが養子縁組をしたとき等)があったときは,双方の協議により,前項の養育費額を変更することができるものとする。

第3条(臨時費の負担等)
1 甲は,上記各未成年者らの成長に伴う教育費等の増加及び疾病その他,緊急を要する事由が発生し,前条の養育費額で不足を来たす状況が生じた時は,速やかに乙の請求により養育費額の増額及び臨時出費の負担割合並びにこれらの支払方法について,乙と誠意をもって協議し,定めるものとする。」

(3)相手方は,平成26年5月×日,E(以下「相手方の夫」という。)と婚姻届出をし,相手方の夫は,同日,相手方を代諾者として,未成年者らと養子縁組届出をした。

(4)申立人は,平成28年3月×日,横浜家庭裁判所に養育費調停申立てをしたが(平成28年(家イ)第××号,同第××号),同年×月×日,同調停は不成立となり,審判に移行した。

2 申立ての理由及び相手方の主張
(申立ての理由)

 未成年者らは,相手方の再婚相手と養子縁組をしたので,申立人が相手方に支払う未成年者らの養育費は0円とされるべきである。そして,養育費の変更の始期は未成年者らが養子縁組をした平成26年5月×日とされるべきである。
 養育費の変更の始期を調停申立時とすると,当事者間の公平が著しく害される。すなわち,申立人は,平成27年4月から,養育費の支払を停止したところ,相手方は,申立人が養育費の支払を停止した後も,申立人に対して,一切,養育費の支払を求めてこなかったし,また,相手方は,同年8月×日,相手方代理人を通じて,「互いに養育費も財産分与も支払わないという形で離婚後の紛争を解決したい」旨申立人代理人に申入れをしている。このように相手方は,養子縁組後,申立人に養育費支払義務がないことを認めるような態度をとっており,申立人も,相手方がそのような意思であると理解していた。このような状況であるにもかかわらず,養育費の変更の始期を調停申立時とすると,申立人に多額の未払金が生じ,酷な結果となる。

 加えて,相手方は,申立人に対し,未成年者らの養子縁組の事実を伝えていない。申立人は,戸籍謄本等を取得した際に,偶然その事実を知った。相手方は,養育費の変更事由が存在するのを知りながら申立人に伝えなかったにもかかわらず,申立人が調停申立てをしなければ,養育費の変更がなされないとするのは不公平である。

(相手方の主張)
 本件公正証書第2条第2項は相手方の再婚相手と未成年者らとの養子縁組について,申立人と相手方との協議により養育費額を変更できる事情として定めているに過ぎず,同養子縁組により,協議又は審判を経ずして当然に養育費支払義務に消長を来すものとはされていない。
 そして,未成年者らの養子縁組について,申立人は,平成26年7月に知ったとのことであり,申立人は,それ以降,いつでも養育費(減額)調停申立てをすることができた。
 相手方は,養育費の変更の協議を終えるまでは,養育費額は変更されないものとして生活設計をするのであるから,調停申立前に遡って養育費が消滅する事態は,未成年者ら及び相手方にとって,あまりに酷である。

第3 当裁判所の判断
1 事実の調査によると,以下の事実が認められる。
(1)申立人は,平成26年7月頃,未成年者らの養子縁組について知った。

(2)申立人は,面会交流申立事件(横浜家庭裁判所平成26年(家)第××号,同××号)において提出した平成26年11月×日付け準備書面(2)で「そもそも利害関係人が平成26年5月×日付で未成年者らを養子縁組しており,申立人にはそれ以降は養育費の支払義務がない。申立人としては今後も養育費の支払を続ける用意があるが,平成26年5月×日以降の養育費の支払のことで非難されるいわれはない。」と主張している。

(3)申立人は,平成27年3月まで養育費を支払っていたが,同年4月以降支払をしていない。

(4)申立人は,同代理人を通じて,相手方に対し,「未成年者らは,平成26年5月×日,E氏と養子縁組をし,通知人の養育費支払義務はなくなりました。これにより,通知人と貴女との間では,貴女の財産分与金支払債務のみが残存しておりますが,貴女は,平成26年5月×日以降,財産分与金の支払をしておりません。」との記載のある平成27年7月×日付け通知書を送付した。

(5)本件各審判事件に先立つ各調停事件において,平成28年4月×日,同年6月×日,調停期日が開かれ,同日の調停期日において,申立人が相手方に対して未成年者らの養育費を負担しないことについて,事実上の合意がなされた。
 ただし,養育費の変更の始期について,申立人は,養子縁組日である平成26年5月×日,相手方は,調停申立日である平成28年3月×日をそれぞれ主張して,同各調停は不成立となった。

(6)本件公正証書には以下の定めがある。
「第4条(財産分与-不動産等)
1 甲(本件における申立人。以下同じ。)は,乙(本件における相手方。以下同じ。)に対し,離婚に伴う財産分与として,甲と乙の共有である次の不動産における甲の共有持分を全て譲渡する。ただし,乙は,次項記載の対価を甲に支払うものとする(後略)。
2 乙は,甲から前項の財産分与を受ける対価として,甲に対して金612万円の金銭を支払う。
 乙は,甲に対し,上記対価金612万円を1か月金3万円の支払債務に分割し,平成25年×月から平成42年×月まで(204か月),毎月末日限り,1か月金3万円ずつを,甲の指定する次の銀行口座に振り込む方法により支払う。なお,甲と乙は,甲が前記養育費支払債務(1か月合計金10万円)から乙の前記分割債務(1か月金3万円)の額を差し引いて,養育費残金を乙に支払うことができるものとすることを,予め合意した(後略)。
3 甲は,乙に対し,第1項記載の不動産につき,離婚後,速やかに財産分与を原因とする甲持分全部移転登記手続を行う。なお,登記手続費用等は,甲が負担する。
4 第1項記載の不動産に関する租税公課は,所有権移転登記の完了日をもって区分し,それ以前は甲と乙が折半にて負担するものとし,それ以後は乙が負担するものとする。
5 第1項記載の不動産の購入等に当たり,甲が借入れた住宅ローンの残債務の返済は,前記3の持分全部移転登記がされた後は,乙が完済までその支払を履行するものとする。
6 前記財産分与及び前記対価金の支払,住宅ローン等に関して,想定していない事情の変化等により,想定していない費用等が必要になった場合は,甲乙協議の上,その負担割合を定めるものとする。」

2(1)一般に,離婚時に定められた親権者の親権に服する未成年者が親権者の再婚に伴い,親権者の再婚後の配偶者と養子縁組をした場合,未成年者の扶養義務は第一次的には,親権者及び養親となった親権者の配偶者が負うべきものとされている。
 ところで,親権者と非親権者との間で,養育費が定められた場合,上記の事由その他特段の事情変更の事由が存在していたとしても,そのことが直ちに養育費の支払義務に変更を生じさせるものではなく,その事情変更の事由を考慮して,養育費の支払義務に変更を生じさせ得るものに止まるものというべきである。
 そうすると,通常は,養育費の変更の始期は調停申立時とするのが適当である。


 本件公正証書においても,相手方の再婚後の配偶者と未成年者らとの養子縁組が直ちに養育費の支払義務に変更を生じさせる旨の定めは存在せず,「双方の協議により,前項の養育費額を変更することができる」ことが定められているに過ぎない。

(2)ただし,親権者が未成年者らの養子縁組をあえて秘して養育費の変更の機会を奪ったというような事情が存在する場合には,公平の観点から,調停申立てより前に遡って,養育費の変更の始期を定めるべき場合もあり得ないではない。
 しかし,申立人については,養子縁組がなされた後間もなくの平成26年7月頃には,未成年者らの養子縁組を知ったというのであり,その後の当事者間でのやりとりをみても,上記事情が存在するとは認められない。

(3)なお,申立人は,相手方が,「互いに養育費も財産分与も支払わないという形で離婚後の紛争を解決したい」旨申入れをしており,これが,申立人に養育費支払義務がないことを認めるような態度である旨主張をしているが,そのような申入れがあったとしても,養育費と財産分与の対価金とを合わせた交渉経過における申入れと考えられるのであって,上記をもって,相手方が,申立人の相手方に対する養育費支払義務がないことを認めたと評価することはできない。

(4)したがって,養育費の変更の始期は本件各審判事件に先立つ各調停申立日の属する月である平成28年3月とするのが相当である。

3 よって,主文のとおり審判する。