○「
超高額所得者夫への財産分与請求で妻の寄与割合を5%とした判例紹介」で、「財産分与額は,共有物財産の価格合計約220億円の5%である10億円を相当」としたと説明していました。共有物財産は220億円と認定していますが、「被告(※妻)が原告(※夫)の共有財産の形成や特有財産の維持に寄与した割合は必ずしも高いと言い難い。」として、共有財産清算原則50%を5%に減じています。
○この裁判例は、共有財産の膨大さだけでなく、婚姻前誓約書の効力も問題になりました。結論は、婚姻前に夫婦間で交わされた誓約書が、定められた金員を支払えば、原・被告いずれからも離婚を申し出ることができ、他方、その申し出があれば、当然相手方が協議離婚に応じなければならないという、離婚という身分関係を金員の支払いによって決する内容であることを理由に公序良俗違反で無効とされました。
○その誓約書の内容は以下の通りです。
(3)誓約書の存在
昭和57年12月付で,被告名で作成され,原告及び被告が署名押印した体裁である,次のとおりの記載がされた誓約書(以下「本件誓約書」という。)が存在する(原文縦書,なお,甲は被告,乙は原告を指す。)。
記
・・・
一,離婚に対する財産分与について。
将来甲乙(※甲は被告妻、乙は原告夫)お互いにいずれか一方が自由に申し出ることによって,いつでも離婚することが出来る。
(一)甲(※妻)の申し出によって協議離婚した場合は左記の条件に従い乙(※夫)より財産の分与を受け,それ以外の一切の経済的要求はしない。
(イ)婚姻の日より5年未満の場合 現金にて5000万円
(ロ)右同文 10年未満の場合 現金にて1億円
(ハ)右同文 10年以上の場合 現金にて2億円
(二)尚,乙(※夫)の申し出によって協議離婚した場合は前項,第(一)項の金額の倍額をする
二,遺産相続について。
遺産相続は現金で参億円とする。但し遺言によってこれより増額することは出来る。
従って,民法に定める法定相続分並びに遺留分については,全て放棄する。
右,誓約いたします。
・・・
○この誓約書の効力についても争いになり、夫は有効、妻は無効と主張しました。裁判所の判断は以下の通りでした。
8 争点(1)(本件誓約書の成否及び効力)に対する判断
(1)本件誓約書の成否
前記認定の事実経過からすると,被告の意思に基づいて本件誓約書が成立したことは明らかである。
(2)本件誓約書の効力
ア 本件誓約書においては,本文冒頭である第1項に,「将来」原被告「お互いにいずれか一方が自由に申し出ることによって,いつでも離婚することが出来る。」との文言が記載されているところ,その文言の内容,わざわざ別項を設けていること,申出が原被告のいずれかで財産分与額を異にして規定していることからすると,本件誓約書は,定められた金員を支払えば,原被告のいずれからも離婚を申し出ることができ,他方,その申し出があれば,当然相手方が協議離婚に応じなければならないとする趣旨と解される。
そうだとすると,本件誓約書は,将来,離婚という身分関係を金員の支払によって決するものと解されるから,公序良俗に反し,無効と解すべきである。
イ この点,原告は,予備的に,本件誓約書を,協議離婚,裁判離婚を問わず,最終的に,離婚が定まった場合に,原被告のいずれかが申し出たかによって,将来の財産分与額を定めた婚姻財産契約であるとして,その限度で有効と解すべき旨主張する。
しかし,そのような解釈は,上記の明確な文言に反するものであって,採用することができない。
ウ また,仮に,本件誓約書を離婚が定まった場合の財産分与額を定めたものと解する解釈が可能で,かつ,他の無効事由が認められないとしても,本件誓約書は,文言上,協議離婚しか想定されておらず,また,その草稿を作成したE2も,協議離婚と裁判離婚等のその他の離婚を区別して作成したものであること,米国の婚前契約書のことまで熟知していた原告が日本の裁判離婚と協議離婚の区別がつかなかったとは到底考えがたいことを考慮すると,本件誓約書が,協議離婚の場合しか想定していないことは明らかである。
エ よって,その余の点について判断するまでもなく,本件誓約書は,裁判離婚が問題となっている本件においては,効力はない。