高額所得者という表現で財産分与率2分の1を認めた裁判例紹介
○高額所得者の夫に対する妻の財産分与でも原則2分の1が認められるとの判例を探していますが、高額所得者という表現で財産分与率2分の1と言う裁判例が見つかりました。平成15年3月5日東京地裁判決(LLI/DB 判例秘書登載)です。「原告(※夫)は,年収1100万円の高額所得者」との表現ですが、この程度の年収では、私の想定する高額所得者には該当しません。しかし、「原告が高額所得者であることや原告と被告との収入の差を考慮してもなお5割をもって相当とする。」判示していますので紹介します。
○妻側では、夫は年収1100万円の高額所得者であるのに47歳にもなって数百万円の貯蓄しかなく、かつ、借財も多く借財返済に妻も協力したと言うことで、「原告の借金がなければ,その分預貯金ができていたはずであり,借金分の2分の1相当額(315万円)を夫婦の財産とすべきである。」と心情的には理解出来る主張もしています。しかし、さすがに判決は、借金額まで財産分与対象とは認めませんでした。しかし、「この返済についての被告の貢献度は慰謝料額で考慮する。」としてますので、主張は色々してみる価値はあります。
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(※財産分与についての被告(妻)の主張)
(4)財産分与
ア 被告
(ア)原告の管理する預貯金等(預貯金145万2249円,解約返戻金91万4000円)の2分の1(118万3124円)について,被告は分与を受ける権利がある。また,原告は人事院に入省して24年であり,現在退職したとすれば1145万円1960円の退職金を取得する。退職金は給料の後払いであり,原告は国家公務員として身分を保障され,退職金取得の蓋然性は極めて高く,夫婦の財産として評価されるべきである。被告は原告との婚姻後の14年間について,妻として貢献しており,この間の2分の1(1145万1960円×14/24×1/2=334万円)について分与を受ける権利がある。
(イ)原告の負債状況は以下のとおりである。
平成9年9月 200万円
平成11年3月 280万円
平成11年9月 150万円
合計 630万円
原告は,年収1100万円の高額所得者であるにもかかわらず,47才になる現在でも数百万円の貯蓄しかなく,最近の2年間でも430万円の借財をしている。これは,原告の無駄遣いであることは明らかである。財産分与の対象は,離婚時にある夫婦財産であるが,財産の現象に責任のある当事者が,他方に対して返還すべきとしなければ,あまりにも不公平な結果となる。原告の借金がなければ,その分預貯金ができていたはずであり,借金分の2分の1相当額(315万円)を夫婦の財産とすべきである。
(ウ)原告は,平成12年10月に,毎月10万円の婚姻費用を支払うことを被告に約束したが,わずか2か月しか支払わず,平成13年12月まで3万円しか支払わなかった。よって,被告は,原告に対し,未払の婚費として102万円の請求権を有する。
平成13年1月から12月分
(10万×12)-3万円×6=102万円
(エ)以上によれば,被告は,原告に対し,財産分与として合計869万3124円の請求権を有する。
(中略)
第3 判断
(中略)
4 財産分与
(1)原告の管理にかかる預貯金,生命保険の解約返戻金,また原告の退職金額については前提事実のとおりである。
財形貯蓄については,被告との婚姻前から積み立てているものであるから,被告との婚姻期間中(11年間)の分を換算すると83万3853円となる。また生命保険の解約返戻金について原告は,小遣いの中から支出したものであるから夫婦の共有財産ではないと主張するが,原告の小遣いは保険料を除外した3万円である(乙1)に照らし,前記主張は採用できない。
退職金について,それが賃金の後払いの性格を有することに鑑みれば,原告と被告の夫婦共同生活が維持されていたといえる期間内について,財産分与の対象とされるべきであり,前提事実によればこの間の増加分は440万円である。この点,被告は,別居後の期間をも被告による貢献とするが,前記認定のとおり,原告に別居を強要しており,この時点で原告被告間の夫婦関係は破綻していたといえることを考慮すれば,当該期間を考慮するのは相当ではない。
以上によれば,預貯金等(83万3853円,1万1957円,91万4000円),退職金(440万円)の分与の対象となる額は,合計615万9810円となる。
(2)被告は,原告の負債についても,原告の浪費であるから財産分与の対象とすべきであると主張する。しかし,原告の負債は,当然に被告の負債となるものではなく,また平成9年,平成11年の負債については,Cが返済しており,負債の返済について被告は何らの貢献をしていない。他方,平成11年3月の負債については,給料からの天引きという形で共済組合から返済しており,当時,被告も働き家計に収入を入れており,被告も債務の返済に貢献しているともいえるが,同年の10月には原告と被告は別居に至っていることや,まだ返済が終わっていないこと(原告本人)から,分与の対象となる共有財産とは認められない。この返済についての被告の貢献度は慰謝料額で考慮する。
(3)以上によれば,財産分与の基礎となる財産額は,615万9810円である。なお,マンションについては,ローン残と現在時価がほぼ同額であるので財産分与の対象としない。
原告・被告間の以上の夫婦財産の形成における被告の寄与度については,被告には,パートで月額10万円程度の収入があったこと,被告は,家庭内で家事,育児を負担していたこと,原告の飲酒癖,またそれに起因する遊興費の度重なる借入れ等を考慮すれば,財産形成について被告の寄与は決して少ないものではなく,原告が高額所得者であることや原告と被告との収入の差を考慮してもなお5割をもって相当とする。
以上によれば,被告に分与されるべき額は307万9905円となる。
(4)原告が負担すべき平成13年1月から12月分の未払の婚費は102万円である(弁論の全趣旨)。
以上によれば,被告への分与額は,409万9905円となる。