○「
高額所得者夫への財産分与請求で妻の寄与割合3割とした判例紹介」の続きで、今回は、東京証券取引所第一部上場企業のオーナーで財産分与対象財産が何と220億円もある超高額所得者で著名財界人の夫に対し、妻がその半分の110億円を支払えと請求した事案です。仙台での離婚事案では、この事案の100分の1以下の夫婦共有財産2億円でも相当多い方になり、1億円以上の財産分与請求事案は滅多にありません。流石、東京、経済規模の違いを痛感させられます。
○裁判所は、「
共有財産の原資はほとんどが原告の特有財産であったこと,その運用,管理に携わったのも原告であること,被告が,具体的に,共有財産の取得に寄与したり,A1社の経営に直接的,具体的に寄与し,特有財産の維持に協力した場面を認めるに足りる証拠はないことからすると,被告が原告の共有財産の形成や特有財産の維持に寄与した割合は必ずしも高いと言い難い。」として、「
財産分与額は,共有物財産の価格合計約220億円の5%である10億円を相当」としました。
○平成15年9月26日東京地裁判決ですが、判時・判タ等有名判例集には掲載されていません。長文で、裁判所の財産分与についての判断のみ紹介します。一生に一度で良いですから、こんな超高額事件を扱ってみたいものですが、夢のまた夢です(^^;)。
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第3 当裁判所の判断
(中略)
10 被告の原告の財産形成の寄与の有無,程度
(1)財産分与の対象財産
ア(ア)前記認定の原被告の生活状況からすると,被告の寄与が問題となるのは,原告と被告が,継続的な同居を始めた昭和55年以降と解するのが相当である。
そうすると,取得時期の観点からすると,分与の対象となる共有財産となりうるのは,原則として,その後原告が取得した財産と解すべきであるから,世田谷区O2所在不動産,神奈川県茅ヶ崎市所在不動産,大田区P2所在不動産,A1社株式は特有財産といえ,直接は財産分与の対象とならない。
被告は,A1社株式については,被告がA1社の業績に寄与し,その株価上昇に寄与したものであるから,実質的な婚姻開始時から別居時までの値上がり分を財産分与の対象とすべきであると主張するところ,それが問題となるのは,別居時である平成9年12月1日の価格から昭和55年の価格を控除したものとなるが,甲5の1によると昭和55年2月の1株当たりの単価は1060円であるのに対し,乙21の1によると,別居時である平成9年12月の1株当たりの調整後最終値は850円であるから,別紙特有財産原資明細記載の無担保増資を考慮にいれても,値上がり分は存在しないから,A1社株式を分与の対象とする共有財産と見ることはできない。
(イ)これらの財産のうち,主なものはA1株式であるところ,その平成9年12月1日時点の価格は,43億円を下らない(850円×514万1000)と解される。
イ そこで,直接財産分与の対象となるかが問題となるのは,次の財産のみとなる。
(ア)預金等
原告保有預金等 217億7072円0831円
(イ)不動産
Q2土地及びA1ビル持分
なお,この評価については,確たる証拠はないが,乙98の1ないし3によると,平成9年1月1日時点の,Q2土地の簡易評価が1億0774万4000円であること,前記認定のとおり平成9年度の固定資産税評価額がQ2土地が2401万2300円であって,Q2建物が1億1994万9458円であることも考慮すると,平成9年12月1日のQ2土地建物を合計した評価は約2億円と解するのが相当である。
(ウ)株式
a O1社株 350万株
乙100及び弁論の全趣旨によると,2億6400万5000円であると認められる。
b I1株 10万株
この時価を認定する確実な証拠はない。
(エ)そうすると,これらの総額は222億円を下らない。
ウ イ記載の各財産の具体的な原資を直接認めるに足りる証拠はない。
しかし,他方,前記認定のとおり,平成9年までの原告の収入としては性質上原告の特有財産であるA1社株式の売却益約206億円及びその運用益があり,他方,昭和58年から平成9年までの手取給与所得は約3億円であって,それに昭和55年以降の手取給与所得として昭和58年と同様約1200万円があったとして,合計約3億5000万円の給与所得及びその運用益が想定される。
なお,被告は,原告の給与所得及び雑所得は,原被告の生活において全部費消された旨主張するが,前記のとおり,原被告の生活費の総額を特定して認定するに足りる証拠はなく,平成9年度の支出を検討しても,必ずしも,給与所得ないし雑所得の全額に相当する金員が,原告の特有財産の維持のための固定資産税や別居前後以降の特別な支出を除いた場合,原被告の私的な生活費としてすべて費消されているとまでは言い難いこと,原被告が,株式の売却益及びその運用益と給与所得とその運用益を峻別して管理していたとは認めがたいことからすると,3億5000万円の給与所得及びその運用益も,割合は低いとしても,前記の財産の取得原資の一部となった可能性もある。
したがって,上記財産は,財産分与の対象である共有財産と考えるべきであって,前記のとおりその取得原資のほとんどが,原告の特有財産である点は,被告が取得すべき財産分与を算定する際の事情として考慮すれば足りる。
エ 更に,本件においては,前記のとおり原告は43億円を優に超える巨額の特有財産を有しているが,それについても,被告がその維持に寄与している場合には,財産分与を認めるのが相当である。
(2)そこで,問題は,被告が上記共有財産の形成や上記特有財産の維持に寄与したか,寄与したとして,その程度が問題となる。
ア 前記認定のとおり,被告は,A1社,I1社を初めとする多くの会社の代表者であって,社団法人,財団法人等の多くの理事等を占める,成功した経営者,財界人である原告の,公私に渡る交際を昭和58年頃から平成9年頃までの約15年に亘り妻として支え,また,精神的に原告を支えたことからすると,間接的には,共有財産の形成や特有財産の維持に寄与したことは否定できない。
なお,この点に関し,原告は,被告が原告の交際を助けた点については,直接利益に繋がるものではなく,経営者,財界人としての社会的責務を果たしたボランティア的なものに過ぎず,原告の財産形成に対しての寄与はまったくなく,むしろ経済的には損失である旨主張する。
しかし,その社会的責務は,成功者である経営者,財界人としての原告の地位に当然伴うものであること,それを果たさないことは,成功者である経営者,財界人としての原告の地位を脆弱とする危険性も否定できないこと,原告が,被告が社会的責務を果たすことを要請し,具体的な指示もしていることからすると,その社会的責務を共に果たした被告は,間接的には,原告の財産維持,形成に寄与していると解される。
イ しかし,他方,前記認定のとおり共有財産の原資はほとんどが原告の特有財産であったこと,その運用,管理に携わったのも原告であること,被告が,具体的に,共有財産の取得に寄与したり,A1社の経営に直接的,具体的に寄与し,特有財産の維持に協力した場面を認めるに足りる証拠はないことからすると,被告が原告の共有財産の形成や特有財産の維持に寄与した割合は必ずしも高いと言い難い。
ウ そうすると,原被告の婚姻が破綻したのは,主として原告の責任によるものであること,被告の経歴からして,職業に携わることは期待できず,今後の扶養的な要素も加味すべきことを考慮にいれると,財産分与額は,共有物財産の価格合計約220億円の5%である10億円を相当と認める。
10 よって,主文のとおり判決する。
東京地方裁判所民事第14部
裁 判 官 水 野 有 子